図書館は閑散としていた。僕は一番奥まったテーブルまで行き、窓際の椅子を引いた。 今は小説は読みたくない。感傷的になるような詩なんかもっと御免だ。読みかけになっていた監獄の誕生を繰って、著者が同性愛者だったことを思い出して僕は自分を嗤った。 もう文字を追う気がしなくなって、パノプティコンの図を眺めながら、僕は目を細める。 あれからスタンとは七回セックスした。 学校のトイレで、放課後のロッカールームで、スタンのベッドで。 僕にばっかりかまけて、他の女の子はいいのかよ、って聞いても、上手くやってるから大丈夫だとまともに取り合わない。 呼びだしのメールや電話を無視してると、家まで押し掛けてくる。ママは暢気に、ちょっと見ない間にかっこよくなったわね、なんて言うし、外面のいいスタンは感じのいい挨拶を返して、彼女の歓心を買っている。 でも僕は自分のベッドで抱かれるのが嫌だ。 スタンが僕を残して、バイ、と笑って、ドアが閉まるのを見るのが嫌だ。 僕は知っている。 彼は、じきに僕に飽きる。今は目新しいおもちゃを楽しんでいるだけだ。 ウェンディとスタンのタッグは年季が入っていて、いくら派手に遊んだってお互いのところに戻ってくる。彼らに本気になるほうがどうかしてる。 僕だって馬鹿じゃないから、自分に選択肢があることぐらい判ってる。 これが望まないセックスである限り、学校のカウンセラーに相談するなり、親に泣きつくなりすればいい。そうすればすぐにこんな関係は終わる。 でも僕はそれをしない。 この期に及んで、僕は彼に嫌われるのが怖い。 彼に嫌われて、彼を永遠に失くしてしまうのが怖い。 だってそれは、僕にとって世界の終りと一緒だったから。 だからきっと僕は、僕が壊れてばらばらになってしまうまで、この関係を続けてしまうんだ。 不意に首筋をつんとつつかれて、僕は飛びあがった。 「ひゃっ、」 部屋中から迷惑そうな視線がこちらに集まり、僕は自分の口を塞ぐ。振り向けば後の椅子に逆に腰かけた彼がフードの下でけたけたと笑っていた。 「なんだよケニーか。脅かすなよ」 「隠した方がいいんじゃない、それ」 彼は僕の襟もとを指さしていた。彼の意図が判ると頭に血が上った。僕はシャツの襟を合わせ、一番上のボタンまで留めた。 「情熱的なガールフレンドだね」 僕は首を振って唸った。奥歯がぎしと鳴る。 「そんなんじゃない」 へえ、意外。ケニーはそう言うと口笛を吹いた。 「カイル、そのへんは保守的だと思ってたけど」 「なんてことないだろ、あんなの」 僕は自分の足元を睨みながらうそぶいた。そう、なんてことない。ただの粘膜の接触だ。それだけ。 静かなビープ音が響いた。ケニーは胸元からスマートフォンを出して一瞥すると、人差し指で素早くテキストを打ち出す。 「彼女?」 「まあそんなとこ」 ケニーもシニアハイのパーティに出入りしているようで、ドラッグのディーラーをしてるなんて噂もある。 噂の真偽はともあれ、いつも別の女の子を連れて歩いているところを見るだに、女癖の悪さはスタンといい勝負だ。 「なあ、ケニー」 自分は何を言おうとしているのだろう。 僕はやぶれかぶれで、彼に言うのは八当たりだと知っていても、嫌味のひとつもぶつけてやりたかった。 「愛のないセックスについてどう思う」 ケニーはあまり間も置かずに応えた。 「愛?愛なら常にあるよ」 僕は吐き捨てた。 「日替わりのか?」 ケニーはさも面白そうに目を細めた。それからゆっくり僕に顔を寄せると、囁くような音量で、まだ僕らは愛に絶望するには早すぎる年齢だよ、と言った。 彼はこういうことに関してだけ酷く大人びているところがある。 僕はケニーを訝しげに伺ったけれど、彼は怯んだ様子もなくまっすぐに視線を返してきた。 130404 |