ミルキージャンク・2


トシ達の巡回組が戻ってきたと聞き、俺は玄関まで早足で駆けた。
がやがやと一団が靴を脱ぐのを柱の陰で見送って、最後尾の原田に小さく手招きをする。

「どうだった」
原田も口の横に手を沿えてぼそぼそ話す。
「冷や冷やしましたけど、どうにか大丈夫っした」
数名で囲むようにしていましたから、傍目にも気づかれてはいないと思うっス。
そう云って軽く肩を竦めた。
「立ち居振る舞いもそんなに変わんないッスからね。良くも悪くも」
俺はほっとして上半身から力を抜き、そのまま頭を垂れた。
「すまんな、有難う」
「いやいや」
局長こそほんと、お疲れッス。気遣ってくれる原田に、俺は精一杯の笑顔を向けた。

結局午前中いっぱいかかって宥めたりすかしたりしたが平行線だった。トシはそんな俺を振りきりたいのか仕事に行くと云って聞かないので、午後から監視に原田を付けて見回りに行かせた。
明日も朝イチでまた説得しに行かなければ。こんなこといつまでも続けるわけにはいかない。




今日は一日心の安まる隙がなかった。
肩を鳴らしながら歩く廊下で、俺の部屋から不審な光が漏れているのに気づいた。
豆電球くらいの、薄いピンク色の灯り。
厭な予感がマックスでする。粗方見当が付くのが更にいただけない。

「おかえり、近藤さん」
戸を引き、心なしか弾んだ声に迎えられた俺はぎし、と固まった。
案の定不法侵入していたのはトシだったけれど、その格好は想像を絶していた。
「見ろよ。かわいいだろ」
透けた素材で出来た黒いベビードール、ピンクのリボンが胸元にあしらわれている。
トシは裾をつまんで、得意げに腰を捻ってみせる。
ちくび。ちくび透けてる。俺は思いきり動揺して両手で顔を覆った。
「おおおおま、何考えて…」
ご丁寧に後ろには布団までのべてある。枕元にはなんだかいかがわしいハート形のランプ。
どもりながら抗議をするけれど、話がてんで通じない。
「喜ばねェの?近藤さんこういうの好きだったじゃねぇか」
確かになんかそういう類のえろ本持ってたかもしれないけども…って何で知ってるの?
トシは俺の腕をぐいと引っ張り抱いて、身体をおしつけてきた。
体温が密着して、俺は全身がちがちになる。
見た目はあんまり変わらないと思ったけれど、確かに女の子の身体だ。筋肉の上に乗った脂肪が、不安になるほど柔らかい。
そりゃあ首から下には大いに興味がある。それ以上押しつけられたらやばい。ズボンの前が段々窮屈になっている。
それでもトシの顔で、トシの声を出すこいつと、セックスなんかできやしない。

目をぎゅうと瞑って頭の中で念仏を唱えていた俺の首に、トシが腕を回した。
わっと思った瞬間、唇が柔らかいもので塞がれる。キスだ、と思い至って呆然とした。
胸板に当たる弾力のある感触。うすものの擦れる、淫靡な手触り。
一瞬真っ白になってしまった思考を取り戻して、俺は顔を捩って唇を離した。
トシは唇を半開きにしたまま不服そうに見上げてくる。鎮まれ俺の雄。

しばしの牽制の後、トシは俺の手首を掴んで、ぐいと下に降ろした。
ぷちゅ、と水音が立って、俺は初めてどこに手を当てられているかがわかった。
「ト、トシ!」
腕を強張らせて離そうとするけれど、トシはふ、と息を吐いて俺の肩に頬を擦りつける。
「な、近藤さん」
濡れた感触。指先で布越しに形がくっきりわかるくらい、ひたりと貼り付いている。どんどんと溢れる蜜の下で、媚肉がひくりとわななく。
トシは俺のぎこちない動きに合わせて気持ちよさそうな鼻声を漏らす。
「すごい…こんなになるんだ、女って」
荒い息の間からうわごとのように云われて、頭の芯でぷつんと何かが切れた。


「もう、知らねェかんな」
喉でうなって、布団にトシを押し倒した。
うすものを捲り上げて乳房にしゃぶりつく。下着の裾から手を這わす。

「ひゃ、う、う」
ぬめる感触、びちゃびちゃに濡れた掌とそこの間に空気が入るとこれ以上ないくらい卑猥な音が立つ。肉の襞をかきわけて陰核を軽くひっかくと、トシの身体ががくんと崩れた。
潤んで虚ろな目、上がりきった息。どうやら達してしまったらしい。
愛液は膝まで伝っていた。脱力しきった腿を抱え上げる。

屹立をそえると、滑りに任せてぬぐぬぐと侵入を始めた。
「あァー、」
甘ったるい悲鳴が掠れて、入り口の締め付けに俺の喉からも声が漏れる。
濡れて絡みつく、中で収斂しているのがわかる。どこまでもずぶずぶと飲み込まれてしまいそうだ。蜜の中を掻き回しているみたいな錯覚。
「んんー、ッ」
俺の動きに合わせて途切れる声、たぷたぷと撓む白い乳房。腹の下から、水たまりを打つみたいなひどい音。
「あ、は、ゥ、」
掌の中でがちがちに痼っているの胸の飾りを、潰すように握る。
「きもち、い、」
涙混じりに喘がれて、快楽に目が眩む。
あられもないトシの声を振り切るように腰を打ち付ける。

やばい、と思ったときにはもう、最奥に思う様叩きつけてしまっていた。





太陽の日差しが黄色い。
俺は攣るような瞼をひくひくと動かした。
ぐしゃぐしゃになったシーツと、俺の斜め左下方で寝息を立てるトシ。

やってしまった。がっついてしまった。お代わりまでしてしまった。
食べてはならない据え膳だってこの世には存在する。

「ん…」
衣擦れの音と身じろぐ身体。俺はそっちに視線を遣らないようにしながら布団を首までかけた。
これトシが目覚めたらどうなっちゃうんだ。結婚?夫婦?戸籍は?真選組は?ああ死んだ祖父さんに何て云えば。責任?切腹?介錯はこいつ?
頭の中をぐるぐると不穏な単語が回る。俺は今数人で俺をタコ殴りにしたい。


「局長ー!」
廊下を間隔の短い、音を立てないように訓練された足音が渡ってきた。山崎だ。
「な、なんだ」
できるかぎり動揺を出さないように低く答えると、足音は部屋の前で止まり早口が続いた。
「駅前の銀行で立てこもりが。回天党が絡んでるらしく…」
「何だと。わかった、今行く」
手元の制服を握り膝立ちになると、障子がガタリと音を立てた。

「お邪魔しますよ、ところで副長は…」

「わーちょっと入ってきちゃダメ!」
「ん…?何だァ」
俺の後ろでやっと目を覚ましたらしいトシがむくりと身を起こす。
手を体の前でタンマにしている俺とトシを見比べて、ひきつった山崎の顔には、確かに『ご愁傷様』と書いてあった。


071021