CHEAP・3



着物を脱いでふたり布団で向き合って、薄闇で近藤さんの肌がぬれたように光るのを見たら、もうそれだけでのぼせあがってしまった。
頭ががんがんと痛い。張りつめすぎて痛いぐらい反り返った下半身を持て余す。リードされるままに彼の背中にのしかかり、指に添えられた場所に切っ先をあてがう。
そこは軟膏のぬめりで柔らかく、粘膜が触れただけで溶けてしまいそうだ。繁みの奥、肉色を認めたせつな、ずるりと奥まで入ってしまって、おれは息をのんだ。
取り込まれたところが燃えるみたいに熱い。びりびりと頬に走る快楽に、歯を食いしばっていないとすぐにでも気をやってしまいそうだ。
「、痛く、ねえの」
なけなしの理性でそう聞けば、近藤さんは鼻にかかったような声を出す。
「う、ん、平気、」
ふう、と長い息を吐くと、近藤さんは視線をちらりと寄越した。
「いいよ、動いて」
促されて勝手も分からず、どっしりとした腰を抱える。
快楽に従順に二度、三度、打ち付ければ、かれの中はうねって蠢き、喉からは情けない喘ぎ声が漏れてしまう。もういくばくも我慢できそうにない。
「う、あ、」
中で出しちゃまずい、と腰を引く間もなく、おれは彼の内部に埒をあけてしまった。

射精の瞬間、耳鳴りがきんとした。気を失ってしまうかと思った。
力を失ったおれの器官がずるりとかれから抜け、布団にぱたぱたと雫が垂れる。その音すら遠い。閃くような快感はひどい残像を焼きつけて、まだ視界がショートしているみたいだ。
彼に体重をかけないようにと、笑う膝を必死で立てた。まるで身体に力が入らない。

近藤さんは上半身をひねって起こし、よろけたおれを抱き寄せた。汗ばんだ胸板同士が密着する。

「へへ」
汗ばんで張り付く前髪を、大きな手がそっとすくい上げる。
「トシ相手だと照れるな。気持ちよかった?」
目交いでその表情は、道場で打ち合いを終えた時のそれと何にも変わらなかった。そう思ったら体を覆っていた興奮が引き潮のように醒めた。そして早鐘のような鼓動の下から、じくじくと心臓の痛みがせり上がってくる。おれは咽てしまいそうになった。

このひとはこんなことで征服されたりしない。何も変わらない。
そんなことわかっていたはずなのに。おれはまたこのひとを見失ってしまっていた、そう思えばやるせなさとふがいなさで胸がふさがる。


いぶかしげにひそめられた近藤さんの眉が、視界ごとぐにゃりと歪んだ。
「どうした、」
頬をぬぐわれて初めて、自分が泣いているのだと知った。

嗚咽が喉を衝く。
近藤さんはうろたえておれの肩に着物をかけ、どうした、どこか痛いのか、とおれの背を撫でる。それがさらにおれを惨めにさせて、けれど伝わる体温の温かさにもうどうでもよくなって、駄々っ子みたいな言葉が口からとびだしてしまった。

「違う、違った」
「え?」
なかなか続きが次げないおれに、かれは耳を寄せてくる。おれは喉奥を引きつらせながら言った。
「おれは、あんたにしてほしい、おれがするんじゃなくて、あんたに」
近藤さんはぱちりと瞬き、それからおれと自分を見比べた。
「俺が、トシを?へ、えええ?」
近藤さんの狼狽はありありとわかる。自分でも自分で口走っていることの意味がわかっていたわけじゃない。ただ身を、どうしようもない衝動に揺さぶられていた。肌と肌とを妨げるものがなにもないいま、抱いてもみくちゃにしてほしい。このひとの欲を身体で受けたい。


おれが泣きやむのを待って、近藤さんは照れたように笑った。
「俺、自分が入れるほうは初めてだから、上手くいかなかったら勘弁」

何度も頷けば、頬にひとつ啄ばむようなキスをくれた。
改めて布団に横たえられて、顔が近付く。顎に蓄えた髭にうっとりと見とれていると唇を食まれた。
口づけを受けとめながら、おれは自分の腰の下でたぐまった着物を握りしめる。さきほど射精したばかりのそこが、触れられても居ないのに芯を持って固くなっていくのがわかる。

近藤さんの肉厚の舌は、おれの縮こまったそれを誘い出し、力強く吸う。頭の中にミキサーでも突っ込まれたような錯覚に陥る。どれだけそうしていたかわからない。唇がようやく離れると、近藤さんはおれの耳元で、慣らすぞ、と囁いた。
意味もわからないでいると膝頭を掴まれ、思い切り開脚させられた。羞恥に戸惑っているうち、腰の下にまくらをあてがわれ、股間を検分するように覗きこまれる。

「最初はゆっくりな、」
さきほど使った軟膏が近藤さんの手に見えた。すくった中身がおれのうしろへ宛がわれて、冷たさに思わず声が漏れた。
近藤さんの骨ばった指が、襞を確かめるようになぞられる。
それからおそろしいほどゆっくりと、中へと指が侵入してきた。むずがゆいような、少しひきつれるような、おかしな感覚。おれは口元で拳を握り、声をかみ殺す。緊張で強張り、足がつりそうになってしまうのがわかったらしく、近藤さんはなだめるように腰を撫でてくれた。
「このへんかな」
ずっと浅いところを探っていた指が一点に当たると、おれの口から悲鳴が漏れた。
「ひ、」
痛いぐらいの快感が脊髄を走る。
「ここ、こうすると、いいだろ」
問われて、おれはもう返事もできずに喘いだ。
「あ、あう、あ」
おれの反応に気を良くしたのか、近藤さんの指がより大胆に俺の中をくじる。神経にじかに火をつけられているようなこんな快楽は生まれて初めてで、身体がそれについていけなくて苦しい。
どれだけ経ったのかわからない、近藤さんはおれの、もう汗だくになった膝の裏を抱えて、足の間に割り込んできた。
「ひ、」
ぴたりと粘膜に添えられた熱が、近藤さんの逸物だと思い至った瞬間、
「あ、あー、」
腹を逆から塞ぐ、ものすごい圧迫感におれは喉を晒してがくりとのけぞった。
近藤さんがおれで興奮したものが、おれの身体の中にはいっている。そう知覚するのと、自分の胸に飛沫を感じたのは同時だった。

「うあ、ああ」
腰から脳天までを走り抜けていった刺激が強烈過ぎて、呼吸もまともにできない。見開いた目にちかちかと白いものが映る。
かは、と乾いた音が自分の喉で鳴った。頬の濡れた感触は涎だろうか。

近藤さんが入り込んでいるところはおれの意思と関係なく蠢いて、ぎちぎちと卑猥な水音を立てる。
近藤さんもきついのか、眉を寄せたまま息を整えている。俺の下腹を覗いて、ふ、と片頬で笑った。
「ああ、今ので出ちゃったの」

ゆっくり、動くから。そう言って近藤さんが腰を引いて、どしんと腹の奥に衝撃が走る。おれはもう歯を食いしばることも忘れて、獣じみた声を上げ続けた。





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