「もう少し寝てろよ」 「……ん、ああ。しかしな、…肩以外は無事だ。トシにばかり任せているのも悪いだろう」 「いつものこったろーが。気にしなさんな。それより早く治してくれた方がありがたい。みんなアンタのこと心配してるんだぜ」 「お前はどうだ、トシ」 「は?」 「お前は、俺が早く治った方が嬉しいか」 「んな、な、決まってんじゃねーか。阿呆。くだらない事聞くなよ」 近藤が、俺の返事を聞いて嬉しそうに笑った。声は出していないが、腹筋の震えが触れている箇所から伝わってくる。俺は対面を保つためにわざとらしく鼻を鳴らし、顔を布地に埋めた。体温でぬくんだシーツは二人の汗を吸って少し湿っている。 不意に近藤の手が、俺の頭を撫でた。髪に指が絡み、無骨で剣を握るしか能のない掌が頭皮と髪をごちゃまぜに擦る。 「ごめんな」 「何が」 「お前の体を拭いてやれない。一緒に風呂にも入れない」 「あ、…ああ。まあ、そういうのは仕方ねぇだろ。怪我はお互い様だ」 怠い腰を押さえながら、俺は身を起こした。脱ぎ散らかした制服と、近藤の寝間着が布団の隅に追いやられている。 汗で貼り付いた前髪を近藤の指が撫で上げる。煙草を上着から拾い上げて唇にくわえると、俺も近藤の髪を適当に整えてやった。いつもならここで一緒に湯を浴びに行くところだが、近藤はしばらく風呂が無理だと医者に言われている。俺一人で行くしかないだろう。 先に怪我人の体を清めるべきだと、煙草に火をつけながら考える。包帯を取り替え、体を拭いて服を変えて風呂に行くべきだ。手順を決めると、畳んで積んである寝間着を一枚拝借して適当に羽織った。 「どこに行くんだ。風呂か?」 「タオルと湯を取りに行くんだよ」 「それは後でいいから、もう少しここにいてくれ。な?」 「ようやく熱が引いたとこだろ。ここで風邪なんかひかれたらたまったもんじゃねぇ」 「熱は火薬のせいだ。俺が冬場に風邪ひいた事があったか」 そう言って、羽織ったばかりの寝間着を引く近藤の腕に負け、俺は再びその体の脇に身を横たえた。火をつけたばかりの煙草を、引き寄せた灰皿の上に置く。 せめて汗ぐらいは拭いてやりたいと思ったが、背に腕を回され再度起き上がる事を断念する。この男の腕の中は居心地がよかった。汗が冷えて乾き、少し肌寒くなるまで暫くそうして側に転がっていた。 「なあ」 「何だ」 「寒くないか」 「先に服だけ着るか?」 近藤は返事のかわりに、仰向けに転がっていた体を横向きに変えた。肩の傷に障らないよう、包帯を巻いている方を上にして俺の体に腕を置く。 「こっちの方が暖かい」 「……近藤さん…」 何甘えた事ぬかしてやがる。 そう言ってやりたかったが、唇が震えて言葉にならなかった。 近藤の我儘を突っぱねる事ができないのは最早性分みたいなものだ。諦めて少し上へと体をずらし、甘えたがる近藤の頭を抱き寄せた。眠そうな吐息が肌を擽る。早く隊務に戻らなければという考えが頭を掠めたが、風呂に入る時間を削ればいいだろうとそれをすぐさまねじ伏せた。 「ガキみてぇな真似しやがって」 俺も少しくらい甘えてやりたい気分になって、鼻先にある頭に顔を埋めた。短くて硬い髪は、少し汗臭い。寝床は汚れたままだったが、気分は悪くなかった。多分この場所が、俺にとって一番幸福な寝床だからだろう。 じきに寝息をたてはじめた近藤の顔を、暫く間近から眺めていた。 抱き枕の役をそこらの布団と交代してやるのが惜しくなり、風呂を諦めて目を閉じる。 吸いそこねた煙草の火が、フィルターを焦がす匂いをさせていた。 |