おれもあいつであいつもおれで・2


ガーピー云う雑音。砂嵐が延々とブラウン管を占領している。
やっと画面が明るくなったと思ったら、アホ面の男がぽかんと口をあけてこちらを見上げている。認めたくはないが入れ物はおれだ。表情が違うだけでこれだけアホに見えるのかと、おれは黙って顔をゆがめた。

『もうコレ映ってるでござるか?』
こちらに向けてひらひらと手を振り、たぶんカメラのこちら側にいるであろう近藤さんに上目遣いで尋ねる。かわいくねーんだよクソが。

エヘンと咳払いをひとつして、しまりのない笑顔で放言した。
『チャオ!土方十四郎でござる』

「…殴っていいか」
早速ブラウン管を粉砕したい。握りこんだ拳を近藤さんが諌めた。
「まあまあ落ち着いて」
灰皿を勧められ、胸ポケットからソフトケースを取り出す。渋々銜えて火をつける。

『趣味はァ、アニメ鑑賞とォ、フィギュア集めとォ、』
剣呑な雰囲気のこちらに構わず、画面の中のそいつはマイペースに自己紹介を始めている。空気を読め空気を。

『いまアツイのはまクロスでござるな!ラんカたんがかわゆいのなんの』
眉を思い切りひそめる。
なにを喋っているんだか全くわからない。羅列されるカタカナ語が、単語という以外は意味不明だ。
「なんかアニメの話みたい」
近藤さんが小声でこそこそと、フォローにもならないフォローを入れてきた。知るか。
滔々と語られるアニメ語り。誰誰が萌えるだの、何々の作画が神だの、心底どうでもいい内容が続く。とにかく語尾がホント腹立つ。
フィルムの中の近藤さんもいい加減痺れを切らしたらしく、そのへんで、と、逃げ腰のストップが入った。

『じゃあ何を話せばいいでござるかぁ?』
きょとんとしてカメラを見る。舌っ足らずな口調も、ここまで来ると計算でやってるのかという気分になってくる。かわいいとでも思ってるのかよ。キモイだけなんだよ。

「えーと、今日あったこととか」
『ええっとォ、今日はァ、』
近藤さんに促されて喋り始めたのは、昼飯に何を食ったとか(マヨネーズもかけないだなんて味覚障害に違いない)総悟に不意打ち食らわされて怪我したとか(どんだけどんくせーんだ)、脈絡も他愛も無い内容。
銜えた煙草から長い灰がぼたりと落ちた。

イッライラしてくる。たたっ斬りたい。
お前らがお互い分かり合えるように、なんて云う近藤さんの意向で始めたビデオレターだけれど、そもそもおれはこんなやつと分かり合いたくなんかない。こんなクソオタクのかったるい話なんか聞いても時間の無駄だし、おれの体がやってると思うと不愉快極まりない。殺意だけが募る。

話の流れで、その後は総悟へのグチばっかりになった。
『モノを隠したり、罠にかけたり、いきなりどついてきたり、とにかくいっぱい意地悪するんでござる』
おれは生まれて初めて総悟によくやったと云いたい。心の中で親指を立てていると、走査線に映し出されたあいつはふにゃりと目じりを下げてしまりのないツラになった。

『でも、近藤氏がついててくれるから大丈夫でござるよ!』


びしりとこめかみの辺りで血管がぶちきれた音がした。
ほー。わかった。よーくわかった。

「な、トシ、こっちも悪い奴じゃ」
おれの肩に手をかけようとした近藤さんが、おれの顔を見てヒッと小さく声を上げた。多分般若のようになっていたんだろう。
そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがある。売られたケンカは必ず勝つぜ。




080713