夕焼けビター









さっきまでセックスをしていたソファに座って俺達はテレビを見ている


さっきまで身体の下で汗を吸っていた着物をかっちり着込んで

さっきまで精液で汚れていた床は綺麗に拭かれて

跡形なんてなにもない



時計は四時四十五分
ブラウン管の中では男女の愁嘆場が繰り広げられている。
俺はぼうっとした頭でセリフをなぞっていたのだけれど、
真横でバリン、と新八が煎餅を噛んだので最後の方はよく聞き取れなかった。
男女が見つめ合う。ひっしと抱き合う。
画面が暗転してエンディングテーマが流れ出す。


「オマエは聞かねぇの」
ボリボリという色気のない音の下から新八が気のない返事を寄越す。
「何を」

「『どういうつもりでこんな関係続けてるのよ』とか」
さっきのドラマのセリフを思い出しながら、声音を作る。
「『身体だけが目当てだったんでしょ』とか」


新八は喉で笑った。
「『ねえ好きって云って?』とか?」

俺は上手く笑えない。
「…そうそう」


「聞いてどうするんスか」
「や、知らねぇけど」
そこで会話は途切れた。俺達はまた所在なげに視線をブラウン管に戻す。


こいつは俺に何も聞かない。
俺がどうやって生きてきたのかも
幾つ命を奪ってきたのかも
何を考えてこいつを抱いてるのかも

何も聞かないから
なじりも責めもしないから不安になる

それはこいつの思いやりじゃないと思う。


セックスという行為を経ても俺達の距離は変わらない。
いつもどおりの会話。いつもどおりのテンポ。
馴れ合いもない。遠慮もない。

すごく際どい駆け引きだ、と思う。



考え事の途中で
「アホらしい」
新八がぼそりと云ったので、俺は思わず肩ごと振り向いた。

「言葉なんかじゃあんたも僕も何も変わらないでしょう」

俺は頷く事もできずに
それでも頭の中でああそうだ、違いないと呟いた。




これはゲームと似てる

そして俺の手札は全部あいつに見られてる
そんな気がしてならないんだ
そういつでも俺は今にも輪郭を取りそうな感情に必死で気付かないふりをしてる


五時の鐘がぼやけた音で鳴り始めた。
新八は俺を見透かしたかのように意地の悪い笑い方をして
「夕飯の支度しますね」
と席を立った。



俺は新八を追いかけそうな視線を逆方向にそらして、明後日の方向を睨んだ。
夕焼けはおもちゃみたいな色で、夕焼けにまで笑われているような気分になった。




   ほんとは

 判った振りをしてやりすごしてる俺をぶちこわしてそれで
 すべてを暴いて欲しい


そうしたら俺は喉のすぐ傍で引っかかってる言葉を押し出す事が出来るかもしれないのに。







モドル