それからのあいつらのヒートアップっぷりは云うに及ばず、というやつだ。 煙草を水没させたり、マヨネーズを生クリームに入れ替えたり、隠してあったDVDのコレクションを粉砕したり、コミケの申込書を破ったり、額に肉と書いてから煙草を吸ってみたり、と、小学生もかくやという低次元の争いを繰り広げ始めた。 「大丈夫か、箸止まってんぜ…」 俺の顔がよほどげんなりしていたんだろう、隣の席を引いた原田が、心配そうに覗き込んできた。テーブルにはカツ丼の乗ったトレイがおかれる。 さきほどもトシ愛蔵の特攻の○を燃やすために中庭で焚き火をしていたトッシーを発見して水をかけ、(それでも最初の二冊くらいは消失してしまった。初版だとかなんとか言って大事にしてたし、トシに見つかったときのことを考えるとまた頭痛がする)『やっぱり本体のほうが大事なんでござるか』とぐずるのをなだめすかし、昼休みのドラの音に助けられて食堂に逃げてきたのが三十分前。 時計を見上げて、俺は少しびっくりした。そんなに長いことぼんやりしていただろうか。確かに手の中のどんぶりはすっかり冷え切ってしまっている。 「お、おう」 空元気でガッツポーズを作り、どんぶりを抱えなおす。 勢いよくすすった蕎麦は思い切り伸びていて、ぶにっとした喉越しに思わずむせてしまった。 「あーあ」 呆れた声を出した原田が、備え付けの紙ナプキンを取って遣す。 背中をさすられて、優しさに俺はなんだか泣きたくなった。鼻から出てきそうな蕎麦を飲み込む。 総悟はさきほどから向かいの席で爪楊枝をいじっている。目が合うと、にたりと口角を上げた。 真昼間の屯所の廊下にしかれた眩しい白に、眉をひそめた瞬間後ろから羽交い締められた。 「わー、何すんのトシィィ」 「もうこうなったらコレしかないんだ、わかってくれ近藤さん」 膝裏を蹴られて前のめる。敷かれているのは布団。枕が二つ。枕元にはクリ○ックス。 「コ、コレって…」 問うまでもないであろうがひきつった声を出すと案の定、 「ハメ撮りだ!」 元気のいい答えが返ってくる。 「これを見せ付ければネンネのあいつは屈するに違いねぇ!」 いやな汗が額をだらりと伝う。こいつは本気でやる。 「もう退おムコに行けなくなっちゃう…」 布団の脇ではカメラを構えながら山崎が泣いている。一番人通りの多い廊下だものだから、みんなの視線がクギヅケだ。困惑したざわめきが四方八方から届く。 「み、みんな見てるでしょォ!」 あんまりなシチュエーションに悲鳴を上げるけれど、トシはちっとも怯まない。フンと鼻を鳴らすと 「みんなには生き証人になってもらう」 などとのたまう。もうだめだ、こいつもうダメだ。 おれは渾身の力を振り絞ってトシの腕を振り切った。 制服の前を合わせ、だん、と音を立てて踵を踏みしめる。 「いい加減にしろっ」 目を見開いたトシの肩がゆれる。そうだろう、俺がこんなふうにトシに声を荒げてみせることなんかめったに、少なくとも直近五年はない。 遠巻きにこちらを伺っていた隊士たちもびっくりしたのかざわめきが止まった。 「お前らがそうやってばかばかしい小競り合いをしている限り、俺はどっちとも口をきかん」 捨て台詞を吐くと背中を見せ、大またでその場を後にした。 角を曲がった厠の脇で、腕を組む総悟に駆け寄る。 「…今のでよかった?」 小声で尋ねると、総悟は歯を見せて笑った。 「上出来でさァ」 080904 |