「志村妙……の観察ですか」 「基本は志村家だが、重点は姉の方に置いてもらいたい。弟の方には別の人間をつける事にする。万が一、あの銀髪野郎かチャイナに気付かれた場合のリスクが大きいからな」 「……はぁ」 あまり納得がいかない顔で山崎が頷く。ほとんど私用じみた内容である事が分かっているのだろう。俺もこんな事で組の人間を使うのは初めてだったが、近藤に約束した手前譲る事はできなかった。 「特に、現在ブラックリストに載っているテロリスト近辺者との接触がないか気をつけてくれ。外出時は特にその買い物や手にした物の内容にまで気を配れ。人的な接触が全てとは限らない」 「分かりました」 「報告は、近藤さんまで上げてくれ。直接だ。他の人間を通す事は一切許さない。特に沖田には気をつけろ」 「はい」 「ではこれから一週間、頼んだぞ」 「ハッ!」] 小気味のいい返事を残して、山崎が走っていった。 確かにフットワークはいい。情報収集能力も観察眼も馬鹿にできない。優秀である事は確かだ。ここぞと言う時にミントンをする癖を除けばの話だが。もっとも、尾行しながらミントンはできないだろうと俺は自分に言い聞かせるように遠ざかっていく姿を見送った。 「はぁ」 さすがに溜息が漏れる。 何だって俺がこんな事を。そう思いながら、副長室を出て廊下に立った。 クリスマスまであと三日。灘屋のちんけなイルミネーションもそれなりに街の景色に溶け込んでいる。江戸という街中がクリスマスに浮かれているのだから当然とも言えた。 煙草を取り出すと、中身は最後の一本になっていた。ここのところ消費する本数が多い。空になったパッケージを握りつぶし、ポケットに押し込んだ。 見上げた空が、チカチカと瞬いている。飛行船が明かりを撒き散らし、週末のクリスマス商戦を勝ち抜こうとビルの壁に広告を照らし出していた。 簪、化粧品、振り袖、宝石。 どれを買っても、あの女にはよく似合うだろう。顔は確かに悪くない。あの気性の荒さも、お人良し過ぎるところのある近藤には丁度いいと言えなくもなかった。 そうやって毎度自分を無理に納得させては、何かと手を貸している。ここ15年間そうやって生きてきた。そろそろそんな行為に慣れてしまってもいい頃だと思うが、どうしてもこんな時のやりきれなさには慣れる事ができない。 「酒でも飲むか」 ふと視線を落とすと、壁の向うでミントンの羽が飛んでた。 「はっ、はっ!」 山崎の気合いの入った声も聞こえ来る。 「やまざきいぃいぃぃ!!」 俺は思わず庭の石を担上げ、力の限り壁の向うへと放り投げていた。 |