「パー子ほんとウゼェ。アイツブスのくせに勘違いしすぎ」
詮無いグチを吐きながらどすどすとがに股で歩く、トシはほんとにオカマに向いてないなと思う。しぐさに女らしさがまるでない。本人にらしく振舞おうとする意識すらないのだから当たり前なのだけれど。

長期の張り込みのため山崎を連れて行った先のオカマバーで『アンタは似合わなさそうだもんね』などと万事屋に挑発されて、自分が代わりに張り込むと言い出した。で、早半月。
化粧も着付けも自分で覚える気がなくてほとんど山崎にまかせっぱなしだし、媚を売るどころか接客態度も最悪だ。軽口を叩かれただけで客をボコにするとかで、ママから何度も苦情をいただいた。
ただこのぶっきらぼうなキャラが「そっけなくていい」と指名ゼロではない、らしい。真性Mの好みはよくわからない。

『目立たない』が鉄則の張り込みとしては失格もいいところだけれど。今は比較的立て込んでいない時期なのもあって、言い出したら聞かないトシのこと、こうして好きにやらせている。


今日も収穫はなかったらしい。延々と続いた万事屋の愚痴の後は、客への文句に移行する。
「今日ヘルプに付いた客。キミは可愛げがないね、とか云いやがって。根性焼き作ってやった」
鼻息の荒いトシに、そいつもわかってねぇな、と喉を鳴らす。
「そういうのがトシのかわいいとこじゃん、なぁ。」

トシ相手にならこんなこっぱずかしいせりふも噛まずに云える。し、これが通用するのがトシだけだとわかっている。

勢いをそがれたように口を噤み、
「なぁ」
ちょっと頬を赤らめたトシがこちらを見上げてきた。
「もうあの女の店いくのやめろよ」
ねだるような、トシにしては甘えた声音で言い募る。
「酒ならあの店来れば、おれがいくらだってついでやるから」
「んー、でも俺お妙さんがいいし」
さらりとかわせばトシはぶすっと頬を膨らます。
もう何度だって繰り返した会話。おんなじ流れ。

トシは自分で、こめかみの上の髪の束をちょいとひっぱった。ピンクのポンポンが揺れている。
「おれも髪の毛伸ばそうかな」
アンタがポニーテール好きだってわかってたら切らなかった。ぼやかれて俺は笑った。
「でも、どうなっても、トシはトシだから代わりにはなれないよ」

俺は相当酷いことを言っているのにそれをわかっているのかいないのか、トシはちょっとだけ首をひねった。それからこちらへ肩を寄せてくる。ちっともへこたれない。

俺のことが好きで、好きすぎてちょっとおかしくなってしまった可愛いいきもの。
俺は俺でちゃんとこいつを愛している。たぶんこいつが望むのとは別の方法で。


腹の前に、ずいと無言で出された手にやれやれと眉尻を下げる。
「はいはい」
指を絡めてやれば、触れ合った掌は思いのほか冷たかった。ぎゅうと握るとトシはふいとうつむいた。耳の辺りまで真っ赤になっているのが見て取れる。俺はちょっと覗き込んでやさしく訊いた。
「遠回りして帰ろうか?」
無言で、けれど大きくこくりと頷く。その様がまるで子供みたいで目を眇める。

こんなことでお前の気が済むのなら、いくらだって姫様扱いしてやろう。





090303
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