ファニースウィートアゲイン


たまの休み、オフが重なったからと案内した店で、おれが勝手に頼んだ料理を前に、近藤さんは大きく、けれど わかりやすいため息をひとつついた。
珍しくトシがおごってくれるっていうから何かと思ったら。
まむしドリンクを人差し指でつつきながら腕を組む。
「お前の頭ん中、これしかねえの?」
おれはむっとして云った。
「失礼な。そんなんじゃねーよ。でも近藤さんが、」
「俺が何」
聞き返す近藤さんの声音は硬い。ふざけてないのがわかって、続く言葉はごにょごにょと蟠る。
「まあ、うなぎに罪はないけど」
近藤さんは重を抱えるとかっ込み始めた。続いてドリンク剤を一口で飲み干す。
ビンを置くとガタンと席を立った。それからおれの腕をぐいと掴む。横顔は厳しく唇は引き結ばれており、おれには黙ってついていく他なかった。



けばけばしいネオンサインを見上げておれはぽかんと口を開けた。
連れ込み茶屋じゃねえか。
いや、嬉しくないって言ったら嘘になるけど、でも。
近藤さんはうろたえてきょろきょろするおれを尻目にパネルのところで適当に部屋を選んでいる。わ、いまご宿泊のとこ押した。まだ七時なのに?

先立って歩く近藤さんの後をおっかなびっくりついていく。ラブホなんかめったに、それこそ数えるほどしか来たことがない。エレベータの中も近藤さんはずっと無言で、期待半分、あとは怪訝な気持ちでおれは複雑だった。


「うわっ」
部屋に入るなりベッドに突き飛ばされたかと思うと、重いからだがのしかかってきた。
「寝かさねえかんな。覚悟しろよ」
馬乗りになった彼を下から見上げたら目がぎらりと光ったので、
おれは言葉も忘れて瞬いた。

服を剥ぐしぐさがいつもより荒々しい。がっつかれて嬉しいはずなのにどこか本能的な恐怖が身体を竦ませる。あれよと言う間に下帯を残して全て剥ぎ取られていた。
「、う、」
乳首に歯を立てられ、腰骨までダイレクトに官能が響く。
むき出しの快感は全身に伝って肌を燻った。シーツに爪先を踏ん張ろうとするけれどうまくいかない。
そうこうするうちに左手が下帯を割って、無造作に探りはじめた。
「や、っと、ゆっくり」
性急な愛撫に対する抗議の声は聞き入れられず、代わりに指の輪が雁を強く圧迫する。かすれた悲鳴が漏れた。先端を乱暴にくじられて奥歯がかちかちと鳴る。

「ひゃ、」
いきなり下半身に冷たいものをぶちまけられて目を見開いた。見慣れたプラスチックの容器が近藤さんの右手にあって、液体の正体を知る。容器はすぐに後ろに放られて、右手がおれの後孔を苛み始める。
臍下にごっそりぶちまけられた潤滑油が、近藤さんとおれの肌に温まってどんどんいやらしい粘度になる。ぴちぴちと立ち上ってくる僅かな音に脳髄がじりじり炙られる。
指の腹が中のいいところに掠って思わず達してしまいそうになるのを、根元をきつく握られ塞き止められた。
「ふゥ、ッ、ぐ」
息苦しさに喘ぐと、近藤さんは無言でおれの膝を抱えた。
瞬間、ぬくんだそこに指とは比べ物にならない圧迫感が加わる。
「ーッ、ア」

いつもそこが痺れきるまで慣らされるものだから、こんなに違和感はない。歯を食いしばって馴染むのを待てば、近藤さんは身をかがめて、おれの額にキスをくれた。近藤さんもきついのか眉間にはしわがよっている。重なり合った胸板が汗ばむ、おれは夢中で近藤さんの背中に腕を回した。

間もなく近藤さんがずるりと腰を引いた。息を呑む間もなく、奥へと底が抜けるほどに突く。
「ひあ、ア」
壊されてしまうかと思うような衝撃に身悶える。攪拌する音がいやらしくて気が違いそうになる。喉のあたりまでかき回されている錯覚がする。喉からは潰れたようなみっともない声しか出ない。

前は近藤さんの左手に戒められたまま、埒をあけられない自分の欲望が身のうちに渦巻いて陰嚢は重くなるばかりだ。おれは身も世もなくかぶりを振った。前髪は汗でじっとりと張り付いている。
執拗に揺さぶられてどれくらい経っただろう、く、と近藤さんがうめいた。最奥に迸りを感じたのとおれの性器が解放されたのはほぼ同時だった。ふうと視界が白くなって、びしゃあと腹に自分の飛沫が生暖かく散った。


ずるりと肉塊が身体の中から出て行く感触。入り口からごぽりと精汁が零れる。
痺れるような余韻と虚脱に包まれ意識を放しそうになった瞬間、足首を掴んだ手にぐいと引っ張られた。

肩に足を担いだ、近藤さんはおれの身体をゆるく揺さぶった。
「ホラ、トシ、起きて」
返事も出来ずに空ろな視線を返すと、熟れきって力を失った蕾にまた張り詰めたものが押し当てられる。そんな、立て続けになんて持たない。
「ゥ、ぐ」
抗議の声を待たずに、濡れたそれが入り口を探った。達したばかりで痺れる内壁を容赦なく押し広げてどん詰まりまでを充たす。ぐちゅぐちゅとひどい水音が、ただでさえ限界に近い興奮を煽って頭が爆発しそう。
おれの弱いところを知り尽くした動きに、快感が行き過ぎて呼吸がうまく出来ない。

目の前が霞んできてまぶたが重い。薄く瞬けばぺちりと軽く頬を叩かれた。
「飛ぶな。ちゃんと声出せ」
促されて喉を震わせようとするけれど、ひ、ひ、と空気の掠れる音しか出ない。
どす、とひときわ大きく突き上げると動きがしばし止まった。止まると腹の中で脈が打っているのがわかって、生々しいのにどこか自分のものじゃないようなへんな感覚でおかしくなりそうだ。

「ほら、名前呼んで」
トシ、とかすれた声が耳朶を擽って脳天に抜ける。精管が熱く爛れてたまらない。言葉にならずにしゃくりあげれば、近藤さんは低く囁いた。
「泣いてもダメ」


しまいには足が攣って、内腿が痙攣して中もちっとも締められなくなって、気持ちいいのだか苦しいのだかわからない状態だったけれど、
おれを抉る近藤さんの熱い幹がずっと硬かったのでもうどうでもよくなった。
熱に浮かされて死んじゃう、と口走った、それは願望だったのかもしれない。




「ちょっとは懲りたか」
シャワーを浴びて帰ってきた近藤さんは、ベッドの端にどかりと座って云った。

シーツは全部ひどい有様になったので布団ごとめくって、ベッドマットにタオルだけ敷いた状態で横たえられているおれは息も絶え絶えで、返事も出来ずに枕につっぷした。
近藤さんはタオルでがしがしと髪の毛を拭きながら、ぼそりと云った。

「俺だって男だからセックス嫌いじゃねえけど、あんまりそればっか求められたら身体目当て?って思うし。気分よくねえよ」

近藤さんの声は不機嫌なときのそれで、
嫌われたかと思ったら不意に胸がぐうと詰まって、喉から短く嗚咽が漏れた。
「え、あ、」

好きで好きで好きで、一つに溶けていたいぐらい好きで、だから少しでも長い間繋がっていたくて、だってセックスより他に近藤さんを独占していられることが思いつかないんだ。身を離しているときはずっと、あんたに近づく何から何までに嫉妬していなきゃならない。近藤さんがおれで興奮して屹立させた、この世に一本しかないあれがおれのなかに入っていると思えば目も眩むほど幸せだし、安らかでいられる。

「ちょ、トシ、ずりーよ、泣くな」
宥めるように背中を上下する手の動き。声は動揺したようにぶれている、ああおれはこのひとが好きでしかたない。
ずるくったっていい、あんたを引き止めていられるならおれはどんなにみっともないことだってする。きっととっくにどこかの螺子が飛んでいるんだと思う。

辛抱強く背中を摩っていた近藤さんが、ふう、と観念したように漏らした。
「ほんとにお前は難儀なやつだ」
ほっとけねぇよ、と 語尾が笑っていたように聞こえたのは、たぶんおれの自惚れじゃない。



090908