としのはじめの


「ふう」
紋付きは肩が凝っていけない。衣紋掛けに羽織をかけて壁に吊す。
本丸だの本庁だのの年始挨拶を済ませ、自室に戻ったのは三時を回った先程。頭を下げて廻っただけなのに、実働したときよりも疲れた気がする。
一応警察組織の頭になんざ収まっちゃいるが、根が田舎侍なものだから、ああいう堅苦しい雰囲気の場所はいつまでたっても不得手だ。

でもこれで元日の仕事は終わったも同然。事件でも起こらない限り、広間で昼間っからやっているどんちゃん騒ぎに合流できる。
着流しの襟を整えたところで、襖の向こうから悲痛な叫び声が届いた。

「局長ォォ」
忙しない足音と共に襖がガタガタ開く。
頬を押さえた山崎が転がり込んできた。
「ど、どうした」
「副長が、副長がァ」
ぜいぜいと喘ぐような息の下から、絶え絶えに訴える。

「お屠蘇飲んで大虎に…」




「だから飲ませちゃダメって云ったでしょォォ」
廊下を全力疾走しながら、併走する山崎を咎める。
「俺らだって必死で止めましたよォ」
半泣きで言い募る、その言葉に嘘偽りはないだろう。
強か殴られたのか、顔が腫れ上がって酷いことになっている。

元々酒に強いとは云えないトシだが、正月の屠蘇では覿面に悪酔いする。
吼える、暴れる、あと一歩間違えたら死人が出る。そしてそうなると俺以外では大人しくさせられない。


宴会場の襖を力任せに引くと、想像以上に酷い光景が広がっていた。
真剣は壁に刺さり、障子は吹き飛び、掛け軸は破れ、卓はひっくり返り、まるで竜巻でも通ったかのような有様だ。
隊士に遠巻きにされてその中心に、元凶であるところのトシがいた。
ボロボロになりながらトシを羽交い締めていた原田が、俺を認めてほっとした表情になる。

「こんどうさん」
トシはこちらに気づくとだらりと腕を下ろし、原田を振り払うとこちらにめがけてふらふら近寄ってきた。

胸にどすりと体重を預けて云うには。
「こいつら、よってたかって、お、れのこと、襲って、きて」
怖かったァ、と襟の辺りにほおずる。

「誰が襲うか!」
「死ね!」
つっこみが四方から飛んでくる。どう見ても襲われたのは彼らの方である。
トシの肩を支えながら見渡すと、部屋の隅で救護班があくせく包帯を巻いている。
「ケガ人は」
「重傷者はいないです」
救護班長の力強い返事にひとまず胸をなで下ろす。
「み、みんなごめんな、世話かけたな」
条件反射で謝ると、局長のせいじゃ、と口々に慰めてくれる。
とにかくこいつをこの場から隔離しないことには宴会どころじゃないだろう。
うにゃうにゃ云っているトシを引きずって、その場を後にした。





どうにかトシの部屋までは連れてきたけれど、布団を敷こうと膝をついたら、その上にコアラよろしく乗り上げてきて頑として動かなくなった。

「トシ。トシ、離れなさい」
真っ赤な目元とアルコールの匂い。俺はうんざりして云った。
「なんでェ」
「いいから。水飲もう、な」
コップを口元に持っていくけれど、顔を大仰に逸らす。
代わりに俺の頬に唇を押しつけてくる。酒くっせぇ。
「いい加減にしなさい」
びしりと強い語調で言うと、トシは急に顔を歪めた。堤防が決壊したみたいに涙が零れる。

「わ、あわ」
べそべそと泣きじゃくられ、慌てて子供をあやすみたいに身体を抱き込んで揺らした。
「ご、ごめん、言い過ぎた」
そんなに酷いことを云った憶えはなかったけれど、泣かれたら謝るしかない。
しばらくしゃくり上げていたトシは、十回目のごめん辺りで漸く瞼を擦った。
「……たら、ゆるす」
「え?」
半勃ちになった腰を押しつけて、真っ赤になった目でこちらを見上げる。
「、きもちよく、してくれたら、ゆるしてやる」
女の子がやったら色っぽいんだろうけど、トシがやると凄みが勝って半分別の意味で背筋がぞくりとした。
どちらにしろ選択の余地なんかないんだろう。俺は、わかったよ、と応えて額に口づけてやった。
してやったりといわんばかりに上がる口角。ボークン、そんな単語が不意に脳裏に浮かんで消えた。どんな漢字書くんだっけなぁ。



首ったまにひっついて動かないから、どこから触っていいものやら悩ましい。
裾を割りそろりと内股を撫で上げれば、背中が仰け反った。
「あーッ」
甲高い声にびっくりしたけれど、感じ入っただけのようだ。追って覆い被さる。
耳朶を食み、掌の腹で突起を潰すように弄う。
「ぅ、はふ、」
今日はどこもかしこも熱い。トシはいつも体温が低いから、熱でもあるのかと心配になるほどだ。


「ひゃ、」
脇から手を入れると、下着の中はもうがちがちになっている。二、三度扱いて根本をきつめに握った。
トシの着物の袂を探って、軟膏のチューブを取り出す。
「んん」
呼吸が浅くなったのを見計らって、入り口をなぞり、慣れた手つきで中を拓いていく。二本目が入った辺りでトシが、とんと俺の肩を軽く押した。
「指、や、」
首を何度も振る。ポーズの拒絶ではないようだったので、俺は動きを止めて応えた。
「んだよ、だって慣らさないと」
するとトシは荒い息で、おかしなことを云いだした。
「なめて」

一瞬意味がわからなかった。思い至って、思わず変な声が出た。
「えー」
さすがにそっちを口淫したことはない。
「あらっ、た、から」
のぼせきったような表情で言い募られ、致し方無しに頭を下ろした。
温もったそこは軟膏の変な味がしたけれど、構わず指で拡げて舌を這わせる。
奥まで舌を尖らせれば、気持ちがいいのか俺の後頭部を抱えてぐいぐいと押しつける。
睾丸ごとくわえ、口元をべたべたにしながら、俺は暫し愛撫に没頭した。
「あ、ア、ーッ」
出し抜けに腰ががくがくと跳ねたので顔を上げると、放心状態でとろんとした表情のトシと目が合う。
緩めた隙にいってしまったらしい。左手の中ではくたりとした陰茎が、白濁を零してひくついていた。



「う、…ふ、」
余韻でぶるりと震わせる、力の抜けた身体に、腹の底からどくりと欲が上ってきた。
もどかしく前をはだけ、限界まで高ぶった自身を取り出す。

爛れたように紅いそこに、灼けて黒ずんだ性器を宛う。卑猥な色のコントラストに頭の芯が痺れたようになる。
「ひゃ、」
切っ先が潜ったところで内壁が収斂し、ぐずりと音が立ち、危うく達してしまいそうになって歯を食いしばった。
弛緩した筋肉を突き崩すように、根本まで一気に割り裂く。
とろとろに溶けた隧道が厭らしく絡みついてくるのを振り切るように抉る。
「ひ、ぐ、ゥ」
声にならない咆吼が取り込まれたそこに響いて、そのたびどんどん頭に血が上っていく。快感に圧倒され寄せられた、トシの眉根がひくりと揺れた。
「こわれ、る、ァ、」
自分でも何を口走っているかわからないのだろう。そんなことを云って煽るものだから、更に動きが乱暴になってしまう。
容赦なく腰を打ち付ければ、びしゃ、びしゃ、と酷い水音が立って、トシの上げる声がもっと拉げた。もう泣いているのと変わりがない。
間もなく膝頭ががくがくと揺れて、潰れた声帯が震えた。
「…っく、いく、ゥ」





敷いてやった布団ですぅすぅ寝息を立てるトシを横目に、俺は肩をぐるりと回した。首筋がバキバキ云う音。新年早々がんばりすぎてしまったようだ。
対するトシは気持ちよさそうに高鼾。考えてみたら絶対計算ずくだ。屠蘇飲んだらどんなことになるか憶えてないはずもないのに。
ハメたのはこっちだけどハメられたっていうか、まあでもそんなのはいつものことだ。


雪見障子を上げて外を伺えば、もうとっぷり日は暮れていた。まだ続いているのか宴会のざわめきが遠くで聞こえる。
踝の辺りに冷たい風を感じ、ふと見遣ると襖がちょっと開いている。閉めようと近づくと、すぐ外の廊下に膳が一人前据えてあった。
『おつとめお疲れ様です』
膳の足の所に、山崎らしい神経質な筆跡でそう一言添えられている。心遣いに泣きたくなった。


部屋の中に引き入れて、冷めたそれに箸を付ける。
お節の重から抜いてきたのか、黒豆やら煮染めやら。冷めていてもなかなか美味い。
そう言えば昼から何にも食っていなかった。

トシもそうだろうな。目が覚めたときのために半分残しておいてやろう。
何の夢を見ているんだか、むふむふと変な笑い方をしている。小さくふきだして、前髪をそっと掻き上げた。なんだかんだ云っても、寝顔だけは可愛らしいと思う。

「今年もよろしく、な」


トシの口元がさらにだらしなく緩んだように見えたんだけども、これも気のせいなんだろうか。




080102