「はいこれ、焼いてきました」 「お、おお」 ディスクを手渡されて、俺は掠れたありがとう、を吐いた。 AV機器に詳しい山崎に前回に引き続きメディアの移行を頼んで、頼んだはいいけれど、問題はこの二分弱の、中身、であって。 山崎も渋い顔で、ケースを叩く。 「…けど、ほんとにこれ見せるんですか?仲良くさせたいなら逆効果もいいとこだと思うんですけど」 編集してカットしてもらおうかとも思ったけれど、そうすると全部カット、てことになるからな。 「やっぱお前もそう思う?」 引きつった苦笑いを返すと、すぐ後ろから能天気な声が聞こえた。 「あっ、それー」 「わ」 うわさをすれば何とやら。アニメ情報誌を小脇に抱えたトシが、俺と山崎の間に割り込んできた。 「本体からのお便りナリか?」 「う、うん…」 目ざとく手元を覗き込まれて、俺は曖昧な返事を返した。 ぶっちゃけ見せたくないんだけども。 「わーい、楽しみでござる!」 制止するまもなく俺の手からケースを取り上げ、副長室へまっしぐら。 はしゃぎながらデッキの前に座り込むかれを追いかけて、俺も斜め後ろの畳に膝を落とした。山崎はふすまの陰からそっと伺っている。 オタクらしい手馴れた動作でディスクをセットし、リモコンを操作する。ほどなくしてブラウン管にどアップのトシの、皺の寄った眉間が映った。 ちょ、ちょっと離れて。上ずった俺の声がスピーカー越しに届いて、ようやくズームアウトしても、トシはメンチを切ったまんま。ヤンキーのケンカじゃないんだから。(ちなみに撮影していた俺だってこの迫力に及び腰だった) 『オイ、このオタクヤロー』 地獄の底から這うような、ドスの効いた声。 何を言い出すかと思えば、これ。 『いいか。耳かっぽじってよく聞け。近藤さんはおれのモンだ』 画面にじりじり迫ったかと思えば指を突きつける。 『成り行き上相手してやってるだけで、近藤さんは貴様のことなんざ小指の先ほども好・き・じゃ・ね・ェ』 嫌味たっぷりに、字ずつ区切って発音する。フンと鼻で笑うと、仰け反って腕を組んだ。 『ちょっとくらい優しくされていい気になってんじゃねーぞ、この、』 たっぷりタメて、スピーカーがハウリングを起こすくらいの罵声。 『ぶすッ』 なんかもうどこからつっこんでいいやらさっぱりわからない。おれは頭痛を感じて額を覆った。映像はブツンと切れて静寂が戻る。 ぽかんとしているであろうトッシーに、何かフォローを、と肩に手をかけ、振り仰いだかれにぎくりとした。 「近藤氏!なんでござるかこれは」 眉が釣りあがっているものだから、一瞬本体のトシのほうかと思ってしまった。 「あ、うん?」 語尾は変わってないからトッシーだ。でもこんなにけんか腰のトッシーは初めて見る。 「なんでこんなこと言わせとくナリか?」 「ええと、その」 そりゃいきなりこんなふうに身に覚えのないケンカを売られたら腹も立つよな。俺は弁解も出来ずに唸った。やっぱり見せなきゃよかった。 とにかく宥めようと正面から覗いたかれの目は、心なしか潤んでいた。 「近藤氏はあいつのものなんかじゃないよね?」 あれ?なんだか雲行きが。 「あいつなんかより、僕の方が好きナリよね?!」 瞬きをした俺と、背後の山崎の頭上には、でっかいクエスチョンマークがみっつほど浮かんでいたに違いない。 080812 |