最後のリボンが指を使わずほどけたの



どぎついピンクのリボンに視界がちかちかする。
おニューだぞ、これ、と言いながら、嬉々として着物の前を開いたトシに、俺は意を決して唾を飲んだ。
「トシ、あのさ」

そろそろ。いい加減。言わないと、このままこの事態が永遠に続いてしまう。これではいけない。
だってちょっとくらい渋い顔をしたところでこいつは全然めげないで通ってくるのだもの。

俺の顔色を眺め、トシは不機嫌そうに口元を歪める。
「んだよ、喜ばねえの」
俺はすうと息を呑んで、早口で言い募った。
「あのね、なんていうかね、そういうの履くのはいいけど、最低限マナーってものがあると思うのね、俺はね」
「マナー?」
ダメだ。遠まわしに言ったって全然ダメだ。俺は畳を払って、だん、と片膝を立てた。
「毛をね!剃ったほうがいいと思うの!俺は!」
語尾は悲痛に響いた。握り拳を身体の前で作っても、トシはきょとんとして俺を見ている。
「何で」
何で、と来たもんだ。俺は脱力しそうな肩に必死に力を入れた。
「いやなんでもクソも、」
その先はごにょごにょとなってしまった。
「普通女の子もっと無駄毛薄いでしょ、その女の子だってちゃんと処理してるんだよ、だからトシもさ、」

そりゃ俺に比べたら薄いほうだし、暗くしたら目立たないかもしれないけど。でもさあ、なんていうか気遣いっていうか。
トシは自分の下半身を眺めると、こくんと頷いた。
「そうか」
わかってくれたか、と期待のまなざしを向ける俺に、トシはこう言い放った。
「じゃあ近藤さん剃ってくれよ」
「は?」



なんでこうなったんだ。そう思いながらトシの足と向き合う。椅子に座ったトシは俺のほうに足をずいと突き出して、肘掛に頬杖なんかついちゃって悪びれない。

俺は咳払いをひとつすると、気を取り直してあわ立てたシャボンをトシの脹脛に塗り始めた。
「ん、」
「ヘンな声出すなよ!」
むずがって揺れる膝頭をしっかりおさえて、毛の流れに沿ってそっと安全剃刀を滑らせていく。
ほらつるつるになれば結構見れるんだぞ。まあそれにしたって骨格はごつごつしてるけどさ。なんつうか少し目をつぶってやれるというかそういうかんじ。

剃刀が内股に近づくにつれ、産毛に近いものになる。その先に視線をやって俺は、む、と唸った。
ええと、できればこの黒レースのぱんつのビキニラインから覗くアレもどうにかしたいんだけど。そう思いながら見つめていると、視線に気づいたのかトシは足を軽く開いて股間を指差した。
「ここも剃んの?」
「あ、ああ」
促されては仕方がない。太ももを抱えて、遠慮がちにシャボンを載せる。ちんポジを直して、尻たぶを指で押さえて、細心の注意で剃刀を持っていく。前の不自然な膨らみを凝視するのも気まずくて一瞬目を泳がせた瞬間、トシが声を上げた。
「あ、痛」
「ごめん、切ったか?」
慌てて手ぬぐいを絞り、泡を拭う。
「ヒリヒリする」
見えないけど小さい傷が出来てるかもしれない、ここ粘膜だし黴菌入ったらまずいかも。
「消毒しねえと」
棚の上にのっかっている薬箱を取ろうと腰を上げると、トシが俺の着物の襟を掴んだ。ひっぱられて振り向けば、
「舐めてくんねえの、」
ねだるような声音に、ああまたこのパターンかと脱力する。まあでもなんていうかこの展開は仕方ないというか、俺が剃ることに承諾したときから折り込み済みだった、わけ、で。


戸渡りを丁寧に舐めるけれど血の味はしなかった。袋の付け根を回って茂みに顔を埋め、生え際の薄い皮膚を舌先でくじる。緩慢な愛撫。
じゅる、と唾液の音がして、トシの喉が鳴った。
「あ、ア、」
「トシ、こえでかい」
股座からもごもご言えば、さらに感じ入ったようでかぶりを振る。
すでに育って天を仰ぐ幹をなだめるように摩る。先走りでべとべとだ。亀頭に親指が掠るとばねじかけのおもちゃみたいに腰がはねて白濁を噴き上げた。すんでのところで避けたが顔にいくらかはねてしまった。

やれやれと顔を離し、よだれと精液まみれの口元をぬぐう。生臭いそれを顔にかけられたのに、嫌悪よりも興奮が勝るのがおかしい。ずいぶん俺もいかれてしまったものだ。
尻たぶを抱えなおせば汗ばんだ肌がじとりと熱い。
軟膏をたっぷりつけた指で後腔を、ほぐすでもなく暴く。無造作に指を動かすだけで、べそべそとしゃくりあげる声、掠れて引き攣れる低音が俺の腰にもずくりと響く。
片手で下着から取り出したそれを、トシの浮かされたような目が追う。目尻に滲んだ涙に無暗にあおられる。
「ふう、う、ア、」
切っ先で緩く突けば、反射的に腰が逃げるのが俺の獣を駆る。締め付けを堪えて力任せに捩じ込むと、トシの食いしばった歯がちりと鳴った。
「ぐ、う」
蠕動する内壁に、ため息に似た喘ぎが俺の鼻を抜ける。
「く、」
「あう、あ、あ、」
俺の腕を掴もうとして立てられた爪が痛い。手首を強くとらえれば内部が戦慄く。

トシの膝にひっかかったサテンの生地が、肌の白に映えて、いつだか見たアダルトビデオとオーバーラップした。あ、やべ、ちょっとこれ興奮する。
「ひ、」
そう思ったら取りこまれた俺自身が力を増してしまったようで、締め付けに呻いた。
「つ、」
抵抗を振り払うように乱暴に腰を引く。勢いを借りて打ちつければ、断続的に悲鳴じみた声が上がる。
「んん、あ、や、ああ、ッ」
中を崩すように動いてやれば、半狂乱になって喉が反る。
粘液でぐずぐずの結合部から、ぱたぱたと粘液がシーツに落ちる。揺さぶられるトシの甘ったるい声、自分の獣じみた吐息に酔う。
「ふゥ、ン、」
耳を衝く水音をみっともないと思う、なけなしの理性すら性欲の餌だ。快感でこいつが狂おうが、こうなると残らず叩きつけるまで止まらない。



一通り後始末をして、ぐったりと四肢を投げ出すトシにふとんをかけてやる。はみだした足首にたぐまったぱんつが目に入って、なんとなく身の置き所がない気持ちになった。
トシが不ぞろいな息で、舌っ足らずに言った。
「なぁ、こ、ふん、した?」
わかってるだろうに、こいつは毎回こんなことを聞く。
「ん」
おざなりに答えて、額の汗をぬぐってやる。トシは、ふ、と満足げに息をついた。
「あんたが、剃ったほうが、い、なら、剃る」
そんな殊勝なせりふを受けて、俺は頭をがしがしと掻いた。
「あー、ああは言ったけどさ、やっぱりいいよ」
「、んで」
きょとんとするトシに、首を振ってみせる。別に俺、下着に興奮してるわけじゃないし、AVのおねえさん思い出しながらお前とセックスなんかしたくないし。
「抱いてるのはお前なんだから、お前だってわかるほうがいい」
そう言ったら、遅れてトシは顔を赤らめた。恥ずかしいのか口をへの字にして目を伏せるので、俺もちょっと照れくさくなって、ずっと頭をなでてやった。

そうだ、本質はそこじゃない。
女物履かないでくれたらいいだけの話なんだよ、まったく。



101105