よるのこどもたち
遠くで車の音がして、それから頭がだんだんはっきりしてきた。 薄目を開けて見た部屋はほの暗い。 すぐには時間が判らなくて、肘だけついてからだを起こした。 四時。まだ二度寝が出来る時間だ。 すぐ隣のふとんでは銀さんが身体を丸めている。 また横になろうとふとんを引っ張ると、小さなくしゃみみたいな音が耳に届いた。 振り向くとくぐもったような嗚咽が続く。 「…泣いて、る?」 まさかと思いながら呟くと、肩がひくりと動いた。 「ねえ銀さん、ちょっと」 屈み込んでからだを揺する。 「…っせェな、アレだ、その、なんだ」 鼻を啜りながら、声を掠らせながら、 こわい夢を見たと云った。 こっち見ンな、そう云って向けた背中があんまり可哀想だったから。 腕は無意識に伸びていた。 小さい子をあやすように撫でる。髪は見た目より固くて少しごわごわしていた。 「こわくないですよ」 僕はおとなになったら泣くことなんて、ましてやこわい夢を見て泣くことなんてないと思ってた。だからびっくりして、同時になぜだかとても心細くなった。 僕は自分に言い聞かせたかったのかもしれない。 「僕、ついてますから」 顔を覗き込むようにして云うと、銀さんは顔を覆っていた拳をずらした。 至近距離で目があって、それで僕は うさぎの目みたいだと思った。 布団に潜り込んでくる体温が日常になって、どれくらい経つだろう。 銀さんの手はぎこちなく動く。 これは恋人のそれじゃない。縋りあうための。淋しさを紛らわすための。 肌が直に触れ合う。体温がそこでひとつになる。そんなこと僕はそれまで知らなかった。 遠慮がちに中を探る指に、腰が浮いてしまう。 抱き合ってる間はずっと浮遊感にとらわれて振り払えないのに、そこだけがリアルに感覚を襲って、頭の芯がぼうっとしてくる。 僕らはかくれんぼをしているみたいに息を潜め合っている。 違和感より痺れが勝って来るころ指が離れる。間もなく熱が割り込んでくる。僕は眉を顰めて待つ。 大きく息をはく。それに合わせるように、入り口に当たったものが押し入ってくる。 歯を食いしばっても吐息が漏れてしまうのが後ろめたい。 奥歯を噛んだらおなかに力が入ってしまったようで、銀さんが喉で呻いた。 揺すられると、太い部分が中でひっかかって、僕はすぐに達してしまいそうになる。 てのひらをシーツにつっぱる。シーツは背中でくしゃくしゃになっていく。 このいびつなセックスにも、 比喩じゃなく甘いキスにも、僕は慣れてしまった。 銀さんは身体を離すのを厭がる。いつまでも僕の腰に抱きついたままでいる。 彼が寝付いてしまうまで横になれない。突き放す気にもなれないからしかたがない。 「俺ァオマエのことなんか好きじゃないから」 ふてた子供のように、腰でぼそりと銀さんが云う。骨に響いてくすぐったい。 「はいはい」 僕は呆れた声音をつくる。 銀さんは臆病でさびしいおとなで、 僕は卑怯でずるいこどもだ。 「好きなんかじゃねェから」 「二回云いましたよ」 軽く笑うと銀さんは少し怒ったように云った。 「噴き出すなよ、ちくしょ、」 むくりと起きあがる。僕のおでこのあたりで噛みつくように吐き出す。 「笑い事じゃねェんだよ」 「…そうスね」 今にも泣き出しそうな銀さんの眉間に、僕の鼻の裏にもつうんとしたものがせりあがってきた。 銀さんの見てるこわい夢がどんなものか、 銀さんが何に怖がってるのか僕には薄々わかっている。 でも僕はこどもだからどうしてあげればいいかわからない ちくちくと刺す痛みをこの胸が塞がりそうな哀れみを僕はどうしたらいいかわからなくて それで銀さんの袖をぎゅうと掴んだ。 ただ暗がりの中で銀さんの虹彩があんまり鮮やかだったから、 僕は細めた目をそらせずにいた。 |