ウェンディに頼まれてボランティア部の部室に模造紙を運ぶ道すがら、渡り廊下のところで俺の足は釘を打たれたみたいに止まった。 あの帽子を俺が見間違えるはずもない。フェンスに凭れ、木陰にケニーとカイルが二人で並んでいる。俺は慌てて建物の陰に隠れた。 二人きりだし妙に近い。ここからだと勿論聞こえないけれど、何やら話し込んでいるようだった。 ケニーが煙草の箱を差し出して、カイルがそれを一本摘む。カイルはめったに煙草なんか吸わないのに。 カイルがケニーのほうに上体を傾けるのが見えて、俺は心臓が止まるかと思った。思いきり身体を乗り出してふたりを凝視する。煙が立ち上るのが見えてやっと、火を移したんだな、と理解した。 ばくばくうるさい胸に片手を当てる。ここからだと重なって、まるでキスしてるみたいだったから。俺は遅れてやってきた得体のしれない怒りに、コンクリートの地面を踏みしめた。 二人が別方向へと歩き始めたのを見計らって、俺はケニーの進行方向へ回り込んだ。 通用口を入ってきたところを待ち構えて、 「何話してたんだよ」 掴みかからんばかりに聞けば、ケニーは返事の代わりに目を細めた。 「こそこそして二人で、煙草の火なんか移しちゃって、あんなのゲイだ」 「スタンのほうがよっぽどゲイだよ」 うんざりしたように言うものだから、俺は眉を吊り上げた。 「どこが!」 俺のどこがゲイだっていうんだよ。 ケニーは肩をしゃくって曖昧に笑った。めんどうくさいから話を切り上げたいというそぶりだった。 「カイルは友達だ。友達と二人でいて何がおかしいんだよ。ほら、今だってスタンと僕は二人だろ。どう違うんだよ」 俺は食いしばった歯の下から唸った。 「違う」 全然違う。俺とケニーと、俺とカイルは違う。 頭の中に熱源があるみたいにひりひりする。カイルが俺以外の誰かと二人きりでいるだけで、こんなに不愉快だと知った。 だってカイルは俺のスーパーベストフレンドで、スーパーベストフレンドっていうのはお互い二人以上作っちゃいけないんだ。 だからスーパーなんだ。 言葉を失って立ちすくむ俺を暫し眺めると、ケニーは無言で立ち去って行った。握りしめていた模造紙は汗で撓んでしまっていた。 モールの小さな紙袋をぶら下げて、俺はカイルの家へと急いだ。 結局今日はろくに口をきけていない。やっぱり昨日のことをまだ怒ってるんだろうか。 ドアベルを押したら中でシーラが何か言う声が聞こえて、ほどなく姿を現したカイルに、俺はほっとした。 「ハイ」 小さくそれだけ挨拶すると背中を向け、カイルはまっすぐに階段を上って行った。俺も早足で追いかける。 「カイル、」 部屋に二人きりになってもカイルは無言で、勉強机の前の椅子に腰かけた。表情は読めないけれど、少なくとも上機嫌じゃないことだけはわかる。腹の中がまたざわついてくる。 昨日のこと。カイルに怒鳴ってしまったこと、そのまま嫌がるカイルにセックスしたこと。 謝らなきゃ、と思う自分と、謝ることない、と思う自分がいた。 だって俺は悪くない。俺が悪いことなんか何にもない。俺と同じ立場になった時、誰だって俺と同じことをするはずなんだから。 意を決して唾を呑む。 「カイル、これ」 俺は紙袋から小さな箱を取り出し、カイルに手渡した。 「なにこれ」 「開けてみろよ」 促せばカイルは首をかしげながらも、フェイクベルベットで覆われた蓋を開いた。 「……なにこれ」 さっきよりも訝しげな声がもう一度聞く。 「フレンドシップリング。これとおそろい」 俺は自分の左手を掲げて見せた。 シルバーアクセサリーの店で、貯金をはたいて値の張るやつを買った。俺達の絆の象徴なのだとしたらそんなに安っぽくちゃいけないと思ったからだ。 俺はしげしげと眺めているカイルから箱を取り上げ、中身を取り出した。それからカイルの手を取って、俺と同じ指にはめてやる。指輪のサイズなんてわからないから、俺のものより一回り小さいサイズにしたのだけれどだいたいぴったりだった。俺は満足げに息を吐いて、念を押すように伝えた。 「なくすなよ。絶対。いつでも付けてろ」 彼と自分の手を見比べて、そこに同じものがはまっているのに、高揚と安堵とが同時に俺を訪れた。俺たちを結びつけているものがここにちゃんと、目に見えて存在して、そして強固に輝いている。 カイルもリングをはめた手に視線を落としている。 「……ありがと」 声のトーンはフラットで、喜んでいるようでも興奮しているようもない。 「高かったんじゃないの、こんなの」 やっと面を上げたカイルの目の色に困惑を感じとって、俺は大袈裟なぐらい首を振った。 「俺たち、スーパーベストフレンドだろ、特別だから」 俺は身を屈めると椅子に座るカイルの肩を両手でハグした。首と肩の付け根にすっぽり顔をうずめる。ふかふかした帽子の耳あてと赤いくせ毛が鼻先をくすぐった。 俺はきつく目を瞑って、アイラブユー、とカイルに伝えた。必要以上の意味が含まれてしまわないように、と思えば、声は震えた。 カイルはとうとう降参した、とでも言うように、小さく息を吐いた。 「怒ってる?」 躊躇いながら、囁くように尋ねる。 カイルは何も言わずに、俺の背中に手を回した。肩甲骨のあたりをぽんぽんと叩かれて、そこから自分が、ぐずぐずで無力な、ただの肉の塊になっていくような錯覚がする。 |