ぱんつ大作戦(後編)


乱暴にトランシーバを取り上げ、土方は答えた。
「はいこちら土方!」
「大変です副長!」
「なんだ!」
「あのメール本物でした、縫製工場に問い合わせたら生地のすり替えが行われていたウラが取れました、こっちも至急捜査を進めます、そちらにも増援を向わせますので、急いで下さい!」
スピーカーの向こう、山崎のテンパった声音に唸る。
「だから急いでんだろが!」
近藤に関しては、自分のカンが外れたことは無い。土方は無線機をガンとダッシュボードにたたきつけた。

松平の机に残されていたパンフレットは臨海地区に新しく出来た、温泉が売りの健康ランドのものだった。近藤の携帯につけたGPSの精度は低く、大体の位置しかわからないが、その施設の一キロ四方にとどまっていることを確認。土方はパトカーを件の健康ランドに走らせた。

けたたましくクラクションを鳴らして、周囲の車を蹴散らし、施設の正面玄関につける。パトカーを乗り捨てようとしたところで、中年の婦警二人が駆け寄ってきた。
「ちょっとお兄ちゃん、ここ駐車禁止なんだけど」
「こっちでキップ切ってんの見えないのボク」
恰幅のいい体で行く手をふさぐように立ちはだかられ、土方は思い切りドスの効いた声で凄むが、
「知るか!今一大事なんだ!」
婦警は一向に怯みもしない。
「規則は規則だわよ」
「アンタその制服真選組でしょ?そんなだから一般人に示しがつかないってゆわれんのよ」
「死ねやババア!どけ!」
口汚く罵ると、訴えてやる!とキーキー言う婦警を振り切り、土方はエントランスに駆け込んだ。入り口で警察手帳を見せて踏み込む。
「お客さん、靴!靴脱いで!」
後ろで従業員が叫んでいるのも介さない。ぎょっとした顔の客と肩がぶつかるのにも構わない。
最近オープンしたばかりらしく中は混雑していた。ロビーで人ごみを走査しながら、足を更衣室のほうへと向ける。

「あ、土方さん。奇遇ですね」
のんきな声に呼ばれて振り向けば、施設で貸し出しているらしい揃いの甚平を着た万事屋一行が手を振っている。
「あにやってんの、血相変えて」
背に腹は変えられないと、土方は唾を飲み下す。
「お前ら、近藤さん見なかったか」
耳をほじる銀時は能天気極まりない。
「ゴリラ?しらねーよ」
「迷いゴリラアルか」
「なんかあったんですか」
ガりガリ君を食べながらのんきに尋ねる新八に、土方は低く、深刻な声を出した。
「ぱんつが爆発するかも知れねえんだ」
プー、と無遠慮に吹き出したのは銀時だった。ガりガリ君がピンクの虹を作る。
「はぁ?ぱんつ?」
「ぱんつがどうやって爆発?」
頭の横でクルクルやり始める三人に、殴り倒してやろうかと土方は拳を握ったけれど、もうこいつらにかまっている暇は一刻も無い、と思い直す。
「工場番号八○一のぱんつ…」
ぶつぶつ云いながらきびすを返せば、ぱんつの裾をめくった銀時の声が後ろから飛んできた。
「あ、おれのも八○一だ」
てめーのはどーでもいい!心中で叫びながら土方は踵を鳴らした。

制服のまま浴場に突入して警備員に取り押さえられそうになったり、トイレの個室をひとつひとつ覗き込んだりしながら一階から三階まで施設の中をくまなく歩き回ったが、近藤の姿は見当たらない。行き違いになったのかもしれない、ともう一度一階に戻ろうとしたとき、視界の端にとび色のつんつん頭が見えた。荒い息をいなして短く呟く。
「いた!」
軽食コーナーの前で、フランクフルトをほお張る二人連れ。
一風呂浴びたのか髪の毛は寝ているが、丈が足りず腹が見えそうな甚平、隣にはヤクザなサングラス。あれに違いない。人ごみをかき分け、近藤だと確信を得た土方は叫んだ。

「近藤さん!」
やばい、見つかった、という顔をした近藤にまっすぐ突進する。生憎行き止まりになっていて逃げ場はない。土方は渾身の力で近藤にタックルすると、
「ギャー」
そのまま下に履いていたハーフパンツごと引き摺り下ろした。
足元からひっこぬき、手元を確かめた土方は目を見張った。件のトランクスがなかったからだ。
「……履いてねえ」
人だかりができた円の中心で、下半身を押さえて見ないで!と訴える近藤を尻目に、土方は呆然と手の中の布きれを握り締めた。
「近藤さん、あんたぱんつは」
「さっき脱いだの!お風呂何度も入るから!」
近藤が半泣きで喚いて、松平は他人の振りを決め込んでそそくさと人ごみに紛れていった。
漸く増援に現れた隊士たちは事情を飲み込めず、遠巻きにツートップを眺める。近藤の下半身にパンツがないことに沖田は胸をなでおろし、山崎へと連絡を入れた。




「……てことで、回収終わったぜ」
近藤に手渡された分厚い報告書をぺらぺらめくって、松平はタバコの煙を吐き出した。
「ひでぇ目に遭ったな」
「ああ」
近藤はため息をつくように肩を落とした。
犯人は件の縫製工場の日雇い労働者で、契約を打ち切られた腹いせというのが犯行動機だった。
問題のパンツは流通経路を探り、ほとんどは小売店で押収。既に販売してしまった分に関してはテレビやラジオ等メディアを通じて呼びかけて回収したが、一般人の被害は銀時一人だけだった。せいぜいが軽いやけどをする程度の威力だったらしいが、股間に包帯を巻いて非常にしょっぱいカオをしていた、とは見舞いに行った山崎の弁。
「毛がないらしいです。焦げて」
「怪我はなくとも毛がねぇってか」
笑え、とトカレフを眉間に突きつけられる前に、近藤はハハハと笑っておいた。

「ほんとにトシはお前のことになるととんでもねえな」
公衆の面前で股間を剥かれたことについて、同情を買っているのだろうと察したが、近藤は首をぶんぶんと振った。
「いや、でも。なんだかんだであいつが後ろを守ってくれるから、俺は好き勝手できんだ。やり方はアレだけど、ありがてぇよ」
松平はサングラスの下でぴくりと眉を寄せ、ごちそーさん、と苦々しく呟いた。近藤は正しく意味を酌めなかったが、話を合わせて応えた。
「お粗末さまでした!」




100213
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(企画お題・『内助の功』、『近藤さんのためにヒドい目に合う』)
ご協力ありがとうございました!!^^