unplugged2



口内を満たす息苦しさに咽て、俺は飛び起きた。
飛び起きて、俺の身体を跨ぐようにベッドに座っている人影に、心臓が止まるかと思う。何度も瞬きして俺は悲鳴を上げた。
「カ、カイル?おどかすなよ!」
「グッドイーブニング、スタン」
カイルは節をつけてそう言うと笑った。俺は鼻に抜ける刺激臭にもう一度噎せた。
「なんだこれ、お前俺に何飲ませた?」
それは俺がよく知ってる味だった。暗がりで、カイルの手に見覚えのある瓶が握られているのを確認して、俺は叫んだ。
「ガッデム、酒じゃんか!」
カイルはふわふわした口調で、うん、と頷いた。
「景気づけにね。僕も飲んだし、君にもちょっと。でもそんなに飲ませてないよ。あんまり飲むと役に立たなくなるって聞いたから」
何のことを言ってるのだかまるでわからない。俺は潜めた眉をつまんで呻いた。
「つまり、その。どういうこと」
「鈍いなあスタン。家の人がいない日に、窓から忍んできたんだからわかってもよさそうなもんだけど。夜這いだよ、夜這い」
「夜這い?」
耳慣れない単語に鸚鵡返しをすれば、カイルは酒瓶をごろんと床に放って、酒臭い息を吐く。
「だから、スタンとメイク・ラブしに来た」
「はぁ?」
「愛し合えないならしないよ、ただのセックスなんて空しいだけだもの」
酒のせいか芝居がかったようなせりふを吐きながら、カイルはジャンパーのジッパーを下してシャツを脱ぎ始めた。ジーンズは既に脱いでしまっていたようで、毛布の上に投げ出された足が、夜目にぎょっとするほど白い。

シャツの下から出てきたものに俺は絶句した。
それは所謂アダルトな、ポルノマガジンの中だけでしか見たことがないような、レースで縁取られたマイクロビキニで、真ん中にスリットが入っていて乳首が丸見えで、おおよそ下着の体を成していない。ショーツのほうはもっと酷くて、リボンとひも状のレースが内股とウエストでデルタを作っているだけで、性器は丸出しだった。
まだ体毛が生えていないそこは、プレイメイトみたいにつるつるで、丸みを帯びた尻から足にかけてのラインは中性的で、真っ白な肌に黒いレースとショッキングピンクのリボンがやけに扇情的に見えた。
更にその上に乗っているのがオムツの頃から知ってる顔と来てる。
ただそのカイルの顔も、頬が上気していて、唇はアルコールでてらてらと輝き半分ばかり開いていて、別人みたいに艶めいて見えた。アーモンド型の少し吊った大きな目。縁取られた赤い睫が、ばさりと瞬く。深い緑の瞳に見据えられて、俺はやっとのことで喉を鳴らした。
「ど、うしたんだよそれ」
「通販だよ。何でも買えるよね」
俺が、そういうことじゃなくて、ともごもご言うと、カイルは平坦なトーンで聞いてくる。
「気持ち悪い?なら脱ぐけど」
ごくりと喉仏が上下する。頭にピンクの霞がかかったみたいだ。酒だ。これはアルコールのせい。がんがんした頭で、まだ俺は言い訳を探している。
「気持ち、悪い、ってわけじゃ、」
気持ち悪い、どころか、俺の息子は意思に反して完全に反応してしまっている。隠したくて腰を引けば、カイルは俺の股間のテントに気づいたようで、唇を吊り上げてにやりと笑った。長い付き合いでも見たことがない表情だった。ああ、こいつは欲情してるんだ。
こちらにしなだれかかってくるカイルに、俺は身を強張らせる。混乱とわけのわからない興奮で、頭が爆発してしまいそうだ。
「スタン」
俺を呼ぶカイルの声は、仔猫みたいな媚を含んでいる。
「僕、スタンがすき」
小さな頃から何度も聞いているはずのそのせりふは、明らかに違う意味を含んで、衝撃を持って俺の耳に響いた。
「ウェンディの何千倍も、スタンのことが好きだよ」
「……カイル、」
自分の舌に乗るカイルの名前さえもが甘く響いた。
「ねえ、スタン?」
ねだるように目を伏せられて、俺は吸い込まれるようにカイルの唇に自分のそれを重ねた。
「ん、…ふっ」
カイルの口はジェムソンの味がして、その先を探るとだんだんと甘くなってきた。女の子みたいに化粧やコロンの匂いじゃなくて、もっと昔から知ってるような、プリミティブな甘さだった。
音を立てて唾液が顎を逃げるのを、カイルの舌が追いかけて掬うのがいやらしくて、俺はカイルの身体を抱きよせた。
そろりと腰を撫でる。女の子のような肉付きじゃなく、折れそうな細さだった。ウエストをくくるサテンのリボンの感触がやたらと卑猥だ。カイルは自分の背中に手を回して、俺の手を取り尻たぶまで誘った。
「スタン、ここ」
カイルの荒くなった息が俺の頬にかかる。至近距離で緑の瞳が揺れている。
「ここなら、慣らせばね、女の子と同じだから」
入れて、と、促されるまま人差し指を添えれば、ぶちゅっと酷い音を立てて難なく呑み込まれた。中は酷く熱く熔けていて、うねるように俺の指を包み込む。
「んううっ」
「カイル?痛い?」
慌てて表情を伺うと、カイルは息を荒げながら、気持ちいい、もっと、と言った。意思を持って指で中を探るたびに、カイルの腰がおもちゃみたいに跳ねる。
「だめ、出ちゃう、う、」
カイルがひときわ大きく身体を震わせる。ぎょっとして視線を下すと、ばたばたっと白濁が俺のスゥエットの上に散った。男同士だから演技もくそもない。カイルは確かに、今俺の手でイった。
精液塗れになったレースの黒に、ただでさえ細切れになった俺の理性が霧散していくのがわかった。
「ひゃん、スタンっ」
俺は身体を屈めるとビキニのレースをずらして、カイルの胸に思いきりむしゃぶりついた。薄い皮膚を吸い上げれば、乳首が歯の間でぴんと立つ。
「あァ、ン、」
続きを強請るようなカイルの声がたまらなくって、俺は夢中になった。自分の前が張り詰めすぎて苦しい。舌でねぶり、乳首の形を確かめるように甘く噛む。
左手を内股から這わせると、絶頂に達して緩んだそこは二本目もやすやすと飲み込んだ。人差し指と中指を中で開けば、カイルは身を捩ってよがる。 

カイルの喘ぎ声は俺の、動物じみた衝動を内から突き上げた。
もどかしい気持ちで自分の下着から、ぬるぬるになったペニスを取り出す。
俺はカイルの背をベッドに押し倒すと膝を抱え上げて、そのまま覆いかぶさった。こめかみで銅鑼が鳴ってるみたいに、鼓動がどくんどくんとうるさい。
カイルがショーツをずらして、自ら指でアヌスを左右に広げる。こちらを伺うように見る、快楽に潤んだ瞳が俺の臍下を焙る。
ペニスをアヌスに宛がうと、力任せに一息で、奥まで打ちつけた。
「ア、ぁああーっ」
カイルの膝ががくがくと震え、背中が弓みたいにしなった。内部がみちりと粘着質な水音を立てる。
「く、ううっ」
きつい締め付けに俺の喉からも上ずった声が出る。俺のペニスが、カイルの腹の奥までみっしりと埋まっている。その実感がじわじわと腰から立ち上ってくる。
「ひっく、ッ、」
カイルは感極まったように泣きじゃくり、カイルのペニスは黒いレースから炙ったウインナーみたいに飛び出して、涎をだらだら垂らしている。
もっとおかしくしてやりたいような、凶暴な衝動に捕らわれて、俺は遠慮なく腰を遣い始めた。
「らめ、え、スタン、ッ、」
狙いを定めて、奥に思いきり打ち付けるたび、カイルの目はどんどん焦点が合わなくなって虚ろになっていく。裏返った声が悲鳴みたいになって、意味のないものになっていく。それでも唾液をたらしっぱなしの口の形が、俺の名前を呼んでるのだとわかったら、もういくらももちそうになかった。



俺はカイルの上に突っ伏して、息を整える。汗と体液まみれの身体が重なる感触さえ気持ちが良かった。身体を拭こうという気にもなれない。
こんなセックス初めてだった。まだ頭の芯が麻痺したみたいになっている。
カイルの胸が震えて、スタン、と俺を呼んだ。俺は自分の上半身を少し上にずらして、カイルの鼻先で瞬いた。
真っ赤に泣きはらしたカイルの、目の下をそっと撫でてやる。カイルはすねたように唇を突きだした。
「ウェンディとちゃんと別れて。僕を選んで」
「カイル、」
スタン、お願い。そう言うカイルの声音は、俺がよく知っている、まだ幼いものだった。カイルの手は俺のそれを探し当てると、ぎゅうと指をからめる。
「ウェンディには代わりがいくらだっているだろ。でも僕は、スタンがいないと生きてけない。セックスしたらもっと、そう思った」
俺は自分の歯列を舌でなぞる。カイルの指先は冷たく、小さく震えていた。
「だから僕を振るなら殺す気で振ってよ、」
俺はもう物も言えなくて、カイルの身体をただ抱きしめた。
ぜんたい卑怯だ。そんなこと言われて、俺がカイルを突き離せるとでも思うのか。
カイルの髪のシャンプーの匂いを胸一杯に吸い込みながらようやく、俺はうわごとみたいに呟いた。
「選ぶよ、お前を」
お前だけを。そう繰り返せば鼻の奥がつんとして、そこから熱を持ってきた。



僕から説明しようか?と言われたけれど、(そしてカイルならやりかねないと思ったけれど)俺とウェンディは最後の話し合いを持って円満に別れた。実際彼女の中ではとっくに終わっていたことだった。
ウェンディにキープがいるのは判っていた。いつだって誰かと比べられていることも。今となっては、なんであんなに彼女に縋り付いていたのかわからない。でもきっと俺は、誰かに捨てられることが怖かったんだ。

俺たちの関係に恋人が加算されてしばらくすると、カイルはウェンディとおんなじぐらい、いやそれ以上の焼餅妬きだということがわかった。
でもウェンディと違ってカイルはよそ見なんかしないし、貢がないでもセックスをさせてくれる。それどころか自分からしたいってねだってくるし、俺の望むことは何だってさせてくれる。腹を探り合わなくったって、お互いのことはだいたいわかる。最高の恋人だ。

昼間のカイルは友達と年相応にはしゃぐティーンエイジャーで、たとえば壇上でスピーチしている堂々とした姿からは、ベッドの中の乱れっぷりなんか嘘みたいだ。
今までどんな女の子と寝たって、どこかちゃんと現実と地続きだというシビアな感覚があった。でもカイルは違う。ピロートークのアイラブユー、が、だんだん俺の心の、一番真ん中にあるフィリングを蝕んでいくのを、俺はただ感じている。抗うつもりもない。


階段から降りてくるカイルの姿を認めて、俺は柱の陰に身を隠した。通りすがるタイミングを見計らって腕をぐいと引けば、ひゃっ、と悲鳴が上がった。
「びっくりした?」
胸に手を当てるカイルの首を腕で引きよせ、こめかみに小さくキスを落とした。
「びっくりしたよ!スタン」
誰かに見られちゃうって、とくすくす笑いながらも、カイルは俺の背に手を回してくる。少しあたりを見回して、掠めるようなキスをもうひとつ。触れた唇はマシュマロみたいで、際限なく俺の欲望を煽る。


あれからずっと俺は、魔法にかかったみたいにふわふわしてる。
カイルは、俺がいなけりゃ死んじゃうって言った。ほんとにそうだったらいいのに。俺に一生、いかれっぱなしだったらいいのに。
どうかこいつがいつまでも、正気を取り戻すことがありませんように。俺はお門違いだと十分に知りながら、神様に祈った。



end.
130305