パンツの中にいつだって本当の俺


「ハイッ、宴もたけなわになってまいりましたァ〜」
マイクの代わりにチーカマを持った永倉隊長が、赤ら顔で音頭をとる。
「それではいよいよ?」
「いっちゃう?いっちゃう?」
左右から促され、びしりと耳の横に腕をくっつけて挙手し、局長が立ちあがる。
「いちばんっ、近藤いさおっ」
「ハイッ、局長トップバッター、みなさんお待ちかねのォ」
仁王立ちになった局長は、威勢よく着物のあわせをガバッと開いた。もちろんその下はつけてない。
「ご開帳〜」
やんややんやと歓声が上がり、へべれけに酔った連中の、口笛、囃し声が場を渦巻く。
「抱いて〜」とかいう、この場に副長がいないと判っていてもおれの肩がびくついてしまうような野次は武田さんだ。あのひとも全く。


おれなんかは育ちがいいのでこの体育会系ノリにいつまで経ってもついていけない。ずっしりと重量感を持ってぶら下がるそれは確かに見事なものだけれど、だ けどさぁ。目のやり場に困ってまだグラスに一口残っていたビールをあおる。
おれは新人隊士が混じっていたことを思い出して、部屋の一角に目をやった。案の定。顎を畳につきそうなぐらいあんぐり開けて、局長の股間を凝視している。
おれは慌ててにじり寄り、後ろからフォローに回った。
「あ、驚いちゃったかな、ごめんね、品がなくて」
新人たちは視線を釘付けにしたまま、呆然と答える。
「あ、山崎さん、だ、大丈夫です…」
「こ、こういうノリなんですね…」
まあ確かにちょっと見ないぐらいには立派だかんな。おれも初めて見たときはビビってこんなかんじだったもの。でもそうだ、そのときは後ろから副長が、

「オイ」
真後ろから聞こえた声に、デジャヴを感じておれは肩を強張らせた。
ぎしりと振り向けば声の主は案の定眉間に皺を寄せまくった副長。今日は打ち合わせで遅くなるはずだと聞いてたのに。身構える間もなく近寄ってきた副長は俺 の身体をつきとばすようにどけ、新人ふたりの頭をガッと掴んで自分のほうに向けた。顎を突き出して口元を引き攣らせる、やくざもはだしで逃げ出しそうな眼 光。
「いつまで見てんだ、見せモンじゃねえんだよ」
いやどう見ても見せモンですけど。そんな正当なツッコミは通用しない。涙目でアワアワしている新人との間に割り込んで、おれは袂からぱんつを取り出した。 供えあれば憂いなし。
「ふ、副長!そんなことよりモトを断ちましょうよ。ここにぱんつあるんではかせてあげて下さい、」
ぞうさんの歌で盛り上がっている座の中心を指差す。副長は舌をひとつ打つと、しゃあねえ、と二人の頭をなぎ払うように離した。それからおれの手からふんど しをかっさらって大またでそちらへ向かった。
副長の殺気に当てられて腰を抜かしたのかうずくまったままの新人に、しどろもどろで説明をする。
「ええとね、ガン見するとあのひとキレるから、でも見てあげないと局長スネるから、なんていうか自然に、そこに生えている草のよーに自然なかんじで流して あげて」
「むっずかしいですね…」
新人くんは涙声を出した。ウンその、ゴメンね。



翌日午前中に訪れた局長室。ひとしきり出張の手配の確認を済ますと、雑談で昨日の宴会の話になったので、このタイミングだとおれは苦言を呈した。
「もう、毎回ヒヤヒヤもんなんですから。いい加減ガバガバ脱ぐのやめてくださいよ」
エヘヘー、と可愛くない声で頭をかいた局長は、ちょっとだけよォ、とシナを作り出した。アッホじゃねーの。思い切り冷めたまなざしを返す。
ちなみに局長的にはギャグのつもり、おれにとってはイヤガラセ、大多数の隊士には余興。更に云うなら実のところ一定数の隊士にとってはオカズ、更に副長に とっては、うん、皆まで言うまい。
「出したがるひとって、自信があるからなんですよね」
嫌味交じりにぼやけば、いやいや、と局長は首を振った。
「でかくったっていいことなんかないよ。女の子は嫌がられるしね。ボクサーとかだと納まり悪いし、洋装だとどうにも窮屈だし」
なるほど。でかいならでかいなりの苦労があるんだな。いやそんなのわかりたくもないけど。

「入るぜ」
出し抜けに、ノックもなく局長室の扉が引かれた。まあこの部屋にノックもなしで入ってくる人物なんざ知れている。副長のけだるそうな視線が、なんで居るん だ、と聞いている。
「あ、あの、それじゃ俺はこれで」
面倒ごとになる前に腰を上げようとすれば、まあまあ、と局長に引きとめられた。
「何、どしたのトシ」
局長が問うと、副長ははばかりもせずに言い放った。
「あんたのちんこ、雁の周りのブツブツがちょっとでっかくなった気がする。明日病院行け」
ぶ、と噴出してしまったおれに構わず、局長がえー、と頬を膨らます。
「前にお前に言われて通院したけど、このブツブツは病気じゃないから大丈夫って言われたじゃん」
「甘い!万が一ってことがあるだろ!コンジローマだったら困るだろ!おれが!」
性病っていうのは感染するんだ。なによりパートナーのことを思いやってだな、とひとくさり説教が始まった。耳を塞ぎたい。そんな気持ちでおれは膝の上に握 りこぶしを作った。
「風俗行ってないから大丈夫だと思うんだけど…」
「いいから念のため行って来い」
ぴしゃりと言い渡されて局長は、はぁい、と、親に怒られた小学生みたいな返事をした。
「明日の午前中に予約を入れとくからな。山崎、スケジュールの調整しとけ」


云うことだけ云ったら襖はスパンと閉まった。嵐のようだ。
「と、まああのように」
局長は副長の出て行った襖を示しながら口を開いた。
「明るいとこで見てもらうのにも利点はあるよね。ウン」
そういう感想なんだ。前向きすぎてびっくりするわ。
てかあのひと、局長のちんこの色艶形とかどんだけ正確に記憶してるんだ。こわい。
言いようのない寒気に襲われて自分の腕を抱けば、口元に手を当てた局長が、少し真面目な声になって云った。
「なぁ山崎」
「はい?」
「今おれ厭なこと思いついちゃったんだけど」
「はぁ」
しばしの沈黙の後、いっそう低い声が引き攣るように云う。
「前俺がゴリラんなったとき、アイツ俺のこと最初わかんなかったのに、オーバーオール脱いだらすぐわかったんだ」
「……」

「なあ、もしかしてアイツ俺のこと、ちんこで認識してるとか、ないよな?」
な?とすがるような目で見られたけれど、おれは首を振ることもできずに唇を舐めた。




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