「はー。筆跡まで見事に同じね」 二人の近藤に書かせたサインを見比べて、武田が眼鏡のブリッジを上げた。 「てことは」 「仕事が二倍できるってことに」 おおー、と歓声が沸く。 今までは身体が一つだから出れなかった会議や行事などいくらでもある。腐っても局長、見回りの頻度が上がれば現場は引き締まる。要は影武者ができたようなものだ。 「じゃあ、早速二手に分かれてもらいましょう」 『お、おう』 「だ、だめだだめだ!」 近藤の後ろでまたたびをかいだ猫みたいになっていた土方が、急に膝立ちになった。 「近藤さんを離すこと罷りならん!」 法度を言い渡すときの口調だったものだから、山崎がとりあえず、といった体で理由を促す。 「…なんでですか」 「愛し合う三人を引き裂くっていうのか!」 土方のせりふを最後まで聞き届けず、場は散会した。 「ええと、じゃ近藤さん片方こっち来てください」 「おー」 「もう片方はこっちだ。道場で稽古つけてやってくれ」 「おっけー」 隊士たちがあらかた引け、がらんとした室内に座布団と残された土方は品のない舌打ちをした。 戸を蹴飛ばすように開け、煙草をくわえる。 「ふたりともひとりじめってわけにゃあいきませんぜ」 得意げな声音に出迎えられ、土方は頬をゆがめた。 自分を含め、ふたりいるならひとりよこせ、と思う人間は組の中にもいるはずだ。沖田は口角を上げる。 「いつまでもあんたの思い通りになると思ったら…」 「近藤さんである限り、おれのことが好きなはずだ」 科白を遮られ、沖田は珍しく絶句した。毎度の事ながら、この妙な自信が一体どこから出てきているのか理解に苦しむ。よほど志村姉のことをつっこんでやろうかと思ったけれど、どうせそれも浮気は男の甲斐性でどうたらと煙に巻かれるのがオチだろう。 ずかずかとした足取りで去っていく土方を見送って、沖田は忌々しそうに目を眇めた。 「だっめだ、日本語通じねぇ…」 風呂に続く脱衣所で顔を合わせたふたりの近藤は、互いに午後の出来事を報告しあった。 「やー、疲れた疲れた。とっつぁんも面白がっちゃってさ。そっちは?」 「こっちはずっと道場だったよ。新人の稽古を付けてた。みんなそれぞれ個性があって楽しかったぜ」 局長が二人いるというのは機密事項だ。同時刻に二箇所で映像などに記録されては困るため、外出の制限はあったが、確かに仕事は二人分がこなせている。長期に及べば破綻を来たすだろうが、短期間ならこれも決して悪くない。互いの額のこぶを見やりながら、近藤らはそう思った。 自分の部屋の戸に手をかけたところで、ふたりは悪寒のようなものに囚われた。 えいやとばかりに取っ手を引けば、案の定部屋の真ん中を占拠していたのは延べた布団とその上に座り込んだ土方。目はらんらんと輝いている。近藤らはグッと息を飲んだ。 ぽんぽんと布団を叩かれて、致し方なく端に腰を下ろす。 「だめだ!ひとりはこっち!」 位置を是正し、近藤に挟まれると、土方は膝頭に額をぶつけてもだえた。 「オ、オイ」 「トシ…」 心配そうな声にも介さず、土方は仰け反って、ぱたんと布団に上半身を埋めた。覗き込んだふたりの近藤の耳に、掠れた呟きが届く。 「、っち…」 『へ?』 下からぐわと土方の腕が伸び、ふたりの近藤をそれぞれ抱きこんだ。 「えっちしようぜ!」 『はぁぁ?!』 やれしよう!今すぐしよう!と意気込む、土方の鼻息は荒い。 ふたりの近藤は必死で土方の腕から逃れようともがいたが、がっちりと縫いとめられていてなかなか外れない。こんなときばかり腕力はマックスだ。 『こんな複雑な3Pとかムリ!ホントムリ』 ギブアップとばかりに畳を叩く。土方は話すら聞いていない。 「こっ、近藤さんがっ、前から後ろからおれを…」 脳内の妄想がヒートアップしているらしい。 「あーもうこのこは…」 ひそめた眉の下からちらと目配せをして、近藤らは土方に顔を寄せた。 『いいこだから』 ちゅ、と音を立て頬と額にそれぞれ口付ける。土方の身体がびくと硬直した。 「これでガマン…あれ」 「…気絶しちゃってる」 全身は弛緩し、ひくりひくりと痙攣している。下半身を改めるまでもない。耳まで茹で蛸のようだ。 布団を首までかけてやり、近藤はふたりでため息を吐いた。 080820 |