先生の目を、おれはまっすぐ見た。彼の言うことはもっともだと思う。 まだ二十歳そこそこの自分に、これから先のことがみんな計算できているだなんて思っていない。同情かもしれないし、早計かもしれない。それこそ勘違いなのかもしれない。 「それでも、」 喉がきしと鳴った。石を両手で握る。 「トシと二度と会えなくなるなんていやだ」 言い切るや否や、掌の感触がふっと消えて、代わりに目の前にばつの悪そうな表情のトシが現れた。 「トシ!」 思わず抱き寄せて、よかった、よかった、と背中を叩く。トシは身を強張らせて、顔は耳まで真っ赤だ。 あーあ、と総悟が呆れた声を出し、先生もちょっと肩を竦めたが、ふたりともどこかやさしい顔をしていた。 部屋に帰るころには東の空が白み始めていた。鍵を開けるとトシが先に身体を滑り込ます。 薄暗い部屋にずかずか入っていき、トシは部屋の畳の真ん中まで来てどすんと膝を落とした。帰り道もずっと生返事だったから、訝しく思った。俺は後を追い、電気もつけず向かいに座る。 「どうしたんだ」 顔を少し寄せて聞けば、 「おれも、」 トシはいつになく神妙な調子で話し出した。 「おれもそこまで図々しくないから、一度だけしか云わねえ」 ごくりと、喉が不自然に上下する。苦しい息を吐くように、トシは続けた。 「あんたの傍に、いさせて欲しい」 表情に余裕なんか無かった。こいつはこのせりふを云うのにどれだけの勇気が要ったのだろう。 こいつの、ひとりで生きてきた数百年を思えば、俺の五十年そこそこなんかみんなこいつにやったっていいような気がした。それに、ずっとふたりなら寂しくない。 「うん」 答えればトシの目が心細げに瞬く。俺は正面から抱きしめて、云った。 「俺の隣、お前にやるよ」 トシが何度も頷いて、鼻梁が肩の辺りに何度もぶつかるのを、俺は確かにいとおしいと思った。 畳に組み敷いた身体は緊張で強張っていて、歯なんかかちかち鳴っている。俺は鼻先を寄せて、額や目頭に軽くキスを繰り返す。俺だって初めてで上がっていたけれど、トシのおかげで少しは落ち着くことができた。 ケープの紐を解いて、袷からゆっくり手を這わせる。胸板には当たり前だけれどふくらみは無く、指先で探った突起をそっとなぞるとトシは、ひっ、と息を呑んだ。形を確かめるよう摩ればぴんと張り詰める。 首筋から鎖骨を食み、舌で辿っていく。 「あ、あ」 着物の裾を全部暴いて、笑っている膝を抱えて思い切り開かせる。上擦る声につられて股座に手を伸ばせば、大きくため息が漏れた。 粘膜はどんどん湿ってきて、すぐにくちゅくちゅと卑猥な音が立ち始めた。同性の性器ということに抵抗が無かったわけじゃないが、顕著な昂りにだんだん俺も煽られてくる。右手で亀頭を弄ったまま、左手で入り口をなぞると、ひちゃりと濡れた感触がある。指は簡単に飲み込まれていって、トシは感じ入ったように頭を振る。ここ濡れるとこじゃないと思うんだけど、やっぱり人間と違うのかな。 打てば響くような反応がもっと見たくて指を増やし、動きを大胆にしていく。だらしなく顎を伝った涎を吸い上げて、俺の頭も沸騰しそうだ。 「っぐ、あ」 トシの中は当たり前だけど狭くて、全て収めたころには俺も汗みずくだった。痛いぐらいにきつい締め付け、ぬめり、全てを飲み込まれている快楽。大きく息を吐けば質量が増したようで、トシの喉から悲鳴じみた声が上がった。 「う、わ」 中がぐずりと蠢く、奥へといざなうような蠕動に思わず歯を食いしばる。 「んだ、これ」 トシのことを思えば慣れるまで待ってやったほうがいいと、わかってはいるけれど幾ばくも我慢ができそうに無い。衝動に駆られるまま腰を動かせば水音がぐちゃぐちゃと鼓膜を灼く。 「ひゃあ、ン、う」 トシの声がせりあがってひしゃげていくのを聞くうち、中に全部ぶちまけることで頭がいっぱいになって、俺は一心に突き上げた。 気を失ってしまったトシを布団に寝かせてやったところで、ドアベルがブーと鳴った。時計を仰げば時刻は七時半。誰だ、こんな早くから。 「ちょっと、近藤さァん」 「あ、はいっ」 返事をしながら扉まで駆け寄る。声の主は隣の部屋の長谷川さんっぽい。ドアを勢いよくあければ、案の定げんなりした長谷川さんが枕を小脇に抱えていた。俺を認めるとしょぼしょぼした目で瞬く。 「あのね、俺夜勤だからさっきとか寝入りばななの。この時間帯に騒がれると迷惑なんだよね」 「あっ、す、すみません」 「しっかしカノジョさん?随分ハスキーなのね、男みたい」 「え、あ、ん?」 おかしいな、俺の声はともかく、トシの声なら聞こえないはずなんだけど?興味があるのかちらと部屋のほうを覗いて、あれ、と長谷川さんは言う。 「お相手もう帰ったの、早いね」 ほら、こんなふうに布団に転がっているトシの姿は見えていないようだ。 女に関してはアンタは大丈夫だと思ったのに、と、なんだか失礼なことを言いながら、長谷川さんは自分の部屋へと戻っていった。 「……なんでなんだろ」 呟いた俺の背中から、ゴホン、と咳払いが聞こえた。 「……してるときは実体化するんです」 「ドッキング中は他の人にも見えちゃう聞こえちゃうらしいですぜィ」 振り向けば先生と総悟が並んでいた。驚いた俺に先生はしどろもどろに弁解を始める。 「違う、デバガメとかじゃなく、僕はただ様子を」 総悟はでかいタッパーをふたつ抱えていて、そのうちのひとつを差し出した。 「これ姉上から、赤飯もってきやした」 オラ、起きろ貧乏神!と吼えながらもうひとつのタッパーを投げつけ、あっちぃ、とトシの悲鳴が上がる。主人より長く寝ている嫁があるか、などと小姑のようなことを言いながら先生も総悟に続く。てゆうか嫁って言った今? まだ熱いタッパーを手に、頬が自然と緩んだ。とりあえず、また長谷川さんに怒られないうちにあいつらなだめないとな。 こうやってわいわいやりながら今日も明日も続いていけばいい。横にはずっとあいつがいる。そう思ったらなんだか面映かった。 (了) 091231 |