眩しい。朝日だ、ということがわかって瞬く。自分のすぐ脇に大きな影を認めて目を瞠れば、同じ布団に体育座りをした近藤さんだった。 「…、ハヨ」 照れたような声に、おれも慌てておはよ、と返す。喉がひりひりする。 体のあちこちに残る余韻に昨晩のことが鮮明に思い出されて、思わずうつむく。 下半身はまだ少しだるいが、べたべたしてはいない。何かで拭われたようにすっきりしている。きっとおれの意識が朦朧としている間に始末をつけてくれたのだろう。その図を想像したら顔から火が出そうだ。 「中で出しちゃったから。拭いといたよ、その」 考えていたことをあけすけに言われて喉がひきつる。 「あ、悪ぃ、あんがと」 礼をもごもご言うと、上半身を勢いつけて起こす。ともかく煙草を吸いたかった。 胡坐をかこうとすると、尻になにかまだ挟まっているようなへんな違和感がある。小さく呻いたのを近藤さんは聞き洩らさなかったらしい。俺の腰をさすってきた。 「痛くない?平気か?」 おれも初めての時は痛かったから。そう聞いておれは頭に血が上った。 昨日の、自分とこのひとを結びつけたあの行為を、このひとがまた、他の誰かとするかもしれない。 そう考えたら今を逃したらいけないと思った。今伝えなければならない。おれは歯を食いしばった。 近藤さんの袂を引く。思い切って視線を合わせたら睨むみたいになった。 「もう、誰にも、あんなことさせんな」 きょとんとした表情にも怯まず、おれは言い募った。 「あんたを、誰にも触らせたくない」 「へ」 意味がわからないらしく、近藤さんは鸚鵡返しをしてくる。 「俺のことを?誰にも?」 おれは上半身を近藤さんのほうへ倒して、どんと軽く胸板を叩いた。そんぐらい。 「わかれよ、バカ、」 無茶苦茶だと思いながらもおれはもう顔を上げられない。 えーと、えーと。ずいぶん長いこと唸った後、困ったような声が訊いた。 「トシ、俺のこと好きなの?」 おれの言葉が近藤さんの頭の中でそういう形になったことが気恥ずかしくて同じだけ怖くて、おれはがくりと項垂れるみたいにして首を縦にした。 緊張でこめかみがきりきりする。 「トシが、俺のこと、スキ」 ゆっくり復唱されて、なおさらいたたまれずに唇をかむ。 「そっかぁ」 近藤さんは、雑誌のパズルが解けたときみたいなあっさりとした声音で言った。頭を引き寄せられて撫でられて、全身から不可抗力で力が抜ける。目尻で盗み見た近藤さんの頬は上気していた。 埋めた胸は温かい。どくどくと心臓の音が力強い。 「なんか照れるね」 ふふ、とはにかむ、声の隅々まで、おれのもんだ。もう、誰にも渡さねえ。 夜半、壊れんばかりに障子が叩かれた。 驚いて立ち上がり、戸を開ければ予想にたがわず近藤さんで、 「トシ、トシ、あのね」 かれは前のめりで息せき切っていた。鼻先を近づけられて面食らう。 「どうした、」 腕に手をかけようとして、後ろにもうひとつ人影があるのに気づく。隠れていて見えなかった。近藤さんの腰には総悟がへばりついている。 どういうことか事態が飲み込めず、二人を相互に見比べると、近藤さんはおれの袂をぎゅうとひっぱって、子供みたいに上目遣いでこちらを見る。 「あのね、トシ、どうしよう」 「なにがだよ。落ち着け」 へばりついている総悟に大人気ないとは思いつつも少しむっとして、自分にも言い聞かせるようにそういえば、近藤さんはこう言い放った。 「総悟もおれのこと好きなんだって、どうしよ」 てきめん固まったおれは、口を思い切り歪める。 「はああああ?」 間抜け極まりない声を出せば、総悟は近藤さんの脇腹からひょいと顔を出し、にやりと笑った。宣戦布告ってツラしてやがる。 「総悟も本気だって言うんだ。ねえトシ、どうしたらいい?」 近藤さんはうろたえきっている。 「ど、」 どうするも糞も。おれだって泣きたいような気持ちで顔を引きつらせる。総悟は近藤さんの腰にぶらさがったまま、いー、と歯を見せた。 「そう簡単にいくと思ったら、大間違いでさ」 【了】 110310 |