そもそもおれたちの考えつくことなんざたかが知れている。 足りない頭を絞ったってわかることは限られていて、 わかったと思っていることだってただそう思いこんでいるだけだったりする。 こいつといるときよく、そんなことを考える。 とっくりを鼻先でぶらぶらさせて、中でちゃぷちゃぷ云う音が聞こえなくなったのにようやく気づいた。 「おばちゃーん、もう一本」 飲みすぎだよ、あきれた声とともに、眼前に新しいのが置かれる。 隣でトシが、ふー、と煙を吐いた。 「ちょっとトシくん」 「何だ」 俺の苦悩もどこ吹く風だと云わんばかりに涼しいカオしちゃってさ。足なんか組んじゃってさ。カンジ悪ィの。 「ザ・ハートブロークン・いさお2007第三十回だよ?もっと気合入れて慰めなさいよォ」 トシはフンと鼻で笑った。 「気合ってなんだよ」 「えーと、例えば、夕陽に向かって走ってみるとか」 言葉に詰まってぼそぼそ云ったけれど、こいつはどうやら俺の話を聞く気なんか毛頭ないらしい。 「こっちももう一本」 なにげに隣でピッチを上げている。大概遠慮がない。オゴリだと思いやがって。 「あー。なんでこんなにモテないんかなぁ」 背中を丸めてぼやくとトシが縁起でもないことを云う。 「あんたは男運で運を使い尽くしたからなんじゃねぇの」 「うううん」 まあ確かに仲間連中には恵まれたと思うけども。 「ひとりくらい女の子も欲しいィィ」 いやいやをするように身体を左右に振る。 「メスならどうにかなるかもしれんがもう女はあきらめろ」 「ひっど!トシひっど!!」 諦めが悪ィんだよ。 吐き捨て、トシは煙草を俺の取り皿の端で揉み消した。 そこ灰皿じゃないんだけど。 「毎回毎回毎回毎回フラれては」 「ちょ、毎回言いすぎ」 「結局おれとこうして飲んでるじゃねェか」 言い返せずに口を尖らせる。 「もう運命なんだよ」 なんかまたよくわかんないこと言い出した。 トシの目元も赤くなって座っている。 まあトシがよくわかんないこと言い出すのは酔っ払ってるときに限らないけど。 「ですちにー?」 なんか響きがかっこいいな。 「わかんねェな、アンタも」 もどかしそうにぐぅと喉を鳴らす。にゃんこみたい。 「だからさ」 自信たっぷりににやりと笑う。厭らしい笑い方なのに決まっちゃってる。やだな、色男はこれだから。おれはぼっとした頭で暫し見とれた。 形の整った唇がゆっくり動く。ゆっくりに見えるのは酔いのせいかもしれない。 「あんたはおれのことが好きなんだよ」 重たくなった瞼で瞬く。 「そうなんかなぁ」 「そうだ」 力強く断言されたら、なんだかそんなような気分になってしまう。 繰り返し繰り返し刷り込まれた結論が、鈍くなった思考と相まって、俺の頭を侵食していく。がりがりと削り取られていくような、そんな錯覚に囚われて、俺は前のめってがつんと額をカウンターにぶつけた。すごい音がしたけどあんまり痛みは感じなかった。 視界がだんだん狭まっていく。ああ、瞼が下りてきてるのか。 ここでつぶれたらどうなんだろ。なんかでもいつもこんなことを繰り返してる気がする。ぐるぐるぐるぐるした挙句毎回こいつんとこ戻ってきちゃうの。そうか、これがですちにーか。 隣でトシが笑ったような気がしたけれど、もう俺には確かめる術もなかった。 071016 |