マイライフアズアドッグ(後)


自室の襖を思い切り閉めようとしたけれど、途中で軋んで止まってしまう。
こんなときでも建て付けの悪いこの襖が恨めしい。お陰で近藤さんに肩を割り込まれてしまった。
俺を追いかけてきた近藤さんは手ぬぐいを握りしめていた。
「くんな、わんッ」
こんな情けないところ見られたくないんだ。あんたには尚更。
「そんなこといっても、そのままだとお腹冷えちゃうぞ」
半ベソで抵抗したけれど、近藤さんは引き下がってくれなかった。
暫しの襖越しの攻防戦の後、俺は自棄になってその場にへたり込んだ。
「うー、」
情けなくて悔しくて、俺は緩む涙腺を抑えきれなかった。
傍らにしゃがみこんだ近藤さんによしよし、と頭を撫でられて、更に目頭が熱くなる。

「俺に撫でられたから漏らしたんだろ?」
俺のせいだもんな、ごめんな。そう云って俺の頭を肩口に押しつける。
このひとはこんなときまで優しくするから厭になる。俺は甘えるしかなくなってしまう。

嗚咽が止むのを見計らって、近藤さんは軽く身体を離した。
「ほら、トシ、下脱げ」
「いい、自分で拭く、わん」
手ぬぐいをひったくって、ごわつく生地に辟易しながらベルトを外す。

「んだよ、じろじろ見るな、わん」
ズボンを下ろしたところで、毒突いて目を逸らしたら、近藤さんが膝に手を置いたままで云った。
「わんこのトシとえっちしてみたい」
目を丸くして顔を上げたら、近藤さんは小娘みたいに首を傾げる。
「ダメか?」
全然かわいくねぇよ。可愛くないけど。
ダメじゃねぇ、とごにょごにょ云ったら満面の笑みでひげ面が頬ずりしてきた。
あんたがせがまなくたって俺はいつだってあんたに抱かれたがってる。厭なわけないのに。


濡れた下着を子供みたいに脱がされて、俺はなんだかぞくぞくした。
促されるままに近藤さんの膝に座り込む。
顎を少し引いて目があったら、すぐに唇が塞がれた。
ざらざらした舌の感触。苦くない唾液。体中から力が根こそぎ奪われていくのがわかる。
目をぎゅうと瞑る。息をするのも惜しくて、近藤さんの制服の襟に爪を立てた。
厚い舌が粘膜を撫で上げる。舌の根本を甘く噛む。 
近藤さんのキスは無骨で優しくて、人柄そのものだから、俺はぼうっとなってされるがままだ。

口の端から漏れる唾液を音を立てて吸って、生暖かい体温が離れた。
ほんとはいつまででも口づけていたい。
眉をひそめて瞬きをしたら、今度は額にキスをくれた。

制服の前がはだけられる。冷たい空気に鳥肌が立ちそうになる。
胸を探る掌。突起を潰すように動く。
こんなところが感じるなんて自分でも信じられないけれど、不器用に動く指だけで下半身は痛いほど張りつめてしまう。

「もう、こんなだぞ」
性器を直に握り込まれて、きゃうん、と甲高い鳴き声が出た。
思わず口を塞ぐけれど、近藤さんはその手を剥がして、もっと聞きたい、と云う。
悪戯っこみたいな笑い方。反則だ、そんな表情。
右手の動きも相まって、危うく上り詰めるところだった。
せめてもの抗議として、俺は喉でぐるぐる云った。


近藤さんの節くれ立った指が、後孔でぴちゃぴちゃ音を立てる。
潤滑油のぬめる音だとは判っていても、自分が濡らしているような錯覚がして羞恥に目が眩む。
異物感よりも焦れったさが勝って、無意識に腰が揺れる。
「はー、は、」
やけに息苦しくて、大きく開いた口から舌がだらりと垂れる。
犬みたいだ。いや今の俺は半分犬なんだからそのせいのかもしれない。酸欠になりそうだ。

「トシ、後ろ向け」
余裕のない近藤さんの声に目を眇めると、身体が反転させられた。
「?」
ひょい、と腰を抱えられて、尻を突き出すような格好になる。
「やだ、こんな…」
こんな獣みたいな体勢。それでももう下半身は笑ってしまっていて、突っぱねようにも叶わない。
「きゃん!」
入り口に宛われた怒張がぎちりと鳴って、肉を割り開いていく。
太いところが内壁を擦っていく衝撃に、瞼の裏がちかちかする。

緩やかな動きに気が遠くなりそうになりながらも、涙声で訴えた。
「アンタの、顔が、見えな…っ」
見えないと不安になる。五感の全てであんたに溺れていたいのに。

急に楔が抜かれて、肩越しに振り向いたら近藤さんが苦笑していた。
「ごめんな」
肩を起こされ、近藤さんに倒れ込むような形になる。それから向き合うように腿を跨がされた。
空いた空洞はすぐに疼き出す。
熱い昂ぶりに粘膜を擦りつけるようにすると、それはすぐに入り口を捉えた。
今度はさして抵抗もなく、ずぐり、と根本まで入り込む。
中で角度が変わって、俺は奥歯を噛んで耐えた。

逞しい幹が痼りを突くのに、いくら我慢しても喉から、きゅう、きゅうと情けない鳴き声が漏れる。
えくぼに唇を寄せて、汗を舐めて。
俺は近藤さんの首に思い切りしがみついて喘いだ。





「お、起きたか、トシ」
気が付いたら近藤さんに膝枕をされていた。
絣越しの、ごつごつした筋肉の感触は決して気持ちのいいものじゃなかったが、思わず尻尾がたふたふ上下に揺れる。
「こんなんでどうするんだわん、隊務にも支障が出るわん」
頬を膨らませて文句を言うけれど、近藤さんはガハハと笑って取り合わない。
「戻るまで有給使えばいいじゃねぇか」
「なんでそんな。勿体ない、わん」
「こんなかわいいトシを表に出せないだろ」
「…アンタ、バカだ、わん」
俺はぷいと顔を逸らした。冗談だってわかってるけど、畜生、嬉しいじゃねぇか。
そんなこと口が裂けても云えないけど。

確かにこの姿ではパトロールもままならないから、休暇といかないまでも暫くはデスクワークに従事するしかないだろう。
当分刀も振り回せまい。不満と云えば不満だけれど。
こうして近藤さんに愛玩動物みたいに構って貰えるなら、これも満更悪くないかも知れない、と思う。
悪い気はしない。だって元々、俺はあんたの犬なんだから。