例の星は思ったより小さな、というか辺境の、あまり交易のない星だったらしく、使えそうな外交チャンネルも見当たらなかった。局部銀河群の連合政府づたい にコンタクトを取るしかなくて、書類の整備だの手続きの煩雑さは相当なものだ。 近隣の星の医療機関にも手当たり次第問い合わせたけれどなしのつぶて。山崎を始め情報処理に長けたやつを選んで部隊を作り、電算室にカンヅメにさせている が今のところ芳しい成果は上がっていない。 正攻法で行くとなると数ヶ月はかかりそうだ。 初めは気丈にしていた近藤さんだったけれど、三日も経った頃になると、疲れが目に見えてきた。 元々ボディタッチの多かった彼だけれど、手だけだったのが腕ごとになり、今ではおれの体を抱えこみたがる。 暑苦しいといやな顔を向けても、悪い悪いとかわされるだけで離そうとはしない。 「だって触れるのがトシだけでさ、」 そう云われてしまうとおれも口を噤まざるを得なくなる。 近藤さんの目に見えている世界は想像しかできないけれど、曰くおれの他の全てが消えうせてしまっているのだ。どれだけ不安か、と思う。 一刻も早く戻してあげたい。それとは別のところで、ひどく身勝手なことを考える。 たくさんの連中に囲まれてお天道みたいに笑っていた彼が、今じゃおれがいないとなんにもできない。おれがいないと生きていることも出来ない。 まるで籠の鳥だ。 このまま無力にしてしまいたい、そんな昏い欲望がもぞりと頭を擡げそうになるのを、おれは忌々しく思って打ち消す。 がたん、と出し抜けに戸が開いた。栗色の頭。総悟だ。 身体を強張らせたおれに察知したのだろう、 「誰?」 近藤さんが聞いた。総悟はうつむいたままおれたちのところまでずかずかと近づき、おれを突き飛ばすと、近藤さんの前に膝を落として抱きついた。 おれは前のめってしまった姿勢を立て直して応えた。 「総悟だ」 「ここに?いるのか」 身体の前を指されて頷く。 「ああ。腹のところにひっついてるよ」 このへんか、と当たりをつけて、近藤さんは総悟の頭の辺りをすかすかとなでる。 目測はだいぶ誤っていた。 「ごめんな、総悟」 不安にさせて。そう云う近藤さんの声音は優しかったけれど、総悟は返事もしなかった。おれにはわかるけれど、きっとこいつの求めているものはこういう言葉 じゃないのだ。 おれなんかに表情を見られたくないだろうと思い、あさっての方向を向いてたばこに火をつけた。 総悟はしばらく近藤さんの胸に顔を埋めていたが、ふ、とため息のような呼気を吐いて身体を離した。離したと思うとこちらへいざり寄り、至近距離で睨みつけ る。一条の煙草の煙越しに、視線には殺気が篭っていた。 唇を開いて、発音できずにまた閉じ、食い縛った歯の裾から唸った。 「なんで、いつも、てめぇだけなんだ」 せりふが耳元でちりと、電流みたいに弾ける。 おれは舌も打てずに、射るような目から視線を逃した。 「ずりいんだよ、」 くそ、と捨て台詞を吐いて、総悟は立ち上がった。そのまま、入ってきたときと同じく荒い足取りで部屋を出て行く。 「どうした」 何も聞こえていないはずの近藤さんが、おれの表情に何か察したのかそう尋ねた。おれはなんでもねぇ、と首を振る。 総悟の軽い足音が遠ざかっていくのに目を細めながら、おれは近藤さんに表情を読まれないように横顔を向けた。 あいつの云うことも尤もだと思う。毒づきたくなる気持ちも分る。 今だって、彼に選ばれてここにいるわけじゃない。そう、おれはずるいのかもしれない。 090110 |