Drifters


「じゃあスタン、夕方まで留守にするから。カイルをお願いね」

スタンの行儀のいい返事を受けて、ママはにっこり笑ってドアを閉めた。
「これ明日の宿題のメモと、来週のバザーのプリント」
スタンはバックパックを探り、僕の机の上に並べていく。
「ありがと」
僕はベッドの上から形だけそう返事をし、二人で目配せをして息を潜める。

階段を下りる音が遠ざかっていき、最後に玄関の扉が閉まる音を確かめると、スタンは腰掛けていたデスクチェアからひょいと下りた。カーテンを閉め、僕のほうへ向き直る。

「Dude,それで風邪はどうなんだよ」
スタンが僕のベッドに腰掛けると、スプリングが撓んで小さく軋んだ。
「もう大丈夫だよ、熱も大体下がったし」
覗きこんでくるスタンが視界に大写りになる。僕が目を伏せると、スタンの額がこつりと僕のそれに押し当てられた。
「まだ少し熱いかな、」
至近距離で見つめあえば我慢できそうになくて、僕は少し首を浮かせ、音を立ててスタンにキスをした。
スタンもそれに応えて、こちらに体重が預けられる。心地いいスタンの重さ。
スタンの唇はチョコレートの味がする。さっきまで飲んでいたココアの味だ。押し入ってくる舌を迎えて、喉を鳴らして唾液をすする。チョコレートの下からスタンのほんのり甘い味が出てくるまで、丹念に。スタンの舌はいつもより少し冷たい気がする。ちゃぷちゃぷと唾液の音が頭に響いて、まるで溺れているような錯覚に陥る。
舌の根元を吸われる頃には、腰がどうしようもなく揺れてしまっていた。
「ね、しよ」
僕は内緒話をするみたいに声を潜めた。
「さっき濡れタオルで拭いたから綺麗だよ」
スタンは、ちぇ、と口を尖らせる。
「お前ほんとにそういうとこ抜け目ないよな。残念」
カイルの匂い、好きなのにさ。そう言われれば嬉しいけれど。
スタンの手が、僕のパジャマの襟から忍び入ってくる。これから僕らがすることと、カートゥーンプリントの生地のギャップが、じりじりと思考を焦がしていく。ティーンの女の子がママに黙って彼氏を部屋に連れ込むときだってこんなにエキサイティングじゃないだろう。

薄い胸の肉を柔らかく揉んでいた手が思い出したように乳首を探り当てて、爪で弾かれて僕は唇を噛んだ。
「んう、」
風邪のせいか、刺激が肌の上にオブラートを一枚かぶせたみたいに少し遠い。散々いじられてじんじん痺れてきたころ、スタンががばと身体を起こしてジャンパーを脱いだ。それからジーンズから足を抜く。僕ももたもたと、背中のあたりでたぐまっているパジャマから腕を抜いた。ボクサーだけになったスタンが、僕の下半身を覆っていた毛布を剥ぐ。腰を浮かせれば、パジャマのウエストをつかんで、アンダーウェアごと脱がせてくれた。後ろに放り投げられたそれがばさとベッドの端から落ちる音。本格的に肌を合わせて、汗ばんだその感触に溜息が洩れる。
僕の前を探ったスタンが首をかしげた。
「あれ、ヘンだな」
いつもならもう勃ってるのにさ。そう言われて僕は首をすくめた。熱のせいだろうか。
「でも、気持ちいいよ、んっ、」
柔らかく手のひらで握られれば、じきに芯が育ち、ぬめりを帯びてくる。
「ほんとだ、固くなってきた」
「あん、ッ、」
親指の腹が僕の剥きだしの亀頭を擦って、じんとした痺れが下半身を怠くする。
僕は喘ぎながらも膝でスタンの股間を下着越しに撫でた。
「ね、これ。スタンの、舐めたい」
「俺のは洗ってないけど」
スタンがにやにや笑うから、僕はもどかしくて首を振った。
「いいってば、」
語尾が甘えたように伸びる。
スタンは僕の身体を起こすと、胡坐をかいた自分の股座に僕の頭を導いた。僕はプレゼントのラッピングを破くみたいな、はやる気持ちを抑えながら、下着から立ち上がりかけたそれを取り出した。数日ぶりに見るそれが、愛しくて仕方がなくてキスをする。それから口を大きく開けて、いっぱいに頬張った。
普段よりも匂いがしない気がするのは、僕の鼻がバカになっているせいかな。
「ん、カイルの口の中、熱い」
スタンの声が上ずるたび、僕の腰にまで響く。僕のくせっ毛に絡むスタンの指がいとおしい。
喉の奥まで思いきり飲み込んで、繋がっているときの動きを模して動く。
スタンの息が荒くなってきて、僕の髪を掴む手に力が入って、内股の筋肉がぴくりとして。もうすぐ濃いミルクが出てくる。僕はペニスを、アイスバーみたいに夢中でしゃぶった。
「ちょ、タイムタイム!」
不意に頭をぐいと引っ張られ、ペニスが口の中から逃げていってしまった。身体をひっくりかえされて、ベッドに背中を押しつけられる。
天井と、僕に覆いかぶさるスタンのきらきらしたブルーの瞳。最高に面白い玩具を見つけた時のそれに似て、けれどそこにはもっと凶暴な何かが潜んでいて、僕の胸は早鐘を打ち始める。
「ちゃんと、カイルの中でイきたい、」
舌舐めずりするみたいな顔でスタンが言うから、僕は軽いめまいに襲われた。

「ん、…あ、ウ、んっ」
目を瞑って、スタンの指がクリームを使って僕のそこを拓いていくのをじれったく待つ。近くと遠くで、粘着質な水音が競うように立つ。舌を絡ませて、息継ぎの間にスタンが言った。
「変な味、」
眉を寄せるので僕は笑ってしまった。
「スタンの味だよ」

スタンが僕の足を割って腰を進めてきた。内股に熱い、滑った感触があって僕は期待で身を竦める。入口を探って、捉えて、びちゃびちゃになったそこが触れ合って。ぐっと力が込められる。
「ふあ、ああっ」
じりじりと、這うように押し入ってくるそれが、僕を文字通り征服していく。
「締めるなっ、て」
「、って、スタンが、ァ」
どしん、と奥まで突かれて、頭がストロボを焚いたみたいに真っ白になった。
「ひゃあん、う、ン」
スタンの、杭みたいに固いそれが、僕の中をかきまわして好き勝手に暴く。弱いところを擦りあげられ、突かれるたびに、ばらばらになってしまいそうな衝撃が、下腹から全身に、びりびりと伝わる。どこかに飛んでいってしまいそう。
「ァ、あ、スタンっ、」
名前を呼べば、スタンが手を握っていてくれる。汗まみれのじっとりした掌。

僕らはお互いの身体に夢中だ。
入れるのも入れられるのも試したけれど、どうやらこの役割分担のほうが向いていて、お互い長い時間楽しめるということがわかってからは、ずっと僕が入れられるほうをしている。
僕は、こうして女の子みたいに喘ぐのが嫌いじゃない。
声変わりのしていない僕の声は甘ったるくて発情期の猫みたいに媚びてていやらしくて、それが僕の頭の中に響いて、上げているうちに自分でも興奮してくる。


最初はただの、他愛ない触りあいだった。

でも、繋がりながらキスすると、それだけで僕ら二人とも、前触れもなくイってしまった。
繋がりながら愛してる、って言うと、もっと凄くて、頭を素手で引っ掻き回されているみたいな、めちゃくちゃな衝撃で意識がホワイトアウトしてしまう。

いつだか隠れて吸った、マリファナ煙草だってとてもこんなふうにはならない。

「カイル、…イル、」
スタンの息遣いが耳元にかかるのが、熱なんかよりずっと僕を浮かして、吐きそうな快楽に僕の目からは涙が際限なく流れる。
「うー、ッ、うっ、」
スタンが握っている僕のペニスから、もう何度目かわからない精が吐き出される。
繋がっているところはもう元の形を忘れてしまったみたいにぐずぐずで、濡れた粘膜同士が空気を含んで酷い音を立てる。ペニスが出て行くたびに、内壁が追いかけて窄まるのが自分でもわかる。不随意筋までが浅ましい。
力任せに打ちつける、スタンの腰の動きがだんだん早くなってきて、僕の口からはもう悲鳴しか出てこない。
「すげえ、な、カイルのなか、生き物みたい」
スタンの口元が意地悪く持ちあげられる。そんな揶揄だって僕を煽るだけだ。
キスもうまく強請れない。スタンの首にしがみついて、顎にかじりつく。ふうふうと荒い息をこめかみで聞く。歯が掠る乱暴なキス、スタンが僕をかき抱けば中でペニスの角度が変わって、身を屈めたまま僕は悶えた。

スタンと僕の、汗も、精液も、涎も、みんなひとつになってて、どこから自分のものかわからないぐらい、スタンとひとつになってる。
その事実がどうしようもなく僕を焦がす。
僕の脳みそはもうとっくに、焼けて爛れて使い物にならなくなっているのだろう。

スタンが顎を反らして呻いた。ひときわ膨れたそれが、僕の内壁を広げる。
「ひゃ、ァ、んんんっ」
迸りを中で受けて、僕の身体はがくがくと歓喜に震える。



良識も倫理も信仰も誠実も、おおよそ優しさでさえも、
みんな遥か遠いところにあって、僕らはふたりで漂流している。
僕らもいつか、小さなころから僕らの上を通り過ぎていった、今はもうどこにあるかもわからないような、無数のおもちゃみたいに、お互いを忘れてしまう日がくるんだろうか?

この世にひとつぐらい、永遠があってもいいのに。
そしてそれが僕とスタンだったらいいのに。


繋がったところから、どろり、とスタンの精液が出て行く感触が切なくて、僕の口から捨てられた仔猫みたいな鳴き声が漏れた。



130320