「失礼します」 副長室に顔を出した山崎はノートパソコンを小脇に抱えていた。 何だ、とも云わずに面倒くさそうな視線を山崎に向け、土方は読んでいた雑誌をその辺りに放った。 山崎は土方の文机の脇に膝を下ろし、灰皿やらでごちゃごちゃしている机の上にスペースを作ってノートパソコンの画面を開く。 「副長、これ見てください。うちの代表アドレス宛に来てたんですけど」 「ああん?」 件名は爆破予告。『一般市民のパンツを無差別爆破』というふざけた書き出しに、土方はふきだした。 「なんだこれアホか。ぱんつが爆発?」 「このテのいたずらは多いですからね。まあフカシだとは思うんですが、記述がやたら具体的なのでちょっと気になって」 本文によれば、該当のパンツは××社の工場番号八○一。ストライプのトランクスタイプの生地に体温と摩擦で発火、爆発するような薬液をしみこませてあるといった旨がつらつらと書かれていた。 「無差別テロにしたって効率悪すぎですし、やり口もふざけてますし、犯行声明元のグループ名もデータベースにありません。こちらへ対する欲求も書いてありませんし、狂言と考えるのが妥当かと。一応この縫製工場に問い合わせしようかとも思ったんですけど、副長どう思います」 とうとうと喋っていた山崎が土方を伺うと、視線がディスプレイの一点で強張り、微動だにしていない。 「八、○、一…」 ぶつぶつと番号をつぶやくと、顔からすうと血の気が引いていく。すっくと立った土方は絶叫した。 「きのう下ろしたての近藤さんのぱんつだ!」 猛スピードで走り出した土方は、振り向きもせずに言い渡す。 「山崎、レベル四の非常事態だ、全組員に連絡しろ!」 山崎は呆然と背中を見送った。なんでそんなのチェックしてるのこわい、とつっこむ暇はどこにも無かった。 山崎はうろたえながらノートをたたみ、とりあえずと幹部会議室の戸を引いた。中では沖田をはじめ原田や永倉などが油を売っていた。 「どうした山崎」 「沖田隊長、大変なんです、」 「ぱんつテロだろ」 ニヤリとした沖田の表情に、山崎は全てを悟った。よくもこう次から次へ思いつくものだと感心する。渋い顔で抱えたノートパソコンを机の上に置いた。 『PM 警察庁』 土方は走りすがりにホワイトボードの近藤のスケジュールを走査し、ブーツの踵も履きつぶしたままパトカーに乗り込んだ。 アクセルを思い切り踏み込み、サイレンを全開で鳴らし、信号無視も辞さない勢いで走り出す。 受付も強行突破し、SPの静止にも構わず、結果的に背中に黒服を二人ばかりぶらさげた状態で長官室の扉を蹴破った。エグゼクティヴチェアにもたれた松平と、机をはさんで談笑していた近藤は土方の必死の形相にぎょっとして振り向く。 荒い息を肩で整えた土方が、 「今すぐぱんつを脱いでくれ!」 と雄叫ぶに至って、近藤の顔は思い切りしょっぱい顔になり、松平は紙巻タバコを取り落としそうになった。 「いこうぜ、とっつぁん」 近藤は松平を促して席を立たせると、部屋の奥まで歩き直通のエレベーターのボタンを押す。 「非常事態なんだ、信じてくれ、今すぐ脱がないとひどいことに」 「脱いだほうがひどいことになると思うんですけど……」 言い募る土方に、潰れた声で小さく突っ込むと、近藤は松平を押し込むように開いたエレベーターのカゴに乗り込んだ。 「待ってくれ、違うんだ、話を聞いてく」 黒服を振り切って走り出した土方の目前でエレベーターの扉は非情に閉まった。ガンと拳で叩くが、へたれている暇は無い。土方は松平の机の上、残されたパンフレットに目をやった。 一方、屯所。 山崎は携帯電話の発信画面ともう十分ほど睨めっこをしている。沖田のいたずらだとわかった手前土方の指示には従えないし、ネタバラシをしてしまうと沖田の報復が怖いしで、面倒くさくなった山崎はついに考えるのをやめた。ミントンでもしようと腰を上げたとき、ピンポーン、とノートパソコンが鳴った。メールの 受信音だ。 「あれ」 受信箱をクリックした山崎は眉を寄せた。 「『真選組局長のぱんつ爆破予告』…え?」 件名を読み上げ、怪訝な顔をして沖田を見る。 「お、沖田隊長、二通出しました…?」 テレビの前でチャンネルをパチパチ変えていた沖田は山崎の背中へ回り、受信メールの表示を見て云った。 「これだぜ、おれが出したの」 「え、え、ってことはさっきのは」 「たぶん本物」 「え、ええええええ」 100206 |