デュアルハニーズマックス(前)


どこをどう、間違えればこんな事態になるんだ。
俺は目の前の惨状を受け止めきれずに喉をぐうと鳴らした。


力がへなへなと全身から抜けていきそうなところを堪えて踏ん張れば、

「近藤さん」
「近藤氏っ」

同じ声が左右から鼓膜を襲う。わァなにこの立体感。
よろけた俺の背中を総悟の手が支えた。




急遽設けられた幹部会議。
腕組みをした隊長が左右にずらりと居並ぶ。
ふたりのトシは座布団を三枚はさみ、俺の後ろに一時的に大人しく座っている。

俺は総悟を前にずいと元凶を突き出し、畳においた。
おもちゃの懐中電灯に似た黄色い装置。
それからそれの入っていたパッケージをむんずと掴む。

ひゅうと息を吸い込んで、こ・こ・に!と叫ぶ。外装箱の側面実に三分の二を占める注意書き。
「人に向けないでくださいって書いてあるでしょォォ」

正座した総悟がぶつぶつぼやく。
「狙ったんじゃありやせんぜ、土方のバカがいきなり部屋に入ってきて…」
たぶんそれはウソじゃない。
この事態は総悟にだって決して望ましいものじゃないのだから。いつもウザがっているトシを好んで二人にしようだなんて思わないだろう。

俺は忌々しい思いでその懐中電灯もどきを手に取った。

不本意ながら人体実験に貢献する結果になってしまい、(あのあと散々データだのを取らされた)散々俺たちを煩わせたあの『装置』は、改良や安全性のテスト を経てこのほど「小型・製品化」に成功したらしい。あの真土とかいうイカれた研究者以下開発室メンバよりサンプルが届いたのが昨日のこと。隠しておいたの によりによってよりによった総悟が目ざとく見つけていじった結果がこのザマだ。
しかしこんなふうに人格まで分裂しちゃうなんて。報告したらまた嬉々としてデータ採取に来るだろうから絶対開発元には教えないけど。

「戻し方は」
ガサガサと説明書を繰っていた山崎が上ずった声で答える。
「あ、変わりません、頭ぶつければ直るみたいです」
「よし、じゃ早速」
後ろを向いてひざ立ちになれば、
「待ってくだせぇ」
すっくと立ち上がると、きりりとした表情で総悟が言った。
「俺が責任取りまさぁ」
がしょん、と肩に担がれたバズーカ砲はいつものものより一回りごつかった。
思わずヒッと声が漏れる。

「どっちか一匹なら殺っちまっても構わねぇ、ってことで 」

どちらにしようかなと歌いながらじりじりと距離をつめられ、さすがのトシの顔も青ざめる。トッシーのほうなんかは涙目で腰を抜かしている。総悟の目はマジ だ。
「待て待て待て待て」
及ぶ腰に鞭打ち、慌てて間に割って入った。




「あのさあ君たち」
左右の腕をがっしり掴まれ、体越しに火花を散らされて早一時間。

「仕事にならないんですけど!」
声を荒げれば口々にこいつが、てめぇがと煩い。
総悟を引き離したあとで元に戻るよう云ったのだが、こんなやつと離れられてせいせいする、と口々に云いだすので(商品化したからにはそのへんはもちろん改 良され、離れ離れにしておいても一週間後には勝手に元通りになるそうだ)好きにしろとさじを投げたとたんこの状態。

「トシ、午後は巡回だろ」
一緒に回る予定の原田以下数名が門の辺りで渋い顔をしているのを指差す。

「だってこいつ一人にしたら絶対近藤さんに悪さするだろ」
「失礼な。ヤンキーはすっこんでるナリ」
同じ声同じ顔の口げんか。めまいをおこしそうになりながら宥める。
「とりあえずトシ、いいから仕事行け」
トシは如何せん俺が絡むとちょっとアレだが、普段は職務を全うしているし、なにより腕っ節は確かだ。こんなアホなことでおろそかにされちゃ困る。(まあ俺 に言われたくないかもしれないけど)

「近藤さん!こいつだけ仕事サボっていいってのかよ」
それを云われると確かに弱い。戦力にならないからってトッシーだけサボってていいというのも不公平な話だろう。
たりない頭で必死に考えた末、ちょうどとおりすがった山崎の首根っこを捕まえる。
「な、トッシーに仕事教えてやってよ」
山崎ののほほんとしていた顔が見る間にひきつった。
「お、オレがですかァ?!」
「電算室連れてってさ。パソコン使った書類整理くらいはできると思うんだ」
オタクだしパソコンとかには詳しいんじゃないのかな。知らないけど。
(ビデオの予約もうまくできないトシとは偉い違いだ)

渋る山崎を説得していると、トッシーがびしと人差し指を突きつけてきた。
「わかった!僕らを引き離して志村女史のところに行くつもりでござるな」
「そういうことか!近藤さんきったねーぞ」
「えええええ」
なんだそれ。酷い誤解だ。そんなことちっとも考えて、……たけど。ちょっとは。
左右からギャアギャアわめかれてじりじり後ずさる。

あきらめきった顔の原田がため息を吐き、巡回組はぞろぞろと門を潜っていった。
肩をすくめた山崎もそそくさと母屋へ走り去る。

え、なにこれ、ずっと俺がお守り当番?






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