正しいあのこの飼い慣らし方(おかわり編)


昨日はメイドさんでその前はミニすカポリスだった。今日はなんだろ、と思うとため息が漏れる。あれで俺を悩 殺してるつもりなんだからすごい。

第一根本からあいつの認識はズレている。お預けされたところで俺としちゃ痛くも痒くもない。むしろ夜のお努めがなくなって睡眠不足も解消しているぐらいだ。
そりゃ俺だって健康な青年男児だから即物的に誘われたら勃起もするし、してほしいとねだられれば吝かではない。
でも抱きしめれば体中から力が抜けちまう、トシとのセックスはほとんど俺が『ご奉仕』するだけの行為であって。なんかいつも俺がワリ食ってるかんじ。ちょっと激しくするとすぐに気絶しちまうもんだから、こっちのペースで進めづらいし。あいつすぐ布団汚すし、それ全部片付けるの俺だし。

「セックスさせない」ことを脅迫材料に使おうなんざ呆れちまう。そのカードを切れるのはどっちかっていうと俺だと思う。

喧嘩の原因だって理不尽だ。
別に操を立ててるつもりもないが、結果的にそうなってるんだから。性病持ってくるでも石鹸の匂いさせてくるわけでもない。ただお妙さんでちょっくら命の洗濯をして愛の戯れを頬で受け止めて、それだけじゃんか。殺伐とした日常に癒しを求める権利ぐらい俺にだってあると思う。

まーそりゃ確かに今月は通いつめすぎたかもしれないけどさ。だからもうあの日からこっちはずっと屯所で大人しくしてる。
そうそう、あの日は勘定方に給料前借に行こうとしてトシにとっちめられて生活費って言って一万円借りて……もしかしてあれか?トシがキレた理由。


テレビをぼんやり見ながら考えていたら遠くでボーンと柱時計の音がした。ブラウン管の中、アナログ表示の横を走査すれば二と三の文字。十一時の鐘だ。
「今日は来なかったな」
こたつの隣で缶ビールを煽る原田に声をかけられて、ああ、と応える。
「あきらめたんかな」
大人しくなるなら越したことはないんだけど。そうぼやけば原田は豪快に笑った。
「今日は何が出るか賭けてたのに」
ちょっと離れたところで寝そべり週刊誌を読んでいた永倉と、な、と顔を見合わせる。
「おまーら人の不幸をなんだと……」

「アトラクション」
「娯楽」
二人の声がステレオで届いて、俺ってほんとに愛されてるなと涙が出た。畜生。




一万円はムリでもブタの貯金箱にちょっとは入ってたと思う。確かにトシに金借りてキャバに行ったのはデリカシーがなかったかもしれない。ウンそこは謝らないとフェアじゃないかも。
独り言をぶつぶつ。顎に手を当て髭を擦りながら、冷えた廊下を早足で渡る。

部屋の電気がついているのにも気づかず戸を引いて、目の前に現れた物体に俺は度肝を抜かれた。


緑。緑の河童。……の、着ぐるみ。
丸々としたシルエットは間抜けという他ない。子供番組とかCMに出てきそうな感じの可愛らしいフォルムをしている。皿の下に丸く顔の部分が空いていて、アヒルみたいなプラスチックのくちばしをつけているが眼光は見間違えようもない、トシだ。
暫し目を見開いて凝視する。見詰め合うと、トシはプラスチックのくちばしのなかから篭った声を出した。
「こ、興奮するか?」

「へ?」
俺はやっとのことでそれだけ云った。
それにかぶせて、笑い声がどっと弾けた。まさに爆笑。
ぎょっとしながら声のしたほうに顔を向ければ、押入れから総悟と山崎がもつれ合って転がり出てきた。ヒーヒー言いながら畳を叩いている。
「ちょ、副ちょ、ほんとにソレ…ブフッ」
「こんなアホなテにひっかかるたァさすがの俺も毛頭、ブ、ブハッ」

ワナワナと震える着ぐるみの下、多分トシの顔いま般若みたくなってる。他人事ながら背筋が寒くなる。俺は混乱して上手く働かない頭で、それでもここで死人が出るのはいやだと思った。
「ま、お前、ら……」
くちばしを畳に放り、くるりと山崎たちのほうを振り向いたトシが、
「斬る!ぶった斬る!」
そう叫んで振りかぶって、自重でドテッとその場に倒れた。多分ココまで計算づくだ。
山崎は半分這って、総悟はケラケラ笑いながら襖を引いて逃げていった。

「いーもん見せてもらいやしたァ」
語尾に音符マークでもつきそうなはしゃいだ声を上げながら。山崎の手に何か機械のようなものが見えたけれどそこは見なかった振りをしていたい。


総悟たちの出てきたあたりに転がっているDVDパッケージを拾い上げ、俺にもことの全貌がようやく見えた。多分俺が最近これにハマってるとか、そういうようなことをトシに吹き込んだんだ。しっかしどんな内容だコレ。ジャケットには河童の着ぐるみに身を包んだ女優。(なのかも疑わしい。顔なんかちょっとしか見えないから)盗撮!妖怪の世界!とかそういうアオリがついてるけど、盗撮もクソもねーよ。思いっきりカメラ目線じゃんか。
裏面のキャプチャも緑一色で肌色はどこにもないところを見るだに、ホンバンなんかないのだと思う。多分脱いだらオワリなんだろうな。これでヌこうという人間がこの世に存在する(だからこそこうやって商品化をしている)のだからアダルトの世界は奥が深い。


畳では脱力した河童、否トシが肩を震わせている。俺はさすがにかわいそうになって手を伸ばした。ぶんぶんと頭、というか河童の皿が揺れ、致し方なしに俺は傍に座り込む。
「脱げば、ソレ」
そう声をかければ皿は大きく頷いた。

ジッパーまで後ろ手が届かないようだったので俺も手伝って脱がせてやった。中から若干汗ばんだ、ぱんつ一枚のトシが出てくる。よかった、今日は男物っぽい。ガラはよく見るとイチゴだけど。
俯いていて目元は見えない。汗ではりついた前髪をすくってやれば、眉間には思い切り皺が寄っていた。ものすごく悔しいのだろう、今にも泣きそうなトシの頭を、俺はぽんぽんと撫でる。
なんて慰めてやればいいやらわからず、
「……がんばったね」
そんな見当はずれのせりふが口から漏れていた。トシはきっとこちらを睨む。
「だって、あんたが。色々したのに全然、なびかないから、」
つっかえつっかえの恨み言を、食いしばった歯の間から訴える。
ああ、こいつのこの表情を、かわいいと感じてしまうのだから俺の脊髄も罪深い。
「うん」

なんかよくわからないけど。そうは声に出さず、
「ごめんな」とだけ言った。
トシは何度も首を振った。ぱさぱさと黒髪が揺れる。
「許してやる、から、」
「うん」
だから、の後のせりふはごにょごにょと潰れてしまった。でもご期待に応えて、俺は皺の寄せられた眉間にキスをしてやった。




ひっくり返して高く腰を掲げさせ、膝がすぐ笑ってへたりこむようになるのをだましだまし支えてやる。
じっくり慣らしてやろうと思ったのに、ものの数分で音が上がった。
「やあ、も、そこやだ、ッ」
抗議の声を無視しつづければ、半泣きに近い懇願が漏れる。
舌を尖らせて蕾をくじる。時折唾液を吸い上げる品のない音が響いて、それがどんどん俺とこいつの興奮をエスカレートさせる。
前の器官は根元を握りこんで塞き止めているものの、もうぐずぐずで離したらどれほどももたないだろう。

俺も限界を感じて、自分の下帯を引き下ろした。
「……入れるぞ」
「ふ、」
色の薄いそこを親指で開く。先端の照準を合わせて軽く衝く。触れ合った粘膜がぐずりと音を立てる。期待でかちりと歯が鳴る音。
「ゥあ、あ」
びっちりとまとわりつく肉壁を割り裂く。大きく息を吐いて、脳天を突き抜けるような愉楽をやり過ごす。
「あー、アぁ、ーッ、」
進入にあわせて長い嬌声が鼓膜をふさぐ。悲鳴みたいなそれはけれど行き過ぎた快楽のものだ。どこをいじればどういう反応が返るのか、もう隅々まで知り尽くしている。顎に滴る唾液を拭ってやる。

「トシ、」
呼べば中がぐずりと蠢く。トシは、ひ、と小さく息を呑んだ。
意識がなくなったって名前を呼べば身体が跳ねる。身体のすべてで俺を求める。そんなふうにされたら誰だって付け上がっちゃうだろう。ごめんな。俺だって好きだよ、お前とこうするの。
無意識に逃げる腰を引き寄せ、際まで打ち付けた。
「ヒ、ィあ、」
「……う、」
喉で唸る。泡だった結合部を視界の底で捕らえて、あまりの卑猥さに目の前がちかちかしてきた。熟れ切った朱、トシの耳みたいに真っ赤。

前かがみになりトシの背中に胸板を寄せる。肌はじとりと重なる。
「いいか、」
判りきったことを聞けば、喉をひくつかせながら絶え絶えに声を紡ぐ。
「きもちい、イ、ァ、んど、さんッ…」
竿を探って握ればすぐに弾けて、もう意味のある言葉は聞こえなくなった。
ぬるむ叢の下でびちびちと、袋が湿った音を立てる。立ち上る汗と、精汁と、どこか甘ったるいようなトシの体臭。
掠れてすかすかな声が俺の肉欲をおもうさま煽る。残った僅かな理性も段々霞んでくるのに、俺はどこか安堵に似たものを感じていた。





あらかた身体を拭いてやって、洗面器に湯を絞る。
寝巻きを着せ掛けていたところで、トシがううん、と唸った。
「あれ、起きた」
目を覚ますなんて珍しい。あまり力の入らない身体に布団をかぶせてやり、俺も隣に横になる。トシは上半身をむっくり起こすと、顔をずずいと近づけてきた。
「な、どれが一番グッと来たよ」
「へ」
「へじゃねーよ。俺のしてたカッコの、どれが一番グラッて来たんだ」
メイドか、ミニスカか、最初の晩のやつか。後学のために知りたい、と来たもんだ。
俺は返答に困り、自分の髪をぐしゃぐしゃとひっかく。正直に言うのもアレだけど、答えようによっては阿鼻叫喚になる予感がする。
「いや、俺は、なんていうかその、そういうのはないほうがいいっていうか」

突然背中に酷い衝撃が走って、一瞬息が止まってしまうかと思った。
咳き込みながらトシに背中をどつかれたのだと知る。咽ながら目を白黒させると、トシはにやけながら顔を赤くしている。
「近藤さんのスケベ!」
照れるぜ!と両手で口元を覆う、意味がわからずぱちぱち瞬いていれば、こう放言した。
「それって生まれたまんまの姿のおれが一番いいってことだろ?」

絶句というのはこういうものなのかと思い知る。じんじんする背中を庇い、曖昧に笑いかけてやる。コメントは敢えて自粛することにした。




なお、トシの河童姿が食堂のテレビを席巻してひと悶着するのはまた後日の話。




091110