月曜日のカフェテリアはごったがえしていて、僕の頭は尚更軋む。 「どうかした?カイル」 隣に座ったバターズが遠慮なく覗き込んでくるのに、僕は少しいらついて顔を反らした。 「何が」 バターズは僕のランチプレートを指さして小首を傾げる。 「さっきから減ってないから。顔色悪いし」 子供のころと変わらない仕草が、今や大分成長した彼の身体では少し滑稽だ。僕はおざなりに、ありがとうと返事をした。 「食欲がないだけだから」 向かいの席のカートマンが口いっぱいにパスタを頬張りながら喚く。 「収容所からペストでも運んできたのかよユダヤ。くたばるのは勝手だが菌ばらまくんじゃねえぞ」 僕はカートマンがクリームソースを口から飛ばすのにうんざりしながら自分のプレートをこちらに引き寄せた。 「うるさい精神病質者」 相変わらずカートマンはサイコ野郎だしバターズはうすのろだけど、僕はこの二人と行動を共にすることが多くなった。 学校におけるカースト制度では一番下のあたりに位置することは承知の上で、けれど僕とストレスなく付き合えるのは事実彼らぐらいなのだった。 喧嘩早く短気で融通が利かず理屈っぽくて他人に厳しい僕の性格は、総合するとあまり社交的とは言えない。少しの間なら取り繕うことは出来ても、長い間一緒にいるとどうしても相手にプレッシャーを与えてしまうらしい。 スタンはほんとうに、僕の親友だった。スタンだけが僕のスーパーベストフレンドだった。 何も言わなくたってお互いに考えていることがわかったし、お互いの欠点は補ってかみ合っていた。彼と一緒だったからこそ僕は他のクラスメイトとも上手くやれていた。 それなのに、ミドルスクールに上がって、スタンは変わってしまった。 大人びた体つきと仕草、シニカルな笑い方。ウェンディとつるんで、シニアハイの連中に混ざって夜遊びをして、女の子を侍らせて、煙草の匂いをまとうようになった。 みんなが彼らの噂をするけれど、そこにはいつだって少なからず羨望が混ざっていた。それが大人に眉をひそめられるものだったとしても、彼らが僕らの年頃が憧れるものの全てを持っていたからだ。 免許も持っていないのに、派手なビンテージカーを乗り回しているのを見たなんて話も聞いた。 僕はどんどん彼が僕から遠ざかってしまうようで怖かった。 彼がトレードマークのニットキャップを子供っぽいと脱いで、一緒に過ごす時間が減っていくうち、僕の世界はどんどん軋みだした。何もかも上手くいかなくなってしまった。 僕の生活はスタンが居て初めて歯車が噛んで上手く回るものだったんだ。 だからあの日、スタンから電話があってとっても嬉しかった。まだ僕は彼の友達でいられたんだと思えば誇らしくって、彼が僕の隣に座って笑うのに心が躍った。 それなのに、あんな。 あの日のことを思い出すとろくにものが入っていない胃がきゅうと疼いて、僕は自分のお腹を押さえた。 考えたくない。みんな忘れてしまいたい。早く家に帰ろう。それからママの睡眠導入剤をくすねて寝よう。 廊下に人はまばらだった。ロッカーを開けて、使わないテキストを仕舞う。戸を閉めて遮られていた視界の半分がクリアになったとたん、すぐそばに立っている人影に気づいて、僕は息が止まるかと思った。弾む心臓をいなしながら、僕は彼を見上げて怒鳴った。 「んの、用だよっ」 スタンは悪びれない笑顔をこちらに向けている。半歩後ずされば背中はロッカーにぶつかって止まった。鉄がたわむ音がして、肩甲骨に鈍い痛みが走る。 「ちょっと付き合ってくれよ」 昔と変わりない気安さで手首を掴まれて僕は戸惑った。振りほどけないでいるとスタンは僕を引っ張ってすたすたと歩き出した。 コンパスの差のある彼に引きずられるようにしてついていく。あまり使われない昇降口脇のトイレに引っ張り込まれたところで、僕はやっとスタンの意図に気づいた。 信じられない。 「スタン!」 僕の抗議の声は乱暴に閉められたドアにかき消される。スタンの大きな手が僕の口元に押し当てられた。 「しーっ」 スタンは顔を寄せると、僕の耳元で言った。 心臓がどくん、と跳ねる。スタンは僕を脇に抱えるようにして、一番奥の個室に連れ込んだ。体格差で足が宙に浮いてしまうのに、僕は恐怖さえ覚えた。 個室のドアがスタンの背中で閉まる。がちゃんと鍵のかかる音。 スタンの目はらんらんとしていて、今にも舌舐めずりしそうで、得体のしれない哀しさで僕の胸はいっぱいになった。 後ろから抱き竦められて、僕はスタンの掌にくぐもった悲鳴を漏らす。掌はメンソールの煙草の匂いがした。 「んっ、んんっ」 「騒いだら人来ちゃうって」 スタンの左手が僕のシャツの裾を引っ張りだし、胸元まで潜ってきて、僕の背は無意識にしなった。 「ん、うゥ、んーっ」 肉付きの薄いそこを、掌が柔らかく包む。女の子と比べられてるみたいで恥ずかしさで目の前が真赤になった。スタンの指は遠慮もなしに僕の乳首をつまんだ。 「ン、」 とたんに鼻に甘い悲鳴が抜ける。僕は自分の声がねだるように響くのが信じられなかった。 「ここも感じるんだ」 痛痒いような、くすぐったいようなおかしな感触に、確かに快楽が混ざっていて、時折電流のような衝撃が腰に走る。 スタンがさんざん僕の胸を弄って、手が下半身に下された頃には、僕はパンツを汚してしまっていた。 漸く口を開放されて、僕は思いきり息を吸った。ぼうっとした頭で自分の動物じみた呼吸音を聞く。もう大声を上げる気力は残されていなかった。第一僕に助けを呼ぶつもりなんかあっただろうか? スタンは僕のベルトを外すと便座を跨がせ、トイレの壁に僕の腕を導いた。タイルは冷たくて硬かった。 スタンの節ばった指がアンダーウェアのウエストをくぐり、僕の、まだ力を持っているペニスと、ちぎれてしまうんじゃないかと思うぐらいに重く感じる睾丸をおざなりに撫で、その後ろへと回り込む。 金曜日に探られたそこはまだスタンの感触を覚えている。 いよいよ下着が下ろされて、性器が外気に晒された冷たさに僕は奥歯を噛んだ。 スタンは後ろで何やらごそごそとしている。不安で肩越しに伺えば、手にプラの容器を握っていた。 「ローション買ってきた」 目が合うとスタンは容器を掲げて悪戯っぽく笑って、僕はその表情に催眠術にかかったような気持ちになった。 ことさら荒くなる自分の息を忌々しく思いながら前を向いてタイルだけ睨んでいると、ほどなく指が僕の中に押し入ってきた。オイルの冷たい感触と、粘ってぴちぴちと鳴る音が僕の理性に爪を立てる。中をいじられればすぐに膝は笑って立っていられなくなって、スタンは僕の膝を便座に突かせた。ずリ下されたスラックスは脛のあたりで蟠って、僕はもう足を動かすことすらかなわない。 「力、抜いてろよ」 スタンは僕の背中にぴったりと寄り添い、子供に聞かせるみたいに言った。尻肉に押しあてられる熱の塊に、僕は肩を竦ませた。 「ん、ぐ、んうっ」 スタンのそれが僕のアヌスにみっちり嵌まり込み、中から僕を押し上げる。お腹が燃えるように熱い。広げられる違和感の下から、神経を鷲掴みにされているような快感が生まれる。 悲鳴を上げてしまいそうになって僕は自分のシャツに顔を埋め、二の腕のあたりを思いきり噛み締めた。 「なあ、俺らさ、」 スタンは僕の耳たぶを食みながら切れ切れに、身体の相性がいいんじゃないかな、と呟いた。 「だってこんな、なあ、すげえ、こんなの、初めてだ」 スタンは好き勝手に腰を使いながら、溜息を吐くみたいに言う。 前をいい加減に擦られて、後ろから力任せに突かれて。 なんで気持ちいいんだろう。僕は男なのに。女の子みたいにそういうふうに作られてないのに。 スタンが僕の耳のすぐ後ろで喘いで、感極まったみたいな声を漏らすたび、僕の身体は歓喜に震えて、裏腹に心はじくじくと痛む。息が止まってしまいそうだと思う。 トイレのアンモニアの臭いがつんと鼻に抜けて、その下から僕らの体液の匂いを嗅ぎ分ける。通風口の外からは放課後の部活動のさざめきが微かに聞こえる。トイレの蛍光灯は切れかけていて、ちかちかと瞬いている。 僕は今世界一惨めだ。そう思ったらもう枯れ切ったはずの涙が眼尻にあふれた。 |