キャンディシュガー・5


不意に俺の肩を押さえる手に力がこめられる。
「…ちゃんといるよ」
俺が衝かれたように顔を上げると、かれはとん、と、自分の心臓の辺りを指した。
「ここに隠れてるでござる」
「…わかる、のか」
呆然と俺が問うと、目尻を下げる。
「同じ身体に入ってるんだから、何を考えてるかくらいは、わかるナリよ」


「僕ばっかりに云わせて、ずるいんだ」
俯いて頼りなく笑う、瞬間くしゃりと顔が歪んだ。
「…トシ、」

一瞬かれが泣き出しそうに見えて、胸がずきんとした。
前髪越しに覗く、眉根を寄せた表情はトッシーのようでもあり、トシのようでもあり、どっちだかわからない。
でもどっちだったとしても、こんな顔をこいつにさせちゃいけないと思った。

頭より先に手が伸びていた。
思うさまかき抱いて、一回り薄い胸板を腕の中にすっかり収める。
何て。俺は何て言えばいい。


出し抜けにかれが身体を捩って離した。おおよそ不器用な所作だった。
けれどこれはトッシーじゃない。
「くるしい、」
喉笛を晒して喘ぐから、肩を押さえて頬の辺りで聞く。
「どうした、どっか痛くしたか」
「苦しい」
かれが握り締めた拳を押さえるのは自分の胸のあたりだった。

「、いやなんだ」
掠れた声で頭を振る。
「近藤さんを好きなのも、好きで苦しいのも、痛いのも」

「こんな気持ち、いらないのに」
涙で顰められた端正な顔。
こいつがこんなに辛そうに泣くだなんて、俺は知らなかった。


「なあトシ」
輪郭を両手で挟み、ぐいと引き寄せる。真っ赤に紅潮した頬が、涙のせいか思いのほか冷たい。
鼻先で噛み付くみたいに、云った。
「トシ、聞け」

真正面から覗き込むと、トシは小さく息を呑んだ。

「お前だけは泣かせたくない」
トシの泣き顔を見たとき、それが俺のせいだと判ったとき、むせ返るみたいな罪悪感と、身を焼くような居た堪れなさに襲われて、息が止まるかと思った。
トッシーのいうような砂糖菓子みたいな恋じゃないかもしれないけれど、それでもこれだけは確かだ。

「俺の一番はお前なんだ」

「…そだ、」
「嘘じゃねぇ」
顔が逃げたがるのを捕まえる。

「俺も、おまえが好きだ」

喉が嗄れるまでだって云ってやるから、だから、
「笑ってくれよ」

涙を拭ってやると、トシは少しだけこちらを仰いだ。
ひくひくと眉間を引きつらせて、おかしな瞬きをして、
それから笑おうとして失敗したような顔になった。
それを俺は愛しいと、腹の底から思った。





「こっち向けよ」
うなじに口付けながら云うけれど返事がない。
耳の後ろまで真っ赤にして、肩はひとつひとつの刺激に面白いくらいに反応する。
恥ずかしくて俺の顔を見られないのか、トシはずっと背けている。
三人目を相手にしてるみたいだ。くすりと笑った俺を、トシが真っ赤な目尻で恨めしそうに睨んだ。でもそんなに潤んでたら全然怖くない。
俺は後ろから回した腕で、抵抗がないのをいいことにどんどん着物を暴いていく。


下着越しに形をなぞり、袋の裏から撫で上げる。息が上がっていくのに調子付いて竿全体を少し乱暴に握ると、腰が弓みたいにびくりと撓った。布越しの濡れた感触。
「あ、…」
びっくりして肩越しに覗き込むと、案の定零してしまっていた。
自分でも驚いたのか、トシは口をぱくぱくさせていた。
「いいよ、いっぱいイけば」
首を竦めて、また口をぱくぱくさせた。きっとバカといいたかったんだろうなと思う。

トシが怯んだ一瞬の隙を突いて、体勢を反転させて押し倒す。
往生際悪く身体を捻って、腕で顔を隠している。
「なあ、いい加減顔見せて」
天邪鬼よろしく必死で顔を反らそうとするのに、肘の辺りに唇を何度も落とした。
「キスしたい」
ひくと揺れた肘が酷く緩慢な仕草で下ろされ、俺は漸く口付けをゆるされた。



俺の膝に乗り上げるように上体を起こし、首に手を回させる。
前戯で既に何度か達しているトシの足は笑ってしまっている。
腰を支えながら蕾と性器の位置を合わせる。粘膜の感触に感じ入ったのだろう、首の後ろに回された手がシャツの襟を握りなおした。
「入れるぞ、」
急く欲望に後押しされて、ぐず、と粘膜に潜っていく。
ひ、と息を詰める声。
中は熱くてきつく、それでも中へと誘う。
腰を支えて、突き上げるように動く。浅い抽挿から、だんだん奥へと割り裂くように。
トシのものも律動にあわせて扱き上げれば、またすぐに手の中で弾けた。
「ん、う、ッ、」
トシは声を抑えながらも、気持ちよくて堪らないのかしきりにかぶりを振る。
汗ばんだ肌と、腿のほうまで伝う粘液、あられもない水音。
俺はトシの耳の中に舌を這わせながら、回路が焼ききれそうな熱に飲み込まれていた。






「ちゃんと身体拭かないと風邪ひくぜ」
布団の塊みたいになっているトシを、上からぽんぽんとたたく。
返事がない。
「おい、トシ、何拗ねてんだ」
今度は中からもごもごと声がした。
「拗ねてない」
「嘘吐け」
ほら、おにーさんが拭いてやるから出てきなさい。引っ張ったら、布団の端から目だけが覗いた。
「…泣かしたくないって云ったくせに」
などとぶつぶつぼやくものだからおかしくなった。
「あれは別」

今度はうつ伏せにつっぷしたトシの、真っ赤な耳に、適わねぇな、と思った。



071008