the farthest tomorrow3


 俺はベッドで目を覚ました。
 幾分新しい天井と、とっくに捨てたはずのポスター、棚に飾られた恐竜や、吊るされたビニールモービルなどを見遣る。
 二度目のタイムリープも無事成功したらしい。
 しんとした冬の朝。静寂に耳を浸せば、セントラルヒーティングの低い音が浮かび上がる。階下でママの足音。微かにテレビの音も聞こえる。
 電光表示の時計は九時を示している。誰も起こしに来ないところを見ると今日は土曜日のようだ。

 不意に、ガラスをひっかくような音が耳を打った。それには聞き覚えがある。俺はベッドから起き出して、窓の方へと歩いた。低い視点と短いストライド。
カーテンを開けば、案の定木の枝に腰かけたカイルが手を振っている。俺は急いで取っ手を引いた。
「スタン、おはよ」
 カイルは窓枠に飛び移ると、俺の腕に飛び込むようにして抱きついてきた。
「……おはよ、」
 俺は短く返事をして、カイルには聞こえないように唾を呑んだ。もう二の轍は踏まない。
「やめろよ、」
 まだ俺の背に回されている腕を解き、身をよじって突き放すと、カイルがきょとんとした顔になる。俺は慌てて言い足した。
「ゲイっぽいだろ」
 カイルは、そうだね、と言って笑った。
「はやく支度しなよ!みんな待ってるよ」
 意図しているところがわからず瞬くと、カイルは子供らしく頬を膨らませた。
「雪合戦するって言ったじゃん、忘れたの?」



 前回、カイルが俺を意識したのは何故かと尋ねたことがある。過剰なスキンシップと、無防備に彼の前で着替えたりしていたのがきっかけだと言っていた。
 だから今回俺は、ゲイフォビアを装うことに決めた。とにかく思春期をやり過ごさなければいけない。
 俺はフットボールに打ち込むことにした。決まった彼女は作らなかった。性欲が晴れるかと思って何人かと関係を持ったけれど、カイルとは違うということを思い知らされるばかりで、却ってフラストレーションがたまっただけだった。
 一人であいつを考えてしているときのほうが、よほど簡単に絶頂に至れる。カイルとのセックスの記憶が遠くなればなるほど、どこからが自分の妄想で、どこからが真実だったのかわからなくなる。そして今いるこの世界では、その二つの間に差なんかないのだった。

 特別な理由をつけずに誘いを断るたび女子には陰口を叩かれる。ストイックなやつだとか、口さがない奴はミソジニーだなんていう周囲の評価を、俺は甘んじて受け入れていた。

 カイルは俺の恋愛事情には興味を示さなかったので、俺は努めてその話題を避けた。俺たちはまるでクリーンな関係を築いている。
 「ゲイくさい」ことを徹底的に避け、十の年からフィジカルな接触を断った。ハイスクールにあがった今では肩さえも触れ合わない。
 それでも、何かあれば一番に話し、頼り合い、見る番組も食べるものも聞く音楽も共有し、空いた時間は一緒に過ごす。俺たちは誰よりも親しい。俺はひとまずそれに満足することができていた。


 フットボールのシーズンが終わるのを見計らったようにカイルに誘われて、カートマンの車でデンバーに来た。このところ忙しくしていたから、こうして四人で出かけるのも久しぶりだ。
 タイトルにナンバリングされた映画を見て、ファーストフードで散々に内容をこきおろして、モールを冷やかしたところでボーリングに行こうとカイルが言い出した。

 俺とカートマン、ケニーとカイルでペアを組んで一番隅のふたレーンを陣取る。
 カイルとカートマンはボールラックのところで、足もとにわざとボールを落としたとか落とさないとかでぎゃあぎゃあ言い争っている。俺はスコアディスプレイの向かいで、ベンチに置かれた箱から冷めかけたピザをひとつ摘む。
 前から思ってたけど、と前置いて、向こう隣に座るケニーが無感動に言った。
「スタンさ、時々遠いとこ見てるよね」
 どういうことだ、と視線で促せば、ケニーはストローを歯で齧りながら言い足す。
「この世界じゃないとこ見てるみたいな、何かと一人ぼっちで戦ってるみたいなかんじがする」
 なんでわかるんだ、と思わず言いそうになって、俺は口を噤んだ。
「わかるよ、僕も似たような身の上だから」
 ケニーはあまり真剣みのない顔で笑った。彼の意図するところがわからずに、俺は返事をしあぐねた。よもやケニーもタイムマシンでやり直しをしているわけでもないだろう。
 ケニーにも確かに、一人別のフィールドで生きているようなミステリアスなところがある。あれだけ女の子を追いかけまわして享楽的に生きているようで、ふとした拍子に悟りきったようなことを言い出す。
 俺が今一度彼の表情を見極めようと眉をひそめると、乱暴な足音が背後から近づいてきた。
「もうあったまきた、あの油樽。血栓詰まらせて死ね」
 ケニーの隣にどっかと腰かけたカイルが毒づく。振り向けばカウンターのほうに向かうカートマンの後姿が見える。多分またスナックの類を買い足す気だろう。
 カイルは置きっぱなしになっていた自分のスプライトを一口すすると、俺の顔をのぞきこんできた。
「そうだ、今度の土曜、ベーベのとこでパーティだってさ」
 ケニーもこちらへ身を乗り出す。
「たまにはスタンも付き合えよ」
 二人がかりで迫られて、俺は曖昧に頷いた。


 そもそもパーティは苦手だ。
 酔った勢いで言いよってくる女の子をいなすのも、チームメイトのバカ騒ぎに付き合わなきゃいけないのも、知り合いの知り合いを紹介されるのも、面倒くさいの一言に尽きる。家で映画のDVDでも見ていた方がよほど有意義だ。
 一気飲みでダウンした先輩の巨体をカウチに引き上げてやって、俺は大きく溜息を吐いた。まだ一時間も経っていないのに、もう俺はここに来たことを後悔していた。
 一番仲のいいチームメイトにだけアイコンタクトを取って、俺は人波を縫って階下に降りる。正面玄関では泥酔したカップルが座りこんでいちゃついていて、とても通れそうになかったので、俺は裏口に回るべくキッチンへと向かった。

 キッチンのドアを後ろ手に閉めれば幾分か静かになる。薄暗がりでも俺はカウンターに寄りかかっている人物を判別できた。トークンが片手を上げる。
「ハイ」
「スタン、飲み物は?なんか作ってやろうか?」
 隣のクライドに声をかけられて、俺は首を振った。
「ありがとう、でももう帰るところだから」
「まだ宵の口じゃん」
 苦笑いだけを返す。そのままフェードアウトしようとすると、さきほど入ってきたドアが背中で開いた。リビングのラウドビートが流れ込んでくる。
「見つけた!」
 はしゃいだようなその声音を俺が聞き間違う訳もない。
 振り向く間もなく、スタンだあ、というしまりのない声とともに、背中を暖かなものが覆った。
 こわごわ首を後ろにひねれば、よく見知った赤毛が視界の底をくすぐった。予想通り、俺に抱きついているのは誰でもないカイルだった。腹に回されたカイルの手にはほとんど空になったグラスが握られている。今にも落としてしまいそうなそれを慌てて取り上げ、俺は唸った。
「ばか、飲みすぎだぞ」
 酒が強いわけでもないのに。こんなに正体がないほどべろべろになっているのは初めて見る。
 俺は務めて平静を装いながら、カイルの腰に手を回して支えてやった。布越しの細いウエストと、頬を掠める赤毛が、俺のなかのコントロールできない本能を呼び覚ましてしまわないように、つとめて感覚を俯瞰する。
「送ってってやったら」
「スタン車だろ」
 クライドとトークンがなんでもないことのように言う。確かになんでもないことだ。親友であるならなおさら、ここで放り投げて帰るのもおかしな話だ。
 俺は観念して、ほとんど人事不省に陥っているカイルを抱えなおした。俺よりも七インチ小さいカイルは、ラグビーで鍛えた俺と比べると更に華奢さが際立つ。ほぼ抱き上げるような形で、そのまま裏口のドアを開けた。


 秋口とは言え夜になると外は冷える。
 スピーカーから流れる低いバスの響きとざわめきから離れて、隣家の敷地に半分はみ出して止めてある自分の車までカイルを運んで歩いた。
 ジンボのお下がりである、時代おくれの四駆は色気のないものだったけれど、別に女の子を釣りたいわけでもない俺にはこれで十分事たりている。
 後部座席のドアを開け、カイルを担ぎあげてステップに足をかける。シートに座らせるに至って、彼にしては薄着なのに気づいた。来たときはきっとジャケットか何かを羽織っていたに違いない。
「なあ、上着どっかに置いてきたんじゃないか?」
 俺がそう訊ねても、むにゃむにゃと呟くばかりで要領を得ない。
「カイル?」
 耳元に口を寄せるために上体を傾けると、カイルの腕が俺の首に回された。
「スタン、」
 うなじに当たる爪の先と甘えたような声は俺の動きを麻痺させるのに十分な力を持っていた。
 俺が身を引くより早く、カイルの柔らかな唇が俺の口の端にそっと触れた。心臓がぎしりと強張る。
 すぐに腕は、ずるりと俺の首元から逃げた。糸が切れたようにどさと座席に横たわり、顔を隠すように身体を丸める。ごめん、と言った彼の肩は震えていた。
「気持ち悪いよね、こんなの」
 茶化したように言おうとして、明らかに上手くいっていなかった。絶えたような沈黙。ふ、ふ、という苦しそうな呼吸の下から、半分裏返った声が届いた。
「死んじゃいたい、」
 凍ったようになっていた心臓が、どくり、どくりと耳元でがなりだす。
 俺は殆ど反射的に、覆いかぶさるようにしてカイルをかき抱いた。
 忘れかけていたカイルの体温がじわりと、砂漠に降った雨のように沁み込んでいく。乾ききった砂地は、いくら吸ったって飽和なんかしない。
 俺はため息を堪え切れない。長かった。これを俺はどれだけ望んだだろう。俺は自分も小刻みに震えているのをどうしようもなく感じた。

 ごめん、と囁くような声が言った。カイルの腕が、力なく俺の肩を押し返す。訝しく思って少し体を離せば、カイルは苦しそうに言った。
「スタン、ゲイ嫌いだから、」
 頬は涙で光っている。片手で口元を覆って、鼻をすすりあげる。
「嫌われたく、なくて」
 ごめん、と繰り返すカイルの声に、胸がばらばらになってしまいそうだ。俺は低く、やっとのことで言った。
「謝るな」
「好きになっちゃって、ごめんね」
 頭が割れそうに軋む。俺は振り払うように何度も首を振った。
「スタンは優しいね、」
 どこか諦めきったような、申し訳なさそうな呟き。
「違う、」
 俺は意識の外で叫んでいた。最後の理性までが爆ぜたようになった。
「もうずっと、お前に触りたくて、しょうがなかった」
 いきおい身を屈めれば目測を誤り、前歯が掠って鳴った。唇の柔らかい感触に感電したように背筋が痺れる。俺はカイルの口の中に、愛してる、と途切れながら零した。
「ん、う」
 カイルは身を引きつらせた。信じられない、と言いたげに開かれた唇を俺は自分のそれで再び覆った。強張った背中が力を失うまで、角度を変え、口蓋を撫ぜ、舌の根を探る。
 初めてのときみたいに、余裕なんかどこにもない。事実この体が彼と肌を合わすのは初めてなんだ。

 遠くでひときわ大きな歓声が聞こえて、ここがベーベの家の敷地内だったことを今更ながらに思い出した。身体を一秒でも放していたくなかったけれど、俺は息継ぎのついでに上体だけ起こしてドアを強く引いた。車体が勢いで軽く弾む。
 ドアを締めれば車中の空気は籠る。いつまでも消えない微かな火薬と獣の匂いは、けれどすぐに俺たちの熱気に置き換わっていく。

 小刻みに吐き出されるカイルの息は、アルコールを含んで甘ったるい。俺はカイルのカットソーを胸元まで持ち上げて、あらわになったそこに舌を這わせた。
「ひっ、あ」
 捩る身を押さえつけて、噛みつくようなキスを臍まで下していく。カイルの肌は夜目にも眩しいほど白くて、柔らかくて、俺に、俺だけに供された聖餐のパンみたいだった。
  臍のくぼみを舌でくじる頃には、カイルは泣きじゃくっていた。それが気持ちよさから来るものだと俺にはわかっている。確かめるまでもなく、カイルのペニス はジーンズの下で苦しそうに張り詰めている。俺はボタンを外しジッパーをおろして、彼のそれをボクサーの下から引っ張りだした。同じように自分の育ち切っ たそれも取りだす。
 腰をゆるゆると合わせれば、粘膜同士が触れて卑猥な音を立てる。目の前で星が飛んだ。俺は自分のそれと一緒に、カイルのそれを握りこんだ。ぬめって思うように行かないながらも扱きあげれば、絶頂が瞬く間に俺たちを捉える。
「あーっ、ああああ」
 俺の掌と、カイルの腹に撒き散らされた白濁を、俺は朦朧とした意識で集めた。他に潤滑剤になりそうなものも思いつかなかった。まだ余韻から抜け出せずに呼吸を乱しているカイルのジーンズを膝までひっぱり下ろし、胸に付くまで折り曲げさせて尻肉を開く。
  俺はゆっくりと、円を描くようにそこを探った。入口はわなないて、ぬめりを借りながら指を沈めて行く。二本が中で動かせるようになる頃、カイルがかぶりを 何度も振った。それは急かすときの仕草だったので、俺は靴ごとカイルのジーンズをみんな脱がせた。まだ慣れ切っていないと知りつつ、俺ははやる気持ちで裸 の膝裏を抱えた。
 先端を割り入れて、中のきつさに俺は呻いた。やはり潤滑にするには不十分だったようだ。
「痛いか?」
 カイルは首を何度も振った。俺のシャツの肩口を握りしめる拳は白くなっていて、嘘だと見抜けないほどの馬鹿じゃなかったけれど、それでも、俺にも、彼にも、やめるという選択肢なんかない。
「できるだけ力、抜いてろ、な」
  長く息を吐きながら、じりじりと腰を進めて行く。そのうち我慢がきかなくなって、最後の二インチは突き入れるようになってしまった。カイルは喉を晒して、 衝撃をやり過ごしている。ペニスに絡みつく内壁の温かさときつさは目も眩むようで、もういくらも持ちそうにない。荒い息の下から、カイルが囁いた。
「……れしい、」
「カイル」
 とてもじゃないけれど聞いていられなくて、俺はカイルの唇を塞いだ。カイルは確かに、嬉しい、と言った。
 今までに俺がこいつに付けた傷と、これから付けるであろう傷とを思って、俺は視界を曇らせる涙を押しとどめるのに腐心した。



  こうなったなら過去の失敗に学んで、ありうる限りのリスクを回避するべきだと思った。誰にも話さないし、友達以上の関係を疑われないように振舞う。特に、 カイルの家族に何も悟られないように。高校を卒業して家を出るまで、さらに言うならカイルが大学を卒業するまで、この関係を隠し通すことができれば。成人 した後なら或いは、俺たちはどうにかしてシーラに対しても辻褄を合わせることができるかもしれない。
 カイルは俺が二人の関係を隠そうとすることに引け目を感じているようで、それは俺の本意じゃなかったのだけれど、背に腹は代えられない。

 今のカイルも、前回とその前の時と同じく、天文学に興味を抱いていた。
  興味のある論文を書く教授がいるとかで、今度選んだ大学は、学部を選べば俺でもどうにかアクセプトされるレベルのところだった。俺に配慮したのかどうかは わからない。フットボールのおかげでスカラシップは取れそうだけれど、シェリーがニューヨークの大学に行ってしまったおかげで学費以外を親に頼るのは厳し そうで、バイトのかけもちを余儀なくされるだろう。
 それでも俺たちは、部屋をシェアして過ごす大学生活のことを、期待で胸をいっぱいにして語り合った。


 カイルの中に全てを吐き出して、俺は長い呻き声を漏らした。抱え込んだ腰が魚みたいに跳ねる。
「だめ、まだ」
 抜かないで、と掠れた声で懇願するカイルに、俺は従った。
 もともと対で作られているかのように、カイルの身体は俺のそれと馴染んだ。俺はずっと前から知っている。それは比喩じゃなく。
 俺たちは余すところなく一つになる。キスを落とす度にカイルが気持ち良さそうに漏らす声で、腹の底から際限がなく欲望が生まれる。
 繋がったところが、ぐず、と卑猥な水音を立てて、入口から先ほど俺の出した白濁をこぼす。潤滑に使ったハンドクリームの、シアーの香りは生臭いそれと混ざって、この上なくいやらしく俺の鼻孔をくすぐった。
「スタ、ぁん、ねえ……」
 甘えたようなカイルの声に煽られ、俺は腰を緩く揺らした。
 力を取り戻した切っ先でカイルが我を忘れるスイッチを探る。俺たちはお互いの鼻先に悩ましい溜息を吐き合った。


 がん、と、重いものがぶつかる音に、俺たちの背は凍ったように伸びた。それは取り落としたスーツケースが床で鳴る音だった。
 振り向くまでもなく部屋の入口には、コートを着込んだシーラが立っていた。二時間前に、空港に出立したはずの。
 廊下の照明に後ろから照らされて、カーテンを引いた薄暗い部屋に彼女の影が伸びる。俺は俺たちを覆う汗が急速に冷えて行くのを感じた。
 逆光でもわかるぐらいにシーラの顔は真っ白になっていた。低く、震える声が、針みたいな鋭さで鼓膜に届いた。
「どういうことなの、」



 どうやってリビングに移動してきたのか、まったく覚えていない。
 とにかく俺たちは服を着て、シーラを前に座っている。隣で俯くカイルの顔は真っ青だ。
 彼女の肩はいかり、目は充血していた。憔悴しきった声が掠れる。
「説明、してちょうだい」
 喉は何日も水を飲んでいないみたいにからからで、唾も上手く飲み込めない。沈黙に焦れたように、彼女はテーブルを叩いた。カイルの肩が跳ねる。
「できないっていうの? そうなのね? よくもカイルを誑かしてくれたわね!」
 俺は違う、と叫んだ。カイルの、膝の上に置かれた手を握る。
「違うんです、俺は、俺たちはいい加減な気持ちじゃなくて」
「いい加減な気持ちじゃないなら! 何で今まで黙っていたの! なんで私の留守に、あんなふうにこそこそ、私の息子に……!」
 シーラの声を遮るようにカイルが悲鳴を上げた。
「ママ、聞いて!」
「出て行って! 出て行きなさい!」
 火がついたようにテーブルから身を乗り出し、半狂乱になったシーラに腕を掴まれた。彼女の力なんて大したことないはずなのに、服越しに腕に食い込んだ指は万力みたいだった。

「二度と顔を見せないでちょうだい!」
 突き飛ばされるように押し出され、ドアは鼻先で閉まった。中から漏れ聞こえるシーラの金切声とカイルの啜り泣きを聴きながら、俺はその場に、幽霊のように立ちすくんだ。