SWITCH・4



寝れば治るといって部屋を締め出されては仕方ない。舌を打って隣の自分の部屋に戻って、下着を脱いで浴衣を羽織る。クサクサしたので一服したら布団をかぶった。隣の部屋では山崎と近藤さんがぼそぼそ会話しているようだった。
なんだか胸騒ぎがして寝付けない。どれぐらい経ったころだろうか、俺は寝るのを諦めて布団を跳ねのけた。
「近藤さん?」
壁越しに声をかけたけれど返事がない。壁に耳をそばだててもいびきが聞こえない。
おれはいよいよ訝しく思って立ち上がり、近藤さんの部屋に向かう。
「入るぞ」
ふすまを引けば布団はもぬけの殻で、近寄ってみればすでに冷たくなっていた。シーツが新品に代えてあるのも気になる。
こんな夜中にどこに行ったんだ。

続き間へのふすまはあけっぱなしで、その先には山崎のものと思われる布団が畳まれている。

懐からモニタを取り出し、すぐさま近藤さんの携帯電話に仕掛けた簡易GPSをチェックすると、ちかちかと点滅して示したのは屯所のこの部屋だった。置いて行きやがったらしい。
もはや嫌な予感しかしない。おれは急いで着替えに戻った。

やっぱり発信機は体内に埋め込まないと駄目だ。ぶつぶつ言いながら夜間も開けている事務室に急いだ。パトカーのキーはここで一括管理している。
足でドアを蹴り開けて夜勤の隊士にすごむ。
「オイ、近藤さん見なかったか」
隊士はおれと、壁にかかったキーを交互に眺めて目線を泳がせた。
「へ、さっき顔色変えて山崎と一緒に、」
俺はその間抜けな横っ面をぶん殴りたい衝動に駆られながら怒鳴った。
「キーをよこせ!」

パトカーのドアを開け乗り込むと、乱暴にアンカーからシートベルトを引っ張った。力任せにエンジンをかける。
ひとまずはあの女の道場へとハンドルを向けた。不愉快だけれど近藤さんが何かアクションを起こすならあそこの可能性が高い。

記憶が一部失われたなどと言っていたのもひっかかる。帰ってきたときから様子がおかしかった。
具合が悪いようなので火照る身体堪えてひっこんでやったってのに、あの女に夜這いにでもいくつもりじゃねえだろうな、そんなことしてみろ、許さねえぞ。

道場の壁に横付けして、勢い込んで門をくぐる。この時間に電気が付いているうえ中はなにやら騒がしい様子だった。門戸も家屋の戸も開きっぱなしだ。
「邪魔するぞ」
返事を待たずにあがりこみ、土足で廊下を歩いていけば茶の間のふすまが開け放しになっていた。

中ではボコボコにされたメガネが倒れていて、その脇に近藤さんが膝をついていた。
オイ、と低く声をかけて腕を組む。
「こんなとこで何してんだ」
すごむように睨めば、近藤さんは肩をびくんと竦めた。部屋の奥にはお妙が腕を組んでいて、山崎も後ろに控えている。色っぽい雰囲気じゃないことだけは確かだ。既にシメられ済みってことか?それにしちゃなんでメガネがボコられてるんだ?

「おーお、お早いお着きですこと」
玄関からカンに障るのんびりした声が聞こえてきて、おれは振り向いてぎんと睨んだ。万事屋の白髪とチャイナがこちらに近づいてくる。
「靴ぐらい脱ぐアルよ、しつけがなってないマヨラーだナ」
「なんでてめえらまでこんなとこにいるんだ」
おれは威嚇するように唸った。
「やっぱりこういうことになったか。姿が見えないと思ったら」
「あれぐらいのイビリで家出なんて堪え性のないゴリラある」

こいつらが何を言っているのかよくわからない。そもそも相手にする気もない。
おれはメガネを助け起こすようにしゃがんでいる近藤さんの手を強引に掴み、引っ張った。
「帰るぞ!」
けれど近藤さんの身体はびくともしない。睨みつけるけれど近藤さんは目を残念そうに眇めただけで、肩を落とした。
「もう誤魔化すの無理ですね、」

ふう、と溜息を吐かれて、おれは言いようのない不安に囚われた。その振る舞いがおれの知っている近藤さんのどの仕草とも違ったからだ。

「どういうことだ、近藤さん」
おれは近藤さんの襟首を掴んでこちらを向けた。問いただせば、鼻先で近藤さんが目を伏せる。
「近藤さんじゃないです」
「は?」
「だから、僕志村新八なんです。入れ替わってるんです、僕ら」
おれは瞬きを繰り返しながら、ふたりを交互に眺める。
近藤さんなのに、メガネ。それであっちのメガネが、近藤さん?







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