ハニーハニー







みっともなく上がっていた息もやっと整ってきた。
ごろりと寝返りをして天井を仰ぐ。
ガラスと障子越しにちかちかと届く安っぽいネオンの光で、時折木目が照らされる。くすんだ茶色。煤けた梁。落ち着いてきた呼吸で、ひっひっふー、とやってみる。

左隣では布団に突っ伏した新八が指をティッシュで拭っている。
神経質というわけでもなく、手遊びになっているだけなんだろう。

視界の端でちらちらと動く肌色が気になって、おれはもごもごと口を動かす。
「なァさ」
声は思ったよりかすれていて自分で驚いた。

「もうやめない?こういうの」
新八はこちらについと顔を向け、一瞥だけしてすぐに戻した。
「それいつも云ってますよね」
口調は淡々としていたから、そうだな、と追従した。


セックスなんて甘くない。ものすごく気持ちがいいわけでもないし、なんだかやたらと粘度の高いものに巻き込まれていくようなそんな感じになる、それだけだ。
いつもどちらからとなく始まってしまう、惰性のようなもの。

事が終わるといつも、申し訳ないようなむずむずした気持ちになる。
何に申し訳がないのかもよくわからない。
襖を二枚隔てた向こうで寝ている神楽か、八町先で酔っ払いに酒を注いでるお妙にか、いつかこいつが貰う嫁さんか、無駄になっていく幾億の精子にか、
それとももっとキラキラした、アイとかコイとかそういうものへか、
全部のようでいてそのどれでもない。

いつかバチとか当たるんじゃねぇかな、柄にもないことを口走ったら、
あまり間髪を置かず、そうっスねとそっけない相槌が返ってきた。

つまらなそうな顔で指をいじる、こいつもきっと同じようなことを考えているような気がした。不思議と確信がある。
考えていることが同じなら、一人でいるのと同じじゃないか。ここには二人でいるはずなのに、ひとりぼっちになったみたいな錯覚がする。
どれだけ寂しいかわからない。


もやもやしたものをどうにか吐き出してしまいたい衝動に襲われて、おれは髪の毛をがしがしと掻いた。
こんなことしなくたって俺たちは十分近くにいられたのに。
よく考えずに伸ばしてしまった腕について、繋いでしまった身体について、考えたらだんだん胸が詰まってきた。
もう取り返しが付かないような、もう二度とふたりがふたりだった頃には戻れないような気がして、なんだか急に泣きたくなった。


布団の綿越しに伝わるかすかな体温が無性に心細くて、もしかするとこれを恋心と呼ぶのかも知れない。唐突にそんなことが浮かんで消えた。






モドル