たいむましんうぃーく・1


おやつのバナナを片手に玄関を出ると、門からダンボールが次々と運び込まれてくるのが見えた。野次馬よろしくダンボールの列にくっついて行くと中庭に出た。濡れ縁にうずたかく積まれていく。

「なにこれ」
運び手の隊士に指示を出していた山崎に聞くと、
「あ、触らないで下さいよ」
シッシ、と猫にするみたいに手で追い払われた。なんだよノケモノにして。ぷうと頬を膨らませれば、見かねた隊士が説明してくれた。
「赤十字党のアジトから没収された商品です」
「ああ」
言われてみれば、なんかそんな報告が上がってきていた気がする。
消費者相談センターに持ち込まれた苦情から、問題の会社を調べてみたところ急進左派の赤十字党のフロント企業だということがわかった。なんでも無認可の商品を、天人から密輸入して捌いていたらしい。
俺はバナナをポッケにしまい、おもむろに口の開いたダンボールから覗く化粧箱をひとつ取り出して見る。思いのほかずっしりと重い。縁側に腰掛けて中から本体を出せば、でっかい皿を二枚合わせたような形をしている。女性向けなだけあって薄いピンク色でなんだかテカテカしていて、俺はサりーちゃんのコンパクトを思い出した。
外箱には『ハイパーアンチエイジングマシーン』というセンスのない品名、『びっくり!ホントに若返る!』などと胡散臭いキャッチコピーが斜めにあしらわれている。
「若返るわけねーじゃん」
思わず苦笑いしてつっこむと、隊士が首を振った。
「若返るんです、それが」
「へ?」
「若返るのが問題なんです」

それ、どういう。聞き返そうとしたら俺のせりふにかぶせて、足音がどすどすと渡ってきた。
「これで全部か」
柱に肘をついてダンボールの山を眺めるトシに、山崎は背筋を伸ばして敬礼をする。随分俺の時と態度が違うよなぁ。
「はい、取扱い製品の九割は件の商品でした。残りの在庫も運んであります」
「廃棄の方法も考えねえとな」
「ですね。ヘタな処理じゃ宇宙線とか放射線とか出そうですし」
そんな大掛かりなもんなのかな。こんなに子供だましのちゃっちい形なのに。
二人の会話を聞きながら色々いじっているとぱくんとフタが開いた。フタの裏は鏡のようだ。手前側には玉虫色をした操作用のパネルがあって、めもりみたいなのもいくつか付いている。表示は天人語なので読めない。まじまじ眺めていたらこちらに気づいたトシが切羽詰った声を上げた。
「あ!やめろ、近藤さん」
「局長、いじるなっていったでしょもー」
呆れたような山崎の声をバックに、俺めがけ血相を変えたトシが走り寄ってきて、俺の手から機械をひったくってスライディングした。板張りの廊下を一メートル弱も滑ってがなる。
「不用意に開けるな馬鹿!これ危ねぇんだから……」
振り返った表紙にトシの手が装置のパネルに掠ったのが見えた。開きっぱなしだったコンパクトの鏡がちかっと光ったと思うと、次の瞬間、ばん、とフラッシュをたいたみたいに閃いた。眩しさに思わず顔を覆う。

暫く目が開けられなかった。ものすごい光量を浴びてちかちかする網膜を持て余しながら瞬けば、なんだかトシの体が一回り小さい。見間違えだろうと眉を顰めながらだましだまし目を開けるけれど、完全に視界がクリアになってもトシの大きさは変わらなかった。

装置の手前、だぶだぶの隊服できょとんとしているのは、
十五かそこらの、出会ったばかりの頃のトシだった。

庭にいた隊士たちも絶句している。
その場にしりもちをついていた山崎が天を仰いだ。
「やっちまった……」




「報告書あげたでしょ、ちゃんと読んでくださいよ!」
背中にべったり張り付いているトシをぶらさげながら、俺は山崎の言葉に項垂れた。
マーカーで彩られた紙面には次のようにある。
『ほんとうに若返ってしまう』仕様。正確には「若い頃の自分」になってしまう、というわけ。つまりちょっとしたタイムマシンのようなものなのだ。おまけに記憶ごとそのころに逆戻り。販売後苦情が殺到したのはそのせいだ。
「ごめん、あの、今回はほんとに俺がゴメン」

広間に集った隊士たちの視線はどちらかというと好奇のものだった。
「すげー。副長がチビだ」
「なっつかしーな。こんなんだったなぁ」
原田なんかは親戚の子を見るみたいに目を細めている。
総悟の隊服がちょっと大きいぐらいのサイズだ。髪は昔のように結い上げてやった。トシは俺たちのやりとりなどどこ吹く風で、きょろきょろ辺りを見回している。
「すげーな、近藤さん、この広い御殿が俺たちの愛の巣なんだな」
「いや、愛の巣とかじゃなくてね……」
ものめずらしげに俺の髭を撫で回してばかりのトシに、ここは十二年後の世界だということ。江戸に出てきて一旗あげて、今は警察の特殊部隊を担っていること。など、一通り説明したけれどわかっているのかいないのか、十代特有の落ち着きのなさとフワフワした軽さを振りまき続けている。
「だからあれだろ、あんたが組長でおれが姐さんみたいなもんだろ」
「ええと」
なんだかこの辺の話の通じなさは筋金入りだな、と思う。この頃に比べたら一応仕事は仕事でモードが切り替わる分だけ今は成長したよ。

全く発展性のない会話に山崎が肩を落とす。
「まあ起動したときの設定見たら長くても一週間で戻るみたいなんで」
そう言い捨てると、あーあ、シフト組み直さなきゃだよ、と頭を掻きながら腰を上げた。






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