誰のせいでもない雨が
しとりしとりと柔らかな、水の流れる音が耳を塞ぐ。 ゆううつな気持ちで仰げば、無数の水滴が窓ガラスの外を伝っている。 ガラス越しに届く光は弱弱しく屈折して、木目の床にゆらゆらと差し込んでいる。 空気を思い切り吸い込めば、水を吸った木の匂いがする。 こんなに降ってちゃ遊びにも行けない。あーあ。 寝転がっていたソファからぴょんと体を起こして、ギコギコと貧乏ゆすりの音を立てる椅子のほうへと呼びかけた。 「銀ちゃん」 「んー」 「なんか面白いことない」 「んー」 お昼のときに使っていた爪楊枝をまだ唇で上下させながら、生返事ばかりよこす。 眼中に入ってないみたいなのが気に食わなくて机によじのぼって、私は銀ちゃんの口からひょいと爪楊枝を取り上げた。 ギィと椅子が正面で止まって、わたしと目線の高さを合わせるように、銀ちゃんは両肘を机についた。 それからおもむろに、わたしの頭をぽんぽんと撫でた。なんだかキモチワルイ。 「悪いもんでも食べたアルか」 怪訝そうに眉をよせると、銀ちゃんは首を捻る。 「さあ、そうかもしんね」 イヤミに直球で返されたので、私は瞬いた。 「お腹痛いのカ」 「腹じゃなくてこのへん」 胸の辺りを摩って唸る。 「なんかもやもやする」 「二日酔いカ」 「昨日飲んでねーけど」 私も銀ちゃんの胸に手を添えた。そうしたら銀ちゃんは、壁にシミを見つけたときのような、無感動なトーンで呟いた。 「おまえ、ちっこいな手」 「あたり前アル」 私は鼻を鳴らした。銀ちゃんはまだ私の手を見ている。 「なんもかんも、違う」 ぼそりと呟いたのは、どこか呆然とした声だった。 ついと顎を浮かせて逸らす。私は銀ちゃんの視線の先を追った。 窓ガラスに映りこんだ、銀ちゃんと目が合う。 肌の色、髪の色。男と女。コドモとオトナ。 なんもかんも違う。 銀ちゃんはそういうけれど、私は違うと思う。 わたしたちはよく似てる。 力を揮えば人を傷つけてばかりで、その度自分も傷つくのに平気なふりをしているところ。 強がりばかりで臆病なところ。 手に入れたものを失うのが怖くて仕方ないところ。 私は上手く説明できなくって、下唇をかんだ。 私と銀ちゃんはそうして、ガラス越しに暫く見詰め合っていたけれど、ふたりとも上の空だった。 080921 |