おれもあいつであいつもおれで・6


「ああわかったよ!」

何がわかったって云うんだ、とつっこむ暇もなく、トシは捨て台詞を吐いた。
「あんたはおれよりあいつのほうが大事なんだな!」

ああこれ、何度目のデジャヴだろ。軽いめまいを覚えたおれが顎を浮かすのと同時に、引き戸がすぱんと勢いよく閉まった。
「ちょ、待っ、」

「ここでおっかけるからダメなんですよ」
後ろから山崎の咎めるような声が聞こえたけれども、そんなこた百も承知だと思いながら、本能の赴くままトシを追いかけた。




部屋に篭城されると後が長い。どうにかトシの部屋の前あたりで腕を捕まえた。

「トシ、話を聞け」
低く窘めれば、トシは激しくかぶりを振って身体を捩った。
「だって、あんたが、あいつばっかり、」
尖った声に苛立つ。全く聞き分けのない。掌に力をこめると、また殴られると思ったのかびくりと肩が揺れた。俺はふうと息を吸う。殴る代わりに今度は諭すように云った。

「いいか、あいつとお前は同じ根っこから生えてるんだぞ」



甘やかされて育って、誰にも傷つけられることなく、世を拗ねることも煙草も血の味も知らないで年を重ねたら、きっとトシはああなっていたんだろう。

彼はトシの可能性のひとつなんだ。それがたとえダメな例だったとしても。
純粋さや優しさや、疑うことのない心はきっと、ひきずりこんだこの血腥い道で俺がトシからもいでしまったものだ。それを突きつけられるたびに俺は胸を衝かれたような気持ちになる。



刀を握る手に、掌を重ねる。
「どっちも大事な、トシだ」
眉間にぎゅうと力が込められて、睫が伏せられる。
それからおそるおそる上げられた視線がひたりと合う。俺の瞳を覗くと、トシはふう、と息を吐いた。
「こういうときは、世辞だって、お前だけ大事だって云うもんだぜ」

「…そうなのか?」
くくく、と喉を鳴らす。
「だからモテねーんだよ」
「ちょ、それは今関係ねーだろ」
憤慨して唇を尖らせればさも面白そうに口角が上がる。面白くねーよ。顎をふいと逸らせば、首に腕が回された。耳元で穏やかな声がささやく。
「まあおれは、そんなとこも嫌いじゃないけどな」

それから低く、ぼそりと云った。
「きっと、こいつも」
ちゃり、とトシの右手で鍔が鳴る。心なしか澄んだ音に聞こえた。





081114