朦朧としていた意識を、低く強い声が揺さぶる。 「起きろ、」 ぐ、と変な音が喉から漏れた。腫れぼったい瞼を持ち上げれば、一番見慣れた顔が至近距離にあった。 「寝ていいだなんて、言ってねえぞ」 かがんでこちらを覗き込む、近藤さんの口元が持ち上がるのを、暗がりで狭くなった視界でかろうじて認めて、それでおれは置かれた状況を改めて自覚した。 冷や水を浴びせられたように、頭がすうと醒めていく。縛られた後ろ手、親指に当たる木目の感触、柱には腰の下で固定されているようだ。身を思い切り前に出 そうとしても、尻の辺りで引っ張られる。折りたたまれ固定された膝、内股から尻肉に食い込む縄の先には縛り目があって、足首に繋がっている。自分の体の パーツを、ひとつひとつ確認するように追えば、うなじのあたりから忘れかけていた鳥肌が戻ってくる。 おれはもう長い時間、こうして柱に縛り付けられている。 この薄暗い納戸は近藤さんの私室のさらに奥に設けられたもので、普段は布団部屋として使っているところだ。声は籠って漏れることはない。 長時間不自然な体勢を強いられた体の軋みはだんだん麻痺に代わってきている。 脛や足の甲など、板張りの床に押し付けられたところに合わせて、肉体が変わってしまいそうな錯覚がある。もがけばもがくほど締まる、そういう縛り方だと分かってはいるのに、四肢の感覚が馬鹿になるのが怖くて、時折体をよじる。 少しの身じろぎでも窒息しそうな圧迫感が体を覆って、吐き気すら催しそうだ。呼吸も浅く、ぜいぜいと頼りなく気管が鳴る。 「、やまる、から」 おれはもう何度目になるかわからない懇願をした。からからの声は上ずって掠れている。 「たのむ、ほど、いて、」 「だから、何度も聞いてやってるだろう?」 膝立ちで腕を組む、近藤さんは聞き分けの悪い子供にするみたいに、軽い溜息をついた。 「何を、謝るんだ?」 問われておれは唇を噛んだ。 もうずっと、頭をフル回転させている。 昨日した行動を隅々まで思い返してみても、近藤さんの気分を害するようなことをした覚えなんかない。隠しごとなどこのひと相手にするわけもない。第一できるわけがないのだ。 射るような視線に耐えきれずに俯けば、近藤さんは肩を竦めた。 「そんなのもわからねえのか。呆れたもんだなぁ」 くく、と低く笑う近藤さんの声が、耳元で渦を巻く。そのまま三半規管を通って脳まで犯されているようで、思考がぐらぐらと揺さぶられる。 おれは疲弊と眠さとでとろけそうな瞼に鞭をうち、眇めて近藤さんに視線を戻した。近藤さんは再びおれのほうへ身体を傾けると、そっとおれの顎を取った。 「唇が乾いてるな」 唇をたどる指が熱い。 「水でも飲むか?」 とっさに喉が渇いた、と思ったけれど、思い直しておれは首を振った。もう首を振ることすら億劫だったけれど、ここで頷くわけにはいかなかった。 顎からそっと離れた近藤さんの手が降りるのを目で追う。手はおれの浴衣の下腹で止まり、優しく撫でた。その体温に慣れた体が安堵に力を抜きそうになるのに耐える。 ぶるりと背筋を冷たいものが伝う。おれは必死で喉を引き攣らせた。 「、んどう、さん、んじょ、」 「ん?」 「便所、かせて、くれ、…た、のむ、」 「便所に?へえ?」 近藤さんは大仰に首を竦める。 「トシ、お前は尋問中に便所に行かせてくれと云われて、行かせるか?」 「……な、」 おれは絶句して息をのむ。近藤さんはなんでもないことのように言った。 「なあに、俺とお前の仲だ。恥ずかしくもねえだろう」 近藤さんの指が、布越しに俺の下生えをくすぐるように撫でる。 「ぐ、う、」 生理的な衝動が、腹の底のほうからじくりじくりと競りあがる。おれは腰を震わせ、尻たぶを自分の踵で押すようにして堪える。 近藤さんの掌にじりじりと力がこもってきて、おれは目を見開いた。 「う、うあ、あ」 圧迫感が次第に強くなってくる。ぱんぱんになった水風船を押されているようないやな錯覚がして、激しく首を振る。 「ほら、我慢をするな」 近藤さんの声が耳元で囁くのと、おれの内股が痙攣したのは同時だった。 「う、っぐ、ふう、」 なけなしの筋肉が痺れて弛緩していく。 ばしゃ、という破裂音。次いでじょろじょろという耳を塞ぎたくなるような音が耳を衝いた。 下半身から立ち上る臭気と生温さ。下帯も着物も水を吸って重い。濡れて気持ちが悪い。足首にまで達した水たまりが、縄に染み込んできて縮む。 「う、うう、」 羞恥と解放感に目が眩む。目交いの近藤さんから必死で顔をそむけると、近藤さんは喉で嗤った。 「いいザマだな、トシ」 「ア、」 近藤さんの煽るような声に、自分でもびっくりするほど頭に血が上る。 「興奮してるんだろう?お前だって」 違うとはとても言えなかった。 「縛られて小便漏らして、見られて興奮するなんざ、とんだ好きものだ、なあ」 今度こそ明確な意思を持った指は濡れた着物を割って、内股へと侵入する。 「ほら、もうこんなになってやがる」 下帯の上から甘く撫でられておれは呻いた。おれの性器は自分でもわかるぐらいに熱く芯を持っている。 柔らかくくすぐっただけで、手はふと離れた。 「なあ、縛られてるだけで満足か?」 離れたことを、不服に思って腰が疼く。 近藤さんは自分の帯を緩めると、着物の前を開けた。 「こんな惨めな自分を、犯してほしいんだろう、なあ」 ぬらりと濡れて光る、近藤さんのそれは天を衝くばかりに反り返っていて、おれはごくりと喉を鳴らした。アンモニアの匂いと許容を超える羞恥に、なけなしの自我なんかもうすっかりどこかへ行ってしまっていた。弄られてもいない後腔が卑しくひくついている。 返事もできずにあくあくと口を開けば、溜まった涎が唇を伝う。 近藤さんの視線が促すようにおれの下半身を撫でたので、自由の効かない関節に鞭を打って、よじりながら膝を立てた。 股座を突き出すようにして近藤さんのほうへ寄せる。あのがちがちのどす黒いものを入れてほしくて、もうそれだけで頭はショートしたようになっている。 近藤さんは膝立ちで、腰をずいとこちらへ寄せてきた。顔に突きつけられて、近藤さんの淫水の匂いを間近で嗅いで、さらにおれの興奮は増す。 下から見上げた近藤さんは眉を寄せてほほ笑んで、それから言った。 「入れて貰えると、思ったか?」 それは鼻先を掠めただけで、近藤さんは半歩腰を引いた。 「悪い子にはお預けだ」 十センチほどの距離で、近藤さんの手が、近藤さんの浅黒い幹を扱き始める。 「や、ぁ、や」 おれは懇願するように首を振るけれど、舌先すら届かない。はふはふと、犬のような息遣いが耳元で聞こえて、それが自分のものだとわかって愕然とした。 だってこんなのってない。怒張をこんな近くで見せつけて、おれには指一本触ってくれないなんて酷い。 にちゃにちゃと鳴る厭らしい音。だんだん濃密になっていく雄の臭い。上体を思い切り屈めて、近藤さんのほうへと傾けるけれど、柱に縛られているせいでそれ以上は近寄れない。体中に縄が擦れる痛みなんかどうでもいいほど遠い。 「う、ふ、ぅぐ、」 リズミカルに動く、近藤さんのそれから目が離せない。それはおれの中に入っている時と同じだけの早さで動いていて、そう思ったらもう矢も楯もたまらなくなる。踵で自分の蕾を、かれの動きに合わせるように圧迫してもどかしい快楽を追う。 せり上がる尿意に似た何かを、今度はおれは我慢しなかった。 * 「……トシ」 静かな、近藤さんの低い声がおれを呼び覚ます。 「う、ん、出ちゃった、あ」 身体を包む脱力感と快楽の余韻を味わいながら、鼻声で返事をすれば、近藤さんの腕が乱暴におれの襟首を掴んだ。 「出ちゃった、じゃ、ねーだろ!オイ!起きろ!」 そのまま上半身を持ち上げられて、瞬く。やっと覚醒して目もとをこする。 「……?」 縛られていない。てゆうかおれ、寝てた? 掛け布団をがばと捲った近藤さんが、目を三角にして怒っている。 「こんっ、な、盛大に漏らしやがって!しかも俺の布団で!何なの?怖い夢でも見たの?」 「あれ、夢?」 なんだ、今までの全部夢か。勿体ない。 「俺の浴衣までびしょぬれなんですけど!ねえ!なんでそんな満足げなの?」 「だってあんたがここでしていいって」 夢の中のあんたはとびきり意地悪で優しかったのになぁ。余韻がもったいなくて唇を尖らせれば、現実の近藤さんは喚いた。 「言ってねえ!俺はそんなこと一言も言ってねえ!」 110324 *** おいしいオカマをいただいたのでお礼として Chocoholicのさとうさんにおしつけたものです 他人様のフェチズムに寄り添おうとして 盛大に滑ってorzすみませんでした… まだまだ修行が足りませんでしたがんばります( ´皿`) |