俺たちにはもう、怖いものなんか殆どなかった。 できる限り一緒の時間を過ごせるようにと、俺たちは綿密に計画を立てた。学校で変なうわさを立てられないように、親の目を上手く盗めるように。宿題もちゃんとやったし、実際学校の成績はAだらけになったから、両親の機嫌はすこぶるいい。 毎週金曜は大抵どちらかの家に泊まる。 カイルは声が大きいから、家に誰かがいるときは口に何か噛ませなきゃならない。そうすると却って興奮するのか反応がいつもよりも敏感になる。 俺はカイルの可愛い喘ぎ声も好きだし、くぐもった声にもおんなじぐらいそそられる。 ママは夜勤のパートを始めて、シェリーはハイスクールに入ってから外泊が多くなった。今日は親父が学会で出張中だから、明日の昼まで二人きりだ。 俺たちはダイニングで、おやつに用意されたヨーグルトを食べる。カイルは俺の膝の上で、スプーンにすくったブルーベリーソースを舐めている。 ヨーグルトが口の端についているのを拭い取ってやれば、カイルがくすぐったそうに笑った。 「こぼすなよな」 「スタンのやつならこぼさないよ」 学校から帰ってすぐ、我慢できなくて先に口でしてもらった。 それに。とカイルが付け加える。 「スタンのあれのほうがずっと美味しい」 カイルは自分の唇をいたずらっぽく舐めた。俺はスプーンを持ったままカイルの首筋に手をやり、自分のほうに引き寄せる。 ブルーベリー味のキス。カイルはヨーグルトの容器をかばって口を尖らせた。 「スタン、こぼれちゃうったら」 だしぬけに、チャイムではなく乱暴なノックの音が聞こえた。 出ろよ、と聞き覚えのある声に、二人で顔を見合わせる。カイルは俺の膝から下りると、いすの背もたれにかけていたスゥエットの下を履いた。 ドアを開けて揃って顔を出せば、カートマンは挨拶もなく、口をひきつらせて、ユー、と俺とカイルを指さした。 「ひとつ、オレから忠告してやる。お前らおかしいぜ」 「何が、どう」 「放課後はさっさと二人で消えるし、お泊まり会は締め出しだ!毎週毎週、何やってんだよ。オレにはわかってるんだぜ、お前らなんか人には言えないようなことやってるんだろ」 「言えないようなことって?」 平坦なトーンでカイルが尋ねると、カートマンははたと眉を寄せた。 「えーと、だから、その、ピザハットを全種類頼んでコンプリートしたり、アーケードのクレーンゲームに細工したり、マーケットのタンポンの中身を全部爆竹にすり替えたり、ペンタゴンの爆破計画練ったり、魔術書で悪魔を召喚したり、なんかそういう楽しいことだよ!オレやケニーを差し置いてさ。オレたちを呼べねー訳でもあんのかよ!」 喚くカートマンを遮って、カイルが呆れたように言う。 「別にお前が楽しいと思うようなことなんてしてないよ。昨晩はレポートの下調べでスタンのパパのネイチャーをスクラップして、それからDVD見てただけ」 「DVD?何の?」 「タル・ベーラのニーチェの馬」 「どんな映画だよ」 俺はしれっとして続けた。 「解釈はさまざまだけど天地創造の七日間を逆回しにすることによって宗教の喪失と不在を描いた哲学的な内容で」 もちろん内容なんか見ちゃいない。みんなネットの受け売りだ。 「ジーザス!クッソつまんねえ」 カートマンはオーバーアクションで帽子を床に叩きつけた。 「つまんない、ってのはお前の価値観だろ。Dude,そこがずれちゃったのは不可抗力だ」 「まあ僕らも大人になったってことだよ。友達を自分で選べるぐらいにはね」 二人で畳み掛けるように言えば、カートマンは顔を耳まで真っ赤にして、お前らまとめてファック!と中指を立てた。 去り際、このゲイ野郎!と吐いた捨て台詞に、俺は肩を竦めた。だって実際、その通りだものな。 ドアを閉めると俺たちは寄り添い、笑いをこらえながら抱き合う。 「今日は何する?」 腰まで手を下ろすと、カイルの目がとろんとなる。すぐに紅潮する頬はリトマス試験紙みたいでわかりやすい。 「いいこと考えた、来て」 バスルームで服を脱がせあって、バスタブに重なり合って座る。 俺に背中を預けてくるカイルの、首筋を丁寧にキスで埋めていく。カイルはどこもかしこも甘い。胸には両手を回して、小さなしこりをつまむ。俺が吸いすぎたせいか乳首のピンクが広がってしまった気がする。 PEの授業があるから、下着で隠せるところにしかキスマークが残せないのがもどかしい。ほんとなら体中に、俺のキスマークと歯型をつけてやりたい。カイルが俺のもんだって、誰にもやらないって、世界中に見せ付けたい。 耳たぶごと食んで、耳の穴に舌を這わせれば、カイルが首をぶるりと振った。 「ひゃ、あ、それだめ、だめっ」 「何がダメ?」 「すぐ、イっちゃうから、だめ」 そんな可愛いことを言われてやめられるわけがない。ソープ入れに置いておいたローションを手探りで取り、一瓶まるまる、身体の隙間に垂らした。はしゃいだ声を上げるカイルのペニスを手のひらに包む。もう片方の手でアヌスをくすぐるようにいじれば、すぐに入り口が緩んで俺の指を飲み込む。奥へと誘うように蠢くそこは生き物みたいだ。ほどなく、早く、とカイルの声が上ずった。 「慣らさないときついだろ」 「いいから、あ」 カイルはのろのろと体勢を入れ替え、俺に向き合う形で膝の上に座った。カイルのペニスもだらしなく、先からとろとろと先走りを垂らしている。 浮かせた腰を掴み、ペニスとアヌスの位置を調整する。カイルは俺の首に手を回して、期待に顔を真っ赤にしている。 入り口を捉えると、俺は自分の腰を突き上げた。 「うあああ、ああっ」 抵抗を割って沈めていく。肉の筒はちゃんと俺の形を覚えていて、みっちりとペニスを包んでくれる。粘性の高い液体がびちゃびちゃと結合部で鳴る。 最初はゆっくり、徐々にリズムをつけて。奥でこねるように動けば、カイルは狂ったようにかぶりを振った。俺は切羽詰った声で伝える。 「カイル、いいよ、気持ちい、」 背に回された手が俺の肩をひっかく。 「スタン、スタン、ん、」 カイルは限界が近くなると、俺の名前しか呼ばなくなる。その甘ったるい喘ぎがバスルームに反響して、頭が沸騰しそうだ。 「んんんっ」 柔らかく握っていたそれを扱けば、カイルのペニスから白濁が吐き出された。陶器みたいにつるんとした背中がしなって、中がきゅうと窄まる。俺は歯を食いしばって、自分を飲み込もうとする波に耐えた。 動きが止み、肩で息をして呼吸を整えているカイルが、不思議そうに俺の顔を覗く。 「スタン、まだ、おっきい、?」 俺は歯を見せて、カイルの腰を抱えなおした。 「ちょ、まってえ、イった、ばっか、のに、」 もうずっと。 もうずっと、俺の頭の中は、どうしたらカイルをずっと独占していられるだろうということでいっぱいだ。 そのためにカイルの家族が泣こうが、未来が狭まろうが、どうだっていい。むしろカイルから、俺以外の大事なものがなくなってしまえばいいのにとすら思う。 そうしたら俺なしで生きていられなくなるだろ? 「スタン、んっ、」 俺を呼ぶ甘い声が、どうしようもない思考に甘く爪を立てる。 イったばかりのときに、脱力したイイところを突き続けるとどうなるか、百も承知だ。だからバスルームに誘った。 「やだ、おしっこ、出ちゃ、」 カイルのペニスから、じょろ、と堰を切ったように尿が噴出す。イっているときよりも弱弱しい締め付けと、快感でとろけきった顔、緩んだ口元に、理性はどんどん炙られる。ストロークを強くすれば、悲鳴じみたカイルの声がいよいよ掠れていく。 「だめ、おかしく、なっちゃう、よぉ」 もしもこの先、誰かや何かが俺たちを引き裂こうとするなら、 ボニーとクライドになって逃げてやる。ヘマして蜂の巣なんかにならないで、どこまでだって。 end. |