「好きだぜ」 腕の中から至極あっさりとした返事が返ってきた。 「なんだよ、いきなり。照れるじゃねえか」 平坦で、でもまんざらじゃないとでも言いだしそうな口ぶり。 「全く、こんなとこで大胆だな」 そう云いながらも俺の背中に回る腕。肩をつかんでがばと身体を離した。 「えと、トシ?」 「おう」 ぱちりと瞬く、三白眼はあの冷め切ったものではなかった。声にも甘さというか、温度がある。 通行人に遠巻きにされているのにいまさら気づき、双方隊服じゃなかったことだけに感謝して、トシの手を引いてその場から逃げ出した。 正気に返った(と、敢えて言わせてもらう)トシを問いただして判明したのは、 実にくだらない顛末だった。 行きつけの飲み屋でいつものごとく愚痴を吐いていたトシが店のオヤジから「押して駄目なら引いてみろ」とのアドバイスを受け、そんなのフリでもできっこないと却下したところ、隣のうさんくさい男が徐に出してきたのが問題の飴玉だったそうだ。 星間貿易をしているという男曰く天人の間で流行っている菓子で、恋人同士がマンネリ打開や戯れに使うもの、とのこと。 酔いも手伝って無防備に飲んだ結果があの状態だったらしい。 「毒だったらどうすんの!」 生命に関わるものじゃなかったからよかったようなものの、知らないやつからもらった得体の知れないものを食べるなんざ危機管理がなっちゃいない。立場ってものをもっと自覚して欲しい。まあ俺に言われたかないと思うけども。 ごにょごにょすまん、と謝ったトシが出してきた包み紙。印字されている星間共通語を翻訳ソフトにかければなるほど、食べれば恋愛感情が反転するという旨、効能は三日、といった内容だった。星間貿易のご用命は海援隊、というシールも貼ってあった。こんなもん不用意にばら撒きやがって、今すぐ営業停止にしてやりたい。 山崎と隊長連中を呼んで事情を説明させたので、スピーカーの総悟のこと、すぐに組内に広まるだろう。 みんなが退室した幹部会議室には、俺とトシが残る。 まったく、と肩を下ろした俺に、トシはじりじり間をつめてきた。 「なあ、」 にやと口角を上げる。 「おれがそっけなくて、寂しかったか」 俺はもう、取り繕おうとも思わなかった。 「うん」 「おれがそっけなくて、しんどかったか」 「うん」 素直に応えるとトシは満足げに目を細め、後頭部をぽすんと俺の鎖骨に預ける。 俺も腰に手を回して、腹の辺りで両手を組んだ。かぎなれたシャンプーと、甘いメンソールの香りを吸い込む。これは俺のだって、俺だけのだって、いつだって疑ったことなんかなかった。 ああ、 あとちょっとでもお前が俺を見なかったら。 不穏な想像に、俺は強引に蓋をした。 (了) 090607 |