10円ノーフューチャー・3
新八の出て行った戸からなかなか目が離せなかった。 その戸が開かないという事に俺はどこか安心さえしていた。 唇を舐める。新八のキスは味がしなくて時々苦くぬるついていて 苦い、と云ったらあいつは、あんたの出したモンですよ、とバカにしたように笑った。 もう一度唇を舐める。 苦い。こんなのちっとも甘くない。 身体のあちこちについた傷跡をさらけ出すのも、人前で射精するのも 快いわけがない。居心地が悪くて堪らない。 セックスは斬り合いより怖い。だって命が懸かっていない。 命の遣り取りをしてるわけでもないのにこんなに切羽詰まったところに俺を追い込む。 おまけに負けても死んでしまえない。 こんなに息苦しい。 あのとき俺はいくらかと尋ねた。 見知らぬおっさんのちんこよりは俺のちんこ舐めてるほうがマシだろう とか 曲がりながらも保護者として、悪さをするなら目の届くとこでやっててほしい とか 今考えればいくつか理由のようなモノがひねり出せるけれど あのときそんな事を考えていたかは定かじゃない。実を云うと何を考えてたかよく憶えていない。 それよりも不可解な事はなぜ俺があいつで勃起したかということだ。 新八は冴えないメガネの子供で、俺の日々のオカズである30代気怠い熟女とはまさに対極で 俺はあいつがセックスの対象になるだなんて考えた事もなかった。 でも俺は間違いなく勃起してて、その勃起してるという事実に引きずられてここまで来た。 そこには俺の意志とかあいつの意志とか ましてや感情なんかない ない。そう呟いた。呟けばそれは確かな事のように感じられた。 眉間に手を持っていく。皺が寄っている。 なあそれならこれは何だ。このうしろめたさはなんだ。 俺とあいつの間には確かに金があって金がある以上これはビジネスで、 あいつと俺は共犯で、 それで俺は責任から逃れられてる筈だ。 責任。何の責任だ? そんなもの背負わないでいいように、俺はあらゆることから距離を置いてきたはずだ。 なんで。なんで今更。 なんで今更俺はあいつに本気で怒って欲しがっているんだ。 とびこえる勇気なんてとっくのとうになくしたくせに。 袂に入れた10円玉がチャリチャリと鳴って、俺はそのあまりの軽さになんだか泣きたくなった。 |