三日連続ですまいるに通って、今日なんかワイシャツに紅までつけてきて、首根っこをひっつかんで怒鳴っても 「お妙さんに口紅つけてもらっちゃった」と(偶然ぶつかった隙にできたらしく、お妙からも既に半殺しにされていた)はしゃいでいる近藤さんを四分の三殺しにして、それでもヘラヘラしているものだから、 おれのイライラは頂点に達した。もう怒った。 「もうやらせてやんねぇから」 啖呵を切れば近藤さんは豆鉄砲を喰らった鳩みたいな表情になった。 俺を宥めに入っていた斉藤や山崎も動きをはたと止め、奇妙に顔をゆがめている。 「や、う、うん、え?」 要領を得ない反応に、おれは胸元に人差し指を突きつける。 「聞こえてンのかよ」 「聞こえてっけど、な、なにを?」 「だからセックスをだよ!皆まで言わせんな」 ああやっぱりそうなの?とひきつった笑いで首をひねる近藤さんに、 「あんたが心底反省して謝ってくるまでおあずけだかんなッ」 おれは捨て台詞を吐いて背中を見せた。 ぜんたい酷い話だと思う。こんなに堂々と毎日のようにキャバに通って、若い女にデレデレして貢いで、それをおれに隠そうともしない。おれには指輪一つ買ってくれやしないのに。もうちょっとバツが悪いような態度してみやがれってんだ。おれに女相手の自慢話するとか、なんとかって店のなんとかちゃんはかわいいから今度はお前も連れて行こう、二人が並んだら似合いだ、とか。頭になんか沸いてるとしか思えねえ。 甘い言葉やボディタッチが欲しいならおれがいくらだってしてやる。殴って欲しいならそれだっておれがやる。そんな場末のキャバ嬢どもよりおれのほうがよっぽど美人だし体のラインだって締まってる上に熟れてると思うのに。しかも男心をくすぐる下着やらコスチュームやら、昼夜調査は欠かさない。こんなに献身的な恋人なんかそうそういないぜ? 気がすすまないような素振りを見せながらも、セックスのときのがっつきっぷりはすごい、気絶しちまうぐらいに翻弄してくる。近藤さんは間違いなくおれの体の虜。 だからお預けは堪えるはずだ。 翌日。 晩飯時が済むと部屋に戻って着替えたおれは、意気揚々と休憩室の襖を開ける。 中にたむろしていた隊士連中はおれの姿にざわついた。昨日通販で届いたばかりのレーシーな紫のオーガンジー素材に、黒い細身のリボンがあしらってある上下。あまりのセクシーさにびっくりしたのか腰を抜かしたり涙目のやつまでいる。感極まったか、バカめ。 「え、ええと、もらい物の饅頭分けてたところなんですけど、要りますか…」 山崎がつとめてなんでもなかったように、紙箱を差し出してくるのを、手でひらひらと払う。 「いらね、あっち行ってろよお前ら。空気読め」 「あ、いいからいいから。みんな遠慮すんな、むしろここにいてェェ」 近藤さんが情けない声を出して周囲にねだった。そうか、みんなにいてもらわねぇと理性が保てないっていうんだな。近藤さんったら可愛い。 おれは意地悪く口角を上げると、近藤さんの隣にべったりくっついてこたつに入った。ぎしりと近藤さんの体が硬直するのがわかる。 「これセクシーだろ」 「う、うん」 「ぱんつの前のとこリボンで編んであるんだぜ、見たいか?」 こたつ布団の端をちょっとめくれば、遠慮します、と慎み深い返事。 ちらちらと四方に視線を泳がせていた近藤さんは、ごくりと喉を鳴らして切り出してきた。 「ええと、言いにくいんだけど、トシ」 「なんだ?」 待ってました。キラキラした目を向ける。ホーラもう我慢できなくなったんだ。 やりたいんだったらちゃんと謝れ。俺にはお前だけですすみませんって言って土下座しろ。したらこのパーフェクトボディを惜しみなく捧げてやるよ。安いもんだろ。 頬を上気させて謝罪の言葉を待てば、 「カゼひくよ……」 そう言うとおれの肩に羽織を着せ掛け、尻を掻いて腰を上げた。 こたつに残されたおれは歯噛みをする。 しぶとい。 そんなやり取りを三日も続けると、だんだんおれのほうも痺れが切れてきた。 おれなんか近藤さんの匂いだけで勃起してしまうのに。いや近藤さんだって間近でおれの肢体を見せつけられてムラムラきてるはずだ。あのひとはこんなときばっかり強情なんだ。 三度目の誘惑作戦も失敗し、ぶんむくれたおれは額につけていたフリルのカチューシャを畳に叩きつける。今日ともなると休憩室にはほとんど隊士はいない。 こたつでみかんをむいていた総悟がニヤニヤしながらおれを覗き込んできた。 「なかなか折れてくれませんねぇ」 「ふん」 「そんな土方さんに、近藤さん攻略のツボを教えて進ぜやしょう」 「は?」 訝しく聞き返せば、総悟はごそごそと袂を探った。 ついと差し出されたDVDの、パッケージの色におれは眉をひそめる。タイトルロゴとアオリはAVのそれだけれど、いやしかしこれは。色モノ通り越して、ほんとにAVなのか? 「なんだこれ」 「近藤さんが先月買ったえろDVDでさァ」 「そ、そんなの先月の引き落とし明細には出てなかったぞ」 近藤さんはアダルトはおもに借りる派で、相当気に入ったやつだけアまゾンで注文している。おれがチェック漏れするなんてことは。そういえばさらりと反論された。 「これはおれが直々にお使いを頼まれたんでさァ」 確かにこういうちょっと特殊な内容の場合総悟に頼むのが早いかもしれない。しかし近藤さんの趣味ってもうちょっとわかりやすいやつで、こんなのは範疇外、のはず、 「最近目覚めたそうで」 と囁かれて、おれは総悟と至近で視線を合わせた。目の色はいたって真剣そのものだった。 091108 |