深夜になって、酒のストックが切れた。 一升瓶を一つ空けた程度だったが、腹に何も食い物を入れていないせいか酔いが回るのは早かった。ふらつく足で戸を開け、庭に出た。通用口から出た方が灘屋は近い。 「寒……」 風の冷たさに、シャツ一枚だけで出てきた事を後悔した。 空を見上げたが、雲が出ているのか星も月も見る事ができない。視界に白いものが過ぎり、目を凝らす。よくみるとそれは雪で、足元にはまだ積もることもなく溶けては消えていった。 クリスマスに雪が降る。できすぎた舞台装置は、近藤のために用意されたものなのかもしれない。確かに顔は女に好まれ憎い男臭い面だが、あれはあれで男らしくていいとも言える。何より真っ直ぐな気質だ。あれに愛されたら、女は幸せになれるだろう。 うまく言っていればいい、と鬱屈しながらもそう思った。そうでなければ、俺はまた期待をしてしまう。自分が一番近藤のそばにいる人間だと、そんなくだらない誤解を持ち続けてしまうだろう。潮時と見定めるなら、このあたりが適当だ。 庭を横切り、裏門から外に出た。 灘屋のツリーはあいかわらず光っている。中に入るのも面倒だったので、自販機で適当に酒を買った。ごろん、と落ちてくる瓶を拾い上げ、腕に抱えて踵をかえす。 しかし屯所の裏門へと辿り着く前に、目の前を車が横切っていった。ゴツイ黒塗りのベンツ。車は裏門の前で止まり、扉が開くと当時に人間が一人吐き出された。 何か言い争う気配。すぐに扉は閉じられ、その人間の前から走り去っていった。 「近藤さん」 「……あ、トシ?」 車に吐き出されて以来、地面に座り込んでいる人間は近藤だった。 頬に一発、鮮やかな拳の跡がついている。もちろん、唇と鼻から出血していた。ポケットからハンカチを出そうとしたが、上着に入れっぱなしだったことに気がつき舌打ちする。仕方がないので、袖で近藤の顔を拭った。 「失敗だったって面だな」 「…トシ……俺、な……俺は、俺……っ」 よほど強く言われたのだろう。近藤の目には涙が浮かんでいた。 屈んで顔を拭いていたが、途中から拭うものは鼻血から涙に変った。 普段は滅多なことで涙を見せる人間ではないが、女が絡んだ時だけよく泣いた。必然的に、近藤の泣き顔を一番見ているのは俺と言うことになる。 「まあ、そういう時もある」 「……っ、……う、…ぉ」 「泣くな、近藤さん。酒でも飲もう」 「……としぃ……っ」 頭を撫でると、そのまま近藤はおんおんと俺の胸で泣いた。熱い涙がシャツを濡らす。鼻水もついでに擦りつけられたが、別段気にもならなかった。ハンカチがあったら、鼻をかんでやってるところだ。 視線を上げると、近藤の頭に雪がくっついていた。払い落とし、一緒に立ち上がる。クリスマスツリーが光る灘屋の前を通りかかった。近藤が、ずっと手に握っているものがその明かりで分かる。くしゃくしゃに潰れたプレゼントの袋を、俺はその手から半ば強引に引きはがした。 「俺がもらっておく」 「トシ?」 「たまには俺だって、アンタから何か欲しいと思う時があるんだ」 言葉の意味が分からないのだろう近藤が、涙を拭いながらこちらをむいた。でかい図体して子供が縋るような目で俺を見るなと言いたかったが、不覚にも胸が苦しくなり、顔を反らす。ぽんぽん、と背を叩き、再び一緒に歩き出した。 「もうどこにも行くなよ」 誰にも聞かれないような声で呟いた。 クリスマスが嫌いになりそうだ。 やはり俺は、この男のそばから離れられそうにない。 灘屋のツリーをちらりと振り返り、俺は深い溜息を一つ、ついた。 |