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いいだろう、正直に話すのならば、俺がパンツを初めて汚したとき夢に出てきたのは他の誰でもない、カイル・ブロフロフスキーだった。

下半身の違和感に飛び起きて、しばらくは何が起こったかわからなかった。遅れて襲ってきたのは混乱で、とにかくママやシェリーにばれないようにと洗面台に駆け込んだ。
保健体育の授業で習った事を反芻して、下半身丸出しでアンダーウェアを洗いながら、俺は声を殺して泣いた。恥ずかしさと不安と、何よりカイルに対して酷い罪悪感で胸がいっぱいだった。

だって俺たちはスーパーベストフレンドで、こんなのは彼に対する裏切りだと思った。



六年生に進級したばっかりで、クラスで一番身長が高くなって、服がどんどんサイズアウトして、ママは不経済だわと笑っていた。
俺は、俺のホルモンがどうにかなっちゃったんじゃないかと考えた。

ウェンディとの仲は上手くいっていた。もう吐かずにキスだってできるようになった。俺たちは好き合っていたし、実際ウェンディはガールフレンドとして申し分なかった。美人で聡明で思いやりがあって、嫉妬深いとこだってかわいいもんだ。確かに計算高くてちょっとビッチなところはあるけど、女なんてみんなそんなものだろう?
ウェンディと並んでいてお似合いだと冷やかされるのは悪い気分じゃなかった。そう、俺はたしかに、ショッピングモールのガラスに並んで映る自分たちをお似合いだと思っていた。
でも俺は、ウェンディの夢ではパンツを汚さない。


気まずさでいっぱいの俺にも構わず、何も知らないカイルは俺に抱きついたり頬を寄せたり、変わらないスキンシップをしてくる。何にも警戒心なんかない、屈託もなく俺に笑いかける。
カイルの嗅ぎ慣れたはずの、シャンプーやメンソレータムの匂い、ランチのあとに唇から香る甘ったるいプティング。
そのたびに俺は、吐き気の代わりに下半身にこみ上げてくるものを必死でいなした。そんな日は決まって同じ夢を見て、絶望的な朝を迎えるのが常だった。


こんなのはおかしい。おかしいからどうにかしなくちゃならない。
九月じゅうを悶々として過ごして、俺は決心した。

校舎裏に連れ出して早口で、俺の誕生日にヴァージンをくれと言ったら、ウェンディは少し眉をひそめて、いいわ、ただしレディに恥をかかせないでね、と応えた。意味がわからなかったので耳年増のケニーに相談したら、たぶんゴムのことだろうと言われたので、薬局でグロス入りのやつを買って用意した。
誕生日の週の土曜。ウェンディの部屋に通されて、二人服を脱いで抱き合った。ウェンディの胸はふくらみかけでまだ固く、けれど腰のラインは大分大人のそれに近くなっていた。締め切ったカーテンから、ピンク色の淡い光が薄暗い部屋を照らす。キスをして、ぎこちなく身体をさぐりあって。でもいざインサートしようという段になって、俺は上手く首尾することができなかった。痛がるウェンディをなだめたり、乾きかけたそこを湿らそうと苦心しているうちに、俺のそれが萎えてしまったのだ。
どうにも力を取り戻してくれなくて、落ち込む俺にウェンディは、よくあることだから大丈夫よ、と子供らしからぬコメントをくれた。

でも俺の心には、そんなウェンディの思いやりなんか届かなかった。とにかく俺は、自分はストレートなんだと証明したかったんだ。
俺は貯金箱をぶっ壊してありったけをポケットに詰めて、コールファックスの街に出向くことにした。そりゃちょっと背が高いとはいえ、声変わりもしきっていないっていうのに、マスクとサングラスで変装した明らかに怪しい風体の俺に、ちゃんとポン引きは女を紹介してくれた。このときばかりは大人のいい加減さに感謝しながら、八十ドルで女を買った。
今度はプロのリードもあって、ちゃんとヴァギナにペニスをインサートすることができた。でも俺にカタルシスは訪れなかった。ゴムのキチキチ言う音が耳障りで、ヴァギナの中は大西洋みたいに広くって、終わってティッシュでペニスを拭う時の惨めさったらなかった。


タクシーで街境まで戻って、とぼとぼと帰路についた。帰宅の遅さにママから大目玉を食らって、その夜は泥のように眠った。
果たして次の朝、俺は同じ夢を見てパンツを汚していたのだ。
ジーザス。



ほどなくして、コールファックスに行ったことがウェンディにバレた。どこからどう漏れたのだか、悪いことはできないものだ。
あたり前だけれどその事実は彼女のロッキー山脈より高い自尊心を刺激して、俺は強烈なビンタとともに彼女を失った。
悪いことをしたとは思えども、弁解をする気にもなれなかった。尤も、合衆国で一番やり手の弁護士を連れてきたって俺の行動を正当化できるとは思えない。

カイルはウェンディとのいさかいについて見当はずれな説教を一通りよこして、さあもうこの話はなしね、と、バスケットボールに誘うために俺の手を握った。
人の気も知らないで。


こんな気持ちのまま、もうこれ以上隣に居続けることはできそうにない。カイルに触れられるたび口から飛び出しそうになる叫びを飲み込みながら、日に日に俺は煮詰まって、とうとう痺れが切れた。もうどうなってもいいような、破れかぶれな気分だった。
両親が留守だから、地下室でアダルトビデオを見よう。そう誘えば、カイルは二つ返事で了解した。

「今日は二人きり?」
「ああ」
俺は目を泳がせながら、冷蔵庫から持ってきたスプライトをカイルに手渡した。
コロラドの十一月にしては暖かい日だった。ヒーターをつけて、俺たちはテレビの前、カウチ代わりのベッドマットに並んで座る。
「こないだのは傑作だったね、ヘンな着ぐるみ着てさ。股間にだけ穴が開いてるとか最高にマヌケ。空中ブランコで合体するやつもすごかったな。今日は何見るのさ。もっとイケてるやつ?」
「ああ、まあな」
俺は生返事をしながらDVDのケースを開いた。
親父の、クソくだらないアダルトビデオのコレクションの中で、(殆どはセクシーな気分になるまえにそのプレイのバカバカしさにドン退いてしまうようなものばかりだ)俺のお気に入りはこれひとつだけ。
ラグビー部の選手とその幼馴染のチアリーダーが恋に落ちるという、メロドラマ仕立てのそれは、消しも多いしハイスクール生というには無理がある年齢だしで、全くB級もいいところだ。
ただその女優が、赤い巻き毛のショートカットで、アーモンド型のくりっとした目と、笑うと寄るえくぼがカイルに似ていた。だからお気に入りだった。

いつもと調子が違う内容に、カイルはずっと無言で画面を見やっている。膝は居心地が悪そうに揺れていた。スプライトのボトルは封も切られず床に転がっている。
「これ、面白くないね。消すよ」
カイルの手がPS3のリモコンに伸びる。俺は意を決してカイルを呼んだ。
「キスしようぜ」
「スタン、それ」
カイルは俺の下半身に目をやって、驚いたような声を出した。
カイルの顔には明らかに動揺が見て取れた。ぱくぱくと口を開き、言葉を探している。
それでも気を取り直したように、きっと俺を睨んだ。意思の強い、緑色の瞳が輝く。
「ウェンディの代わりなんか厭だよ」
俺はまっすぐその瞳を見つめ返した。
「違う」
俺は繰り返し、強く発音した。こればっかりは、間違うことなく届いてほしかった。
カイルは瞬きをして眉を寄せ、ぽつりと、わかったよ、と言った。
上半身を傾ければ、カイルの背がびくりと伸びる。自分の心臓の音がばくばくとうるさい。おずおずと鼻先を近づけ、目を伏せた。探り当てた唇は柔らかくって、熱くって、表面はリップクリームのせいかほどよくしっとりしていて、俺は夢中になった。
腕を伸ばせば、カイルの身体はすっぽりと俺の胸の中におさまる。想像していたよりもきゃしゃで柔らかい。鼻を巻き毛に埋めて、思いっきりシャンプーの匂いを吸いこんだら、俺を辛うじて支えていたなにかがぶつんと切れた。
「ごめん、カイル、」
俺はカイルの身体を、マットレスに押し倒した。カイルの目は見開かれ、驚きを湛えて俺を見上げている。
頭の隅で警告のサイレンが鳴っているけれど、俺にはもうどうしようもなかった。
「頼む、一生のお願い」
「ちょ、スタン、」
「頼むよ、」
我ながら酷く情けない声が漏れた。そのまま、まだなにか訴えようと開いた、カイルの唇を奪った。
唇の周りがべたべたになって、息が続かなくなるまで延々キスをした。呼吸が苦しいのかカイルが逃れるように頤を反らすたび追いかけ、また唇を塞ぐ。唾液をすすって、カイルにも注いで、カイルの舌がひきつって、押さえた首元がごくりと上下するのがたまらなくて、触ってもいないのに俺のパンツの中はもうぐしゃぐしゃだった。

ようやく顔を離した頃、カイルは酸欠にでもなったのか朦朧としていた。焦点は合っていない。ふう、ふう、という荒い息が、どちらのものかもわからない。
「脱がしていい?」
返事も待たずに、俺はカイルのTシャツをまくりあげる。
カイルの肌は白くてすべらかで、乳首は淡いチェリーみたいな色をしていた。俺は飢えた犬みたいにカイルの胸じゅうを吸った。いくら吸っても足りないぐらいだった。カイルの腕は俺を押し返しはせず、スプリングのくたびれたマットレスの上に張り付いている。
「や、あ、くすぐった、」
最初は身をよじっていたけれど、だんだんとカイルの声にも甘さが含まれてくる。下半身を探ればカイルのペニスも大きくなっていた。嬉しくなった俺は、下着ごと一気に引きずり下ろして、カイルのそこに顔をうずめた。
「ちょ、スタン!」
ためらいはなかった。口の中でぴんとしなるカイルのペニスは、少し長いウインナのようだった。あやすように筋を舌で舐め上げれば、カイルが悲鳴じみた声を上げる。睾丸から会陰部をなぞって、その先の窄まりへと指を這わせた。
早くここで繋がりたい。でも。いつぞやこいつが患っていた病気を思い出して、俺は口を離した。
「スタン?」
身体を起こし、テレビのサイドボードの引き出しを探る。確かこの辺に親父が。あった。

「何、それ、」
潤んだ目で見上げてくる、カイルの前に膝を落とす。プラの容器からローションを手にたっぷり取って、カイルの尻たぶを割り広げた。
今は完治しているようで、淡いピンク色のアヌスに傷は見当たらない。それでもゆっくり襞を広げて、負担にならないように、ぬめりをすくいながら慎重に指を進めていく。一心不乱にそこをほぐし続けていれば、中の筋肉がだいぶ緩んできた。
ぐすぐす鼻をすする声にようやく我にかえって顔を上げると、カイルは自分の顔を拳で覆っていた。
「う、も、やだ、あ」
白い液体がカイルの腹を汚している。中を弄っているうちに精を吐き出してしまっていたようだった。

俺は大きく息を吐くと、がちがちに張り詰めている自分のペニスを下着から取り出した。喉がごくりと鳴る。
「俺、カイルと、セックスしたい」
祈るような気持ちだった。しゃくりあげていたカイルは、少しだけ俺に視線をよこして、首をひねるようにしてうなずいた。
露出しきった亀頭を、アヌスに宛がう。粘膜同士が触れ合って、濡れた音を立てる。やっとだ。やっと、カイルと一つになれる。
腰をそろりと突きだせば、切っ先が肉の輪を広げていく感触。内壁がきつく俺のペニスを包みこんでいく。俺はあまりの快感に呻いた。
「い、たい?」
カイルは僅かに首を振った。もう我慢が出来そうになくて、俺は腰を打ちつけ始めた。汗みずくの下半身がぶつかるたび、カイルは子猫みたいに鳴いた。
「ひゃ、んんっ、スタン、スタァ、ン」
舌っ足らずに俺を呼ぶ、カイルの声に脳の回路が焼き切れそうになる。
俺は身体を屈めてカイルに顔を寄せた。カイルの眼尻に浮かぶ涙を舐めて、絞り出すみたいに言った。
「好きだ」
「ひっ」
取り込まれたカイルの内壁がわななく。俺は快楽に顔をゆがめながら、もう一度言った。息がこんなに苦しいのに、言葉が喉をついて出てくる。あんまりに陳腐だけれど、それ以外の言葉を俺は知らない。
「カイル、好きだ、」
「ス、タン、」
命乞いをしてるみたいだった。事実それと何にも変わりなかった。
「好き、死んじまいそう、」
「あ、ああっ、」
カイルの声が裏返る。カイルの腕が俺の背中に回って、汗で滑りながらもぎゅうと指を立てた。
「好き、」
「ん、うんっ、僕も、」
俺は自分の耳を疑って、がばと上半身を持ち上げた。正面からカイルの顔を覗き込む。
「なあ、カイル、ほんと」
カイルは顎を浮かせて、息を切らせながら言った。
「好き、僕も、好きだよ、」
ラヴ、という言葉がカイルの声に乗って鼓膜に届いて、俺の中でもう一度形を結んで、頭が弾けてしまったかと錯覚した。酷い刺激に身を震わせて、遅れてそれが射精だったのだと理解する。精管が痛いぐらいに痺れていた。

俺は叫んだ。叫んだと思ったけれど言葉になっていなかった。カイルの腕が下から伸びてきて、俺の汗だくになった髪を撫でた。泣かないで、スタン、と言う、カイルの顔も涙でぐしゃぐしゃだった。
俺たちは抱き合って泣いた。生まれたとき以来の大声を上げて、思いきり泣いた。

俺の、ありったけの気持ちが、カイルに届いて、俺たちはいま全く同じ感情を共有していた。体も心も完全に溶けて一つになっていた。薬でもキメたみたいに、それが手に取るようにわかった。
どこかの誰かが歌っているような、ちゃちなそれじゃなくて、これはほんとうのミラクルだった。俺の人生で最初で、間違いなく最後の。